一 砂漠の戦場を後にして
処女作です。なので読みづらいかもしれませんが、是非読んでください。
最後に雨が降ったのはいつだったろうか。この砂漠には植物がほとんど生息しない。いや、生息できないのだ。日中は灼熱、夜は極寒の風。このあまりに過酷な砂漠、まさに地球の闇の部分と言ってもいいだろう。その闇が人類の行いによりますます黒くなっていく・・・・・・
2012年2月より第5次中東戦争(※1)が勃発し、イスラエルとパレスチナの対立を軸とした紛争はシリア、レバノン、イラク、イラン、サウジアラビアなどの周辺地域を巻き込み、アメリカがイスラエル側に参戦することにより規模も拡大していった。
日本の自衛軍(※2)もアメリカの要請により翌月出兵。アメリカ軍の補給を限定(※3)としているものの、第二次大戦以来初めて、そして去年の憲法改定(※4)からわずか一年足らずで戦争に踏み切ることになった。
本日3月2日、派兵の期限が切れ、一度帰国することになる。一年たった今も戦局は均衡、泥沼化していて、恐らく日本に帰り次第、政府が期限延長を決めるであろうという見通しが強いため、無論喜びを表現するものは誰一人としていない。
戦場から遠く離れた広大な砂漠に拠点を張り、アメリカ軍への物資補給、兵士の治療に徹するのみだったが、それだけでも我々の精神を衰弱させるに事足りるものだった。
疲弊した兵士の退廃した眼差し、負傷者の凄惨な姿、とりまく絶望感・・・・・・
また、敵軍が我々の拠点を攻め込むかもしれないという緊張感、恐怖、それはまさに戦場にいるのと同様だろう。まさに我々は戦争をしているのだ。
しかし、この暗闇の中、我々を灯し、導く一抹の光、強く、まぶしい篝火が存在した。
「ここまでわが方が疲弊しているということは、あちらも尋常でないはずだ。こういう戦局は気力が左右する。引いてはいけない。押し通した方が勝利を手にする。我々は決して屈しない。ゆえに我々は必ず勝つのだ。」
日本の自衛軍の士官である。無論彼は戦場に立つ人間ではない。彼は戦の指揮を執る人間でもない。彼にはこのような発言をする資格はないはずである。しかし、彼の声が疲弊した兵士の耳を傾けさせ、彼の姿が兵士の目を見遣らせる。端麗な容姿、内からみなぎる力強さ、兵士たちはその姿に目の輝きを取り戻し、息を吹き返す。
「友よ、我々はすぐに帰ってくる。その時にはこの戦に幕を下ろす。」
流暢、それでいて力のこもった英語で甦った友たちに別れを告げた。
一条一士(※5)は帰国の航空機の席に腰を下ろした時、緊張から解き放たれ、重い疲労感をズッシリと感じた。周りの人間も同様であり、皆、顔に疲労感が顕になっている。
(再びこの地獄に戻らねばならないのか・・・・・・)
胸に憂鬱を抱きながら、一方体は眠りにつこうとしていた。
「一年という歳月、大変ご苦労であった。たっぷりと休んでくれたまえ。そして奇なる縁のない限り、我々は二度とこの地に立つことはないであろう。」
(誰かが喋っている・・・・・・誰だ?そしていったい・・・・・・)
「日本に帰り次第、君たちには特別な任務が待っている。砂漠の戦に続き、少々酷ではあるが・・・・・・」
(特別任務・・・・・・)
意識が薄れる瞬間、微かに、しかしはっきりそう聞こえた。
※1 イスラエルがイスラム原理主義政党排除のためにパレスチナ自治区へ侵攻、イスラエルの占領により、生き残った党員とパレスチナの難民はヨルダンへ逃れた。イスラエルは残存党員完全排除のため、ヨルダンへ侵攻。また占領拡大のため、レバノンにも侵攻。それらに伴い、シリア、イランがイスラエルに宣戦布告。
※2 自衛軍=2011年、中華人民共和国の台湾侵攻の際に、防衛強化のため自衛隊から再編された軍隊。自衛隊と同様、他国の侵略から自国を防衛する軍隊で、自ら侵略、交戦はできない。台湾は同年、占領・合併された。
※3 この時点では集団的自衛権を有していない
※4 9条の「戦力不所持」の項を削除。
※5 一士=一等兵に相当。