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人類の終焉  作者: 桐生学
3/5

三 原点なき者たち

一の※1にて実際に存在する政治団体の名前を誤って挙げてしまったため、修正しました。

食堂にはもう他の軍員も席について食事をとっていた。一条は食事を受け取ると、自分を呼ぶ、聞きなれた声を耳にする。


「一条、俺の横座れよ」


呼び声の主は仲本一士だった。


一条が席に腰を下ろすと、仲本は一条に喋りかけた。


「おはよう。どうした?うかぬ顔をして」


「お前も今朝の新聞に目を通しているだろう?」


「あぁ・・・・・・」


「こちらにはまったく余裕がないようだ。解散してまで即座に期限延長を決めたんだからな。」


「俺たちが駐留していたイラク東部はイランの猛攻にあっているからな。そして地理上あそこを落とされたらまずい。」


「イラク内部の反乱分子も掃討しなければいけない。あそこは今回の戦局を大きく左右する。」


「だが、砂漠の砂に紛れたゲリラ戦法にアメリカ軍は相当手こずっている。」


「空爆は無意味だからな。圧倒的物量に慢心していただけに、ここまで膠着するとは思ってもいなかっただろう。」


「そうだなぁ・・・・・・ところで、お前が気にしているのはそのことか?」


「・・・・・・」


仲本は続けて話す。


「お前が気にしているのは、それにもかかわらず、俺らがこんなところでのんきに朝飯を食べていることだろ。」


一条はは仲本から目をそらし、目の前に並ぶ食事に目をやった。


「政府が期限延長をしたのになぜ俺らは戻らない!そして・・・・・・」


「特別任務か・・・・・・」


「・・・・・・」


二人は腑に落ちない様子で食事を再開した。


一年の壮絶なる戦い、政府の解散、不可解な軍の動き、話題に困ることはなく、帰郷による精神的な安堵から軍員同士の会話がいたる所で聞こえ、ざわめきとなっていた。


仲本はもう食事を終え、


「ここの飯がこれほどうまく感じたのは初めてだ。」


「そうだなぁ・・・・・・」


彼らの会話が戦地の状況を語る。


仲本は立ち上がり、食事を下げに行こうとし、立ち上がったが、なにかを見つけ、即座に席に座りなおした。


「どうした?」


一条は仲本の方を向いた。仲本は驚きの表情を見せた。


「あれを見ろ。」


二人は食堂入り口の方に目を向ける。


「あれは・・・・・・」


ざわついた場に静けさが甦った。


そこにいた軍員、皆全て驚きの表情を隠せなかった。


なぜなら、この場に現れるはずのない人間が二人も現れたからだ。


「あれは山本一尉(※)と高木統合幕僚長・・・・・・」


山本一尉は先日、一条たちの部隊で指揮をとっていた男。容姿端麗、堂々とした風格の持ち主で人望も厚い。先日、アメリカ軍に別れの言葉を述べた。


高木は高齢ではあるが、生気を失っておらず、なおかつ知的。軍の最高士官としてふさわしい風格である。


山本と高木が前に立った時、軍員は既に皆起立していた。


「敬礼!」


山本は大きく力強い声を張り上げる。その言葉に続いて軍員は皆敬礼した。


敬礼が終わり、高木の話が始まった。


「まずは一年間ご苦労であった。君たちの部隊は今回の戦争で一番激しい、イラク戦線であり、初めて戦場という地に足を踏み入れ、戦争というものを初めて体験した。君たちの肉体的、精神的疲労は計り知れないものであっただろう。また駐留期間、我が方が落とされなかったのも、君たちのおかげであったであろう。誇りを持ってほしい。」


軍員全員が真剣なまなざしで高木の方へ目を向けていた。彼らは疲れを忘れたかのように、目を輝かしている。


「そして、君たちがなぜここにいるのか。なぜ私と彼がここにいるのか。皆が疑問に思っているだろう・・・・・・」


高木は一呼吸間をおいた。


「君たちに問おう。この戦争に意味があったのか?我々が終わらせなければいけないのか?我々に責任があるのか?戦う義務があるのか?」


また一呼吸間をおいた。


「友のため?海の向こうの友の国のため?では彼らはなんのために戦っているのか、そのことを我々は理解しているのだろうか?理解せずに友と呼び合えるのだろうか?」


軍員の中に動揺を見せ始める者も見られた。隣に立っている山本はいたって冷静な表情であった。


「目的など初めからなかったのだ。我々は・・・・・・」


呼吸をおくごとに高木の演説は強い口調に変わっていった。


「間違った方向に流されてはいけない。我が国の現状を見て驚いた者も多いだろう。政治は腐敗し、国民は困窮し、我々を根本的に否定する反戦デモも日に日に多くなってきている。」


高木のこの口調、リズム。この場にいた軍員は皆、高木の演説に知らず知らずのうちに魅入られていた。


「間違いは修正する。間違った者は粛清する。正しい方向に導く力を我々は持っている。君たちに未来を、あるべき姿を切り開いてほしい!」


当初感じていたが、そのうち考えるのをやめた疑問、欺瞞が再び軍員に甦った。高木の言葉はそんな彼らの心を打ち、心地のよいものであった。



※一尉=大尉に相当。

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