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踊る影

第二波のように、また蜘蛛の影が押し寄せてくる。




「エ…エラさんっ!」



今度こそダメだ!と思い、ライはエラの背中に手を伸ばした。


丁度そのタイミングで、彼女が呟く。




「守りなさい」





そして、剣を大きく横に振った。



ズサァァァアン!!



大きな音をたて衝撃波の様なものが周りの蜘蛛の影を殲滅する。


あまりにもその大きな力にライは驚いた。



見える範囲全ての敵を一瞬で抹殺したのだ。




「…ふ、まだこの時代にも手応えのある奴がいたようだ」



これに驚いたのは闇の民も同じようで、少し面白そうに言う。




だが、それは余裕の表情。


彼が手を広げれば、また背後から影が湧き出て、こちらへと突進してくる。



「…っく、切りが無いっ!」



エラが必死になって剣を振り回すが、消えては湧く影は終わることを知らずに襲いかかって来る。


流石の彼女も力が薄れてきたのか、先ほどのような大きな魔術は発生せず、襲われるかどうかのギリギリでの距離でしか駆除が出来ない。


ライも加勢しようと剣を構える。


両足で地面に立ち、攻めくる彼らを正面に捉える。


突進してくる蜘蛛の影の群れは、真っ黒い一つの塊になって襲いかかってきた。


言われた通り、顔の高さで剣を構える。


そして、敵との距離が2メートルほどになった所で、グッと左足を踏み込み並行に剣を振った。



ズサァァン!



すぐ目の前で影が二分する。

そして、瞬く間に蒸気となって消えていった。


切りごたえは思ったより軽い。

ズブズブ、と何かを断裂する感触だけが残った。



「ライ!ぼーっとしてんなら隠れて!」



「……っ!は、はい!」



エラに言われ、剣を固く握り直す。


「次の波が片付いたら、逃げるよ」


「はい」


ボソ、とライだけに聞こえるように言われた。

そうだ、ここで2人でまともに戦ったところで勝ち目はない。



ブワッと一瞬で影が立ち上り、うねうねと形を生成してゆく。


「光の民の子よ、逃げるなど許されるものか」


闇の民がとても愉快に笑ったのが見えた。


その背後で立ち登った影は高さを増してゆく。


そして、そこから二枚の羽を持つ生き物…蝙蝠こうもりの様な形に分裂し、一斉に襲いかかって来た。


「…な、な、…なんて数…っ」


隣でエラが震える声で言う。


無理だ。本物の蝙蝠のように何百、何千という単位でこちらに向かってくる。


しかも、最悪なことにこいつらは空を飛ぶ。

剣一本で防げるものでは無い。


「エラさん!逃げよう!」


ぐっと彼女の右肘を引く。


「……チッ…」


舌打ちをしながらも、彼女は踵を返し走り出す。



『ギギギギギギギ』


鳴き声なのか、独特な不気味な音を立てながら蝙蝠が追ってくる。


その音は徐々に大きくなり、僕達と奴らの距離が近づいて来ていることが分かった。



「んあん!もう!うるっさい!………空気の壁よ、守れ!」



エラがグッと立ち止まり、後ろを振り返り、蝙蝠に向かって手をかざした。


すると、彼女の呪文によって発生した空気の壁が、前列に飛んでいた蝙蝠を抑える。


まるで見えない格子がそこにあるように、蝙蝠達がそこに溜まっていった。


「エラさん、やった!」


流石だ!と関心の眼差しを向けると、エラは眉間にシワを寄せ怒鳴る。


「どこが“やった”なのよ!これは単に抑えてるだけ…私が手を外したら襲ってくるわよ!」


ハッと思い、ライは剣を構える。


今の間に、あそこの蝙蝠を退治しなければいけないのだ。


だがどうだろう。


僕にどうやったら奴らが退治出来るだろうか。



「何してんの!…い、今のうちに逃げて!!」



隣から苦しそうな声がする。


「え!?に、にげ!?僕だけ!?」


僕1人で逃げて、エラさんはどうするというのだ!


『ギギギギギギギギギギギ』


先程よりも数倍の数に膨れ上がった蝙蝠が、エラの作った空気の壁に押し寄せる。


「そう、よ!…して、応援とか…呼んで………ああぁっ…もう、ダメ!…早くうぅ!」


悲鳴にも近いエラの叫びと同時に、パリン!!!!という音が。



「きゃあっ!!」



その衝撃でエラが後ろへ吹っ飛ばされた。


「エラさん!!」


慌てて彼女に近寄ろうとする。が…



『ギギギギギギギギギギ』



格子が外れ、自由になった蝙蝠達が一斉にこちらへと降り掛かってきた。


蝙蝠は自身の翼をとじ、空からまるで矢のように降り注ぐ。



あの蝙蝠に触れたら、蒸発して死ぬ。


そんな恐ろしいものが雨のように空から降ってくるのだ。




ああ、防げない。





魔術もなにも使えない僕が、剣1本持ったところで防げるわけが無い。






だが、やるしかない!




やってみるしかない!





未だ倒れ込むエラを跨ぐように立ち、剣を構え、目をつぶって大きく振りかぶった。








ズサァァァァアン!























