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闇の民の再来

ギィィィ……。




微かに扉が開く音がした。




静かな、静かな、息を潜めるような足音。



真っ暗な船室に開けられた小窓。


この下に、彼の眠るベットが。




悪いが、ここで君には死んでもらう。



シャリリ…


腰に付けた短剣を静かに引き抜く。



「……死ね、勇者」


膨れ上がった布団を目掛けて、思いっきり短剣を振り上げた。




グサっ……




※※※※※



「まだシールドが張れんのか!?」


先導室では怒涛の声が響く。


「チーフ!なぜかこれ以上出力が上がりません!」


「何故だ!?」


「判りません!」


およそ半分までは順調に出力が上がっていたシールド。

だが、なぜか完全には上がりきらないのだ。


「チーフ!私たちが見てきます!」


ひたすらに計算を繰り返していた2人がチーフに向かって提案する。


「……!?見てくるって、動力室をか!?」


「はい!もしかしたら、向こうでなにか不具合がある可能性が…」


不具合…考えたくもないが、その可能性も有り得なくはない。


「分かった。だが、ここまでは出力が上がっているから、人体に影響が出ないとはいえない。だが、もう1度切るなんてことは出来ないが…」


魔蓄石が高濃度の力を発揮している間、近くにいる人は精力を使っているのと同じ状態になる場合がある。


「大丈夫です。一瞬見てくるだけです」


真剣な眼差しの2人組。

本来なら人体の影響を最優先しなければ行けないところだが、今はそんな状況でも無かった。


「分かった。至急確認を求む」


「はっ!」


2人組がキー管理システムから鍵を引き抜き、急ぎ足で動力室へと向かった。



「クソっ…なんでだ!?何故なんだ…!!?」


バン、と出力系統の系図版を思いっきり殴る。


原因が分からないほど怒りが募るものは無い。

原因さえ分かれば手を撃つことは可能だが、分からなければ何も出来ない。


「チーフ…考えられる理由は、3つ…」


その様子を見て、技巧士らしき人が口を挟む。


「なんだ、言ってみろ!」


「一つは、出力機の故障…しかしそれならばエラーが表示される為、可能性は低いかと…。二つ目は先ほどの波の生成でエネルギーを使い切ってしまったという事…しかしこれも、それ以前の残量から考えると、可能性は低い…」


彼は試算を繰り返した紙を二つに折って、目を伏せる。


だれもが、三つ目を待った。


「三つ目は…原動力自体に欠損がある可能性…」


ザワッ


背筋が一瞬にして凍った。


「……欠損…だと?」


想定外の言葉に、半ば八つ当たりのような返事を返す。


「はい、例え積載量が同じ魔畜石でも、それが一つの塊なのか、はたまた小さな魔蓄石の集まりなのかによっても出力量は変わってきます」


「………」


シンと、静まり返る先導室。


「仮に、誰がが魔蓄石を破壊し、一つの塊ではなくした場合、この出力量でも納得がいきます」


技巧士は容赦なく淡々と説明を続けた。


「……いやはや、またそんな事を…ましてや…誰が…何の為に…」


ハハハ、と、から笑いが湧く。


だが、彼らの目は1人として笑っていない。



ジジ、ジジ、と水晶が鳴る。


バッと全員が水晶に注目した。


『チーフ…!チーフ…!!魔蓄石が…魔蓄石がぁぁあ!』


「どうした!!!?魔蓄石がどうしたっ…!?」





『魔蓄石が、何者かによって破壊されております!こっ、粉々です…っ!』




※※※※※


グサっ……



「チッ…」



勢いよく突き刺した剣から、肉にささるズブっとした感覚が伝わってこない。



「………外れか」



彼はそう呟くと、スッと剣を抜き、腰にしまう。


人差し指で抜け殻のベットを指差し、軽く右上へと振る。


すると、


ドガっ…バキッ…ガダン…。



ベットが勢いよく跳ね上がり天井に衝突した。

その衝突で板が折れ、残骸となって床に散らばる。



「クソ…どこに居る。忌々しい剣め」



彼吐き捨てるように言い、足元に転がった椅子を蹴飛ばして部屋を出ていく。



※※※※※





ジリリリリリリリリリリリリリ


「ひゃっ!?」


突然の警鐘音にライは跳ね上がった。



「な、な、な、…な、何っ!?」


慌てて手に持っていた本を本棚にしまう。


バタバタと階段を駆け下りてくる足音。



まさか…闇の民の襲来…!?



最悪の状況に備え、背負っていた伝説の剣を抜いた。



ここは船底近くの書物室。


もし、ここで闇の民に追い詰められたら逃げ場は無い…。



ダンダンダン、と徐々に大きくなる足音に、ライは剣を強く握った。



ガチャ…



ドアノブが回される。





先手必勝!



ライは右足で床を蹴り、一気に間合いを詰めた。




キイイイィン!




「……っんあっ」


が、上手く剣でいなされ、壁へと激突する。



左頭部を強くうち、視界がグラリと揺らいだ。




「んもう!危ない!いい加減にしなさいよバカ!」


打ち付けた頭を抱えながら、声のほうへと向く。


「…エ…エラさん…っ!」


「探したのよ!?何でこんな所にいるの!」


凄まじい剣幕で問いただされ、タジタジに答える。


「いや、その、勉強しようと思って…」


エラはライの言葉など聞かずに、手に持っていたスカーフをライの頭に巻く。


「あんたの金髪は目立つから」


そういうと、グイっと手を引かれ書物室を飛び出た。


「エラさん!め、目立つって…?さっきの警鐘音は!?」


「察しが悪いわね!奴が来たのよ!」


ああ、嫌な予感しかしない。


全速力で走る彼女は振り返る暇も無く答えた。


「バリアを外している間に、来たのよ。闇の民が」



※※※※※


「な…なんだこの力は…」


この国を台頭する男でもある王国兵すら、その目の前の力に絶望する。


こちらが数十人と合わせて発する攻撃すらいとも簡単に跳ね返されてしまうのだ。


「一斉に構え!放射!」


それでもめげずに、司令塔に合わせて魔法弾を打ち続ける。

だが、それはたった1人で佇む闇の民がキッと睨むだけでその場で蒸発してしまうのだ。


「………ヒッ…む、無理だ!無理だぁぁあうわぁぁぁぁぁあ!」


そして、彼がフッと手を振るだけで前列に配備されている王国兵が消し飛ばされてゆく。



力の差は圧倒的だった。



「弱音を吐くな!信じる心が魔力を増力させる!誇りを持て!」


「う、うぉぉぉぉぉぉおおおおぎゃぁぁぁぁぁあ!」


司令塔が兵の活気をたてようとする側から、敵は容赦なく消して行った。


ジリジリと、闇の民が間を詰めてくる。


最前列の兵達も、1歩、後ろへ下がった。


「おおお、おい!さ、さがるなっ!」


後ろの列の兵に押されながらも、彼らは後ろへ下がろうとする。


「む、むりだ…か、敵わない…無理だぁ!」


この行為を誰が責められるであろう。

世界一の魔術軍事力を誇るマラデニー王国の攻撃が、全て防がれてしまう。


もう彼