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【番外編】優しさと強さは

 その手紙を開いた瞬間。私は寂しさよりも一番に、自分の甘さを嘆いた。そして同時に、何にでも立ち向かえるような強さが沸き起こったのである。







「国王陛下、国王陛下。至急の御手紙でございます!」


 薄い月の登る夜。自室で身体を休めようとしていたメルサテナ国王陛下の元に、二通の手紙が届けられた。


「こんな夜更けに……。至急とは一体どんなものだ」

「それが……差出人は――」


 申し訳なさそうに手紙を差し出す使用人は、そこで言葉を濁らす。


「まあまあ、急ぎの事だと言うのですから……。まずは中を観てみましょう」


 使用人が気まずそうな顔をしたのを見て、髪をいていたミリアナ王妃が国王陛下に助言した。

 助け船を貰った使用人は、その場で深く一礼すると、静かに部屋を出ていった。


「この折り鶴……差出人など見なくても容易に想像できますわね」


 手紙――やや焼けこげた折り鶴――を手に載せ、呆然と立ち尽くす国王陛下に向かって、ミリアナ王妃は優しく笑った。

 その言葉に溶かされたように、国王陛下は大きく息を吐き、額を抑えてベットに腰を下ろす。


「……あのバカ娘が。連絡もよこさずに何をしているのか」


 勇者軍の船が沈没したという報が届いてから丸三日。自身の娘の安否すら知らされずにごすにはあまりにも長い時間だった。

 この焼けこげた鶴は、正規の手紙のルートを使わず、無理やり魔術のバリアを通過してきた証拠だろう。ということは、彼女は未だマルサレニアに着いていないという事か。


 いくら王家の呪いにまみれた身だとしても、中身は他の人間とは変わらない。本心でいえば、娘が心配でたまらないのである。

 生存を確認出来た安堵と共に、正規ルートで手紙が送れない状況である事に心配を募らせる。


 一体中には何が記されているのだろう、と脅えながらすす汚れた折り鶴を開いた。


「……なんて事だ」


 まず初めに開いた方の用紙は手紙ではなく、契約書であった。

 驚き固まる国王陛下に、ミリアナ王妃は寄り添うようにして手紙をのぞき込む。


「クス……あらまあ」

「南大陸に、属国ができる……とな」


 その内容は、例のRESISTANCEレジスタンスの新国家建設の契約書であった。

 その後に書かれている四か条に目を通してみると、やや強引な契約事項が記されている。


「五年後に独立……ハハ。上手いこと言ったものさ。五年も配下に下れば、その国の色に染まるも当然であろう」


 だが、その下にきっちりと二名分の署名がされているのだから、これは契約という効力を持つ。


「流石は君の子だ」

「それはお褒めの言葉でよろしいのかしら?」


 不運に襲われてもなお、国の為にと動く小さな統べる者の性質は、凛と王の座の隣に立つ、母親譲りだろう。


「それ以外の何がある」


 微笑ましく思いながら、二枚目の折り鶴を開く。


「拝啓、乾燥する風が高く舞い、貴方様の御座おわす国へと海へ去り――」


 国王陛下がゆっくりとその内容を読み上げ始める。

 内容は主に、離れた自国への心配と近況報告から始まった。そして少しずつ重要な話へと入り組んでくる。


「別に送りました契約書は、未だ仮のものでございます。正式には調印をしたものを、再びプリアテンナのRESISTANCEレジスタンス、キール=ブリタニーへと飛ばして頂ければ幸いです。なお、プリアテンナには一切のバリアは貼られてない為、その心配は無用でございます」


 なるほど、そういう事かと、国王陛下は先程の契約書を手に取る。一応はこちらの判断も混ぜるの言うことか。何分なにぶん、南大陸に権力を進出させるのには申し分ない内容だった為、これらの契約に手を加える気はない。


「今回は偶然の漂着ひょうちゃくにより、南大陸に足を踏み入れました。しかし、これは大きなチャンスだと捉えておりました。なぜなら我々はこれからヴェネア様の力を集める為に、神殿を回らなければなりません。しかし、発見された神殿の数は未だ三つ。残りはまだ発見されておりません。では、残りはどこにあるのでしょうか」


 手紙を読み進めるうちに、国王陛下と王妃は関心していった。


「そうね。大陸が分断されたのは()()()百年前」

「テナレディス様が力を分散した時には、大陸は一つだったという事だ」


“今後の役に立つと思っての行動であります”