「………ん………ん?」



もうこれで自分も蒸発して終わりだ、と思った。


が、特段痛みがある訳でも、なんでもない。



薄らと目を開けると、



目の前には大きな背中が…。




背中に王家の紋章。

その脇に、天使のような羽根の刺繍。







「援護翼、攻撃開始!!」


「はっ!」

「はっ!」

「はっ!」



ざっと数十名の王国兵ーーー援護翼がライの前に立ちはだかっていた。



「あっ…あっ…」


助かった…という安心と、恐怖と、不思議な感動が合間って視界が滲んだ。


喉の奥が熱くなるのを感じたが、それをグッと飲み込み、倒れているエラにてをかけた。


「エラさん!エラさん!」

「……ん…ん……」


一瞬、精力を使い果たしてしまったのかと不安に駆られたが、反応があり安心する。



「ライ!どけ!」


「あっ、は、はい!」


スッとエラはその声の持ち主に抱き上げられた。


「…ク…クニックさん…」


「遅くなった、着いてこい」



早口に言うと、彼はエラを抱いたまま走り出す。


言われるがままに、ライはクニックの後を追う。



ちらり、と振り返ると援護翼の兵達が懸命に戦っている。

ドーンという音の度に黒い煙が昇る。


目を背けた。








先ほどの戦闘の場から離れるにつれ辺りは静けさを増してゆく。


カンカン、と靴音が2人分鳴り響いた。



「とりあえず、エラに起きてもわないとな」



喧騒が遠くに聴こえる程度に離れたところで、一旦クニックはエラを下ろす。


パタリとエラの腕が力なく垂れた。

彼女の顔には血の気が無く、呼吸しているのかすら見て取れない。


「クニックさん…もしかしたら、エラさん…」


不安になって、ライはクニックにその時の状況を説明した。



「大丈夫、そんなこともあろうかと拝借してきたものがあるから」


すると、クニックは背負っていたリュックから液体の詰まったビンを取り出す。


「…魔水ますいだ。多分エラ、跳ね返された自分の魔力の瘴気に当てられたんだろ。気付け薬みたいなもんだ」


ビンの淵をエラの口に当て傾ける。


しかし、飲んでいるのかわからない。

口の端から線になって魔水は零れてしまう。


「はぁ、下品な嬢さんで…」


気絶している人に物を飲めと言ったところで無理だろう。

直接飲ませるのを諦めたのか、彼はエラの口から瓶を外す。



「………許せ、エラ」


ボソ、と呟くと、彼は自分の口に魔水を含んだ。



そして、自身の唇をエラの唇に合わせる。



「…………!!!!」


思いもよらない光景を突然見せられたライは、慌てて顔を隠した。


そんなライは他所に、クニックは必死で口移しでエラの体内に魔水を注ぐ。


ごくん、とエラの喉が動いた。


それを確認してもう1度口に魔水を含み、彼女の口の中へと移す。


「………ンゲホッ…オェッ…はぁっ」


エラが細い指でクニックの軍服を掴む。


「よし、エラ!その意気だ!も少し行くぞ」


激しく咽せるエラに休む暇を与えず、クニックはもう一度唇を合わせた。


「……はぁっ…ゲホォッ…ェ…はっ…はっ…はぁ…はぁ…大丈夫、少し…休ませて…はぁ…自分で飲む…」



エラが言葉を話した事を確認すると、クニックはビンを彼女に渡す。


ゴク、ゴク、とそれを飲み干すと、エラは大きく深呼吸した。


「…ありがとうクニック」


「…いや、よかった」



クニックはエラから瓶を受け取ると、そのまま地面に転がした。


それを見たエラは「分かった」というと、スッと立ち上がる。



「…もう船は下ろしてある。ロープを切るだけだ」


クニックはそういうと、船の後方を指さした。


訳がわからずライが首を捻ると、エラが説明を加える。


「非常用ボートで逃げろって事」


簡潔にまとめた彼女は、肩に付いた汚れを払う仕草をして歩き出す。


「行こう、クニック、ライ」


「…おう」





真っ暗な細い道を3人で走る。


「ここを抜ければ見える!」


支持された細い回廊をぬけると、そこには広い空間が広がっていた。


室内であるのに、海水が入り込んでいて、そこに1隻だけ小さな船が浮かんでいる。


「エラ!乗り込め!エンジンをかけろ!」


クニックがエラに鍵を渡す。


「了解!」


エラは船に飛び移り、運転席の脇に鍵ん差し込む。


ブルルルルルルルルルル…


「かかったわ!」


この小さな船はどうやら旧式船らしい。ガザラの漁船で聞いていたようなエンジン音が鳴った。


クニックは何やら機会を弄っている。


「ライ、乗って」


エラに言われ、大人しく彼女の隣の席に乗った。


「クニック!早く!」


「ああ!今開ける!」


目の前の金属製の扉…おそらく外に出るための扉を開ける操作をしているのだろう。


ガコン、という音がして大きな扉が開き始める。


「クニック!いそいで!」


エラが大声で叫ぶ。


ライはバックミラーで慌ててクニックが駆け寄って来るのを確認する。





「……あっ…」





そのクニックの後ろ。


そこに、見たくないものまで見てしまった。





真っ白なローブ、軽やかな金髪…無慈悲な眼…。




「逃がすか」

「クニックさん後ろ!!!!」








クニック!危ない!





と、いう所で切らせて頂きました。

毎度切りが悪くて申し訳ございません((


次回で第3章『統べる者』最終話になります。




◇説明◇


魔水ますい

魔力を込めた液体。


古来より回復薬などに用いられていた。


他の作用のある魔水も作ることはできるが、気化するのが早い為、効力に制限時間がある。


気化が早い為保存も難しく、瓶に詰めて保管しなければ行けない為、現在ではあまり普及されていない。


※参考

・ガザラ脱出時にライとソウリャが飲んだ物

・ソウリャと長老が対面時にソウリャが飲んだ飲み物

・十年前にソウリャがイルミネーションを作り出すのに飲んだ物


こちらが全て魔水。



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