 そう続けられた文に、この契約書の意味が持たされる。


 こちらの手紙は二枚重ねになっていた為、国王陛下は紙をペラリとめくった。


「既に報はお聞きになっていらっしゃるかもしれませんが、勇者軍は闇の民により壊滅致しました。今残っているのは……私と勇者の二人のみで、ございます……?」

「……二人?」


 淡々と書かれた衝撃的な文章に、国王陛下と王妃様は顔を見合わせる。

 二人のみ。その意味が分からずに、思考が停止する。

 常識的に考えて、世界の運命をかけた運動が、たった二人でされている事はありえない。そう思い、この国を出た時には十分すぎるほどの力と兵力を付けたはずだ。

 例え闇の民に襲われたからと言って、それが全滅するなんて想像がつかなかった。さらには、その後たった二人で行動している事が、どんなに危険であることだろうか。


「……す、数日後にはマルサレニアとの国境に到着致します。ぜひその際に、再び力添えを頂ければと存じます」


 手紙の最後は、そう閉じられていた。


「……まさか」


 この衝撃的な事実に、ミリアナ王妃も驚きを隠せない。


「あの勇者……なんの役にも立たないようなガキだったな。ということはつまり、テナは敵国に一人でいるも同然っ! ――危険すぎる。今すぐにでも援軍を送らねば!」


 一国の王女――いや、大切な一人娘が護衛もつけずに敵国にいると知った今。黙って見ているわけにはいかない。

 国王陛下は、すぐに部屋の明かりを灯し、マントに腕を通した。


「ミリアナ、今から緊急会議だ。君も正装に着替え給え!」


 荒々しく声をあげる国王陛下。彼は目の色を変えて部屋を出ていこうとした。

 だが、一方のミリアナ王妃は、腰掛けたベットから立ち上がろうともしない。


「ミリアナ、落ち着け。酷く驚いているのは分かるが、手紙が来たという事は、まだテナは無事――」

「落ち着くのは貴方です」

「――?!」


 せかせかと話す国王陛下に向かって、ミリアナ王妃は静かに諭す。


「何を慌てふためいているのです? 一国の王ともあろう方がだらしの無い。貴方はいつもそう。テナに向かっては厳しいくせに、見えぬ所では……何の示しにもなりませんよ」

「この緊急事態に何を」

「貴方のいまの行動は、何の為の行動ですか」

「……」


 ミリアナ王妃は、真っ赤に燃えるような瞳をきつく吊り上げ、有無を言わさぬ物腰で語り始める。


「我々は十分すぎる兵をつけて、勇者一行を送り出した。だが、手に負えなかった。……違いますか?」

「……違わない」

「それならばもう、我々の出来ることは残ってはいません。あとは各地に点在する教会勢力、あるいは同盟国の手助けを頂く他ありません」


 突き刺さる様な冷徹な言葉が、静かな部屋に降り注ぐ。


「マラデニー王国の王国軍は、この国を守る為の力です。そして、彼らも皆と同じく生命いのちがあります。勇者を守りたいから……ならまだしも、たかが娘一人を守りたいからと言った様な、くだらない理由でその生命いのちを危険に晒すのは、決して許される事ではありません。私達は公私の区別が出来て初めて、この座に付けるのです」

「……ミリアナ……」

「――わたくしに、そう教えを説いたのは……紛れもない貴方様でございましてよ」


 女が強くなければ国は滅びる、と言ったのは誰であったか。

 まさしくその通りである。


「大丈夫ですよ、陛下。あの子は私達の子供です。あの子は列記れっきとした王家の娘。言わずとも理解してくれるでしょう。……まあ、こんな手紙を寄越すあたり、まだ幼いところもありますけれども」


 そう言うと、ミリアナ王妃は机の引出しから羽根ペンとインク、そして紙を国王陛下に渡した。


「……あの子の優しさと強さは、君譲りだな」


「何をおっしゃいます。あの子の強欲な所も、傲慢ごうまんなところも、もろいところも、全て私譲りでございましょう?」

「ハハ……間違いない」






 ガタン、ゴトンと荷馬車が揺れる。乾燥した地面には多くの石がむき出しになっていて、それを乗り越えるたびに大きく揺れるのだ。


 酷くガランとした荷馬車の荷台に一人腰掛けた私は、高く晴れ渡った空を見上げる。

 プリアテンナではかなり気を張っていたのか、今にでも崩れてしまいそうな疲労感に襲われていた。


「……っ!」


 空高くから、何かが弾けるような気配がした。グッと目を凝らすと、何かがヒラヒラと舞い降りてくる。慌てて手で救うような仕草をすると、その手に一羽の折り鶴が舞い降りた。


――これは、父上からの手紙!


 一昨日、RESISTANCEレジスタンスとの契約書と一緒に送った手紙の返事だろうか。申し訳ないとは思いつつ、援軍を要請した手紙である。

 その返事はいかがだっただろうかと、期待して開く。


 その手紙を開いた瞬間。私は寂しさよりも一番に、自分の甘さを嘆いた。そして同時に、何にでも立ち向かえるような強さが沸き起こったのである。


“援軍は出せない。行先で調達せよ”


「ああ、そうよね。それが当たり前だわ」


 何を甘えていたのだろう。私が生きていた世界は、そういう世界だったのだ。

 私は人ではない。

 私の生命いのちになど、意味は無い。





「おい坊主。そこの飲み物こっちに投げろ」

「はい、……って、え」

「ミレンチェ、それは俺の。盗とらないで」


 よく晴れた空の下。仲良さそうに肩を並べて走る荷馬車が二台。この溶けそうな暑さの中、じゃれ合うような会話が飛び交う。


「ちぇっ……いいじゃねェかよぉ。少しくらい。ケチだ――」

「ねぇ!」


 その会話に我慢出来なくなった私は、怒りを隠そうともせずに声を張り上げた。



こんばんはm(*_ _)m


今週も足を運んで頂き誠にありがとうございました。


皆様のおかげで、なんと、50話まで書き進めることが出来ました。(序章抜きでです)

この場をお借りして感謝申し上げます。


これからもぜひ、よろしくお願いしますm(*_ _)m






感想とか、ブクマとか……ひ、評価とか………レビューとか(小声)

戴けたら泣きます(´;ω;`)

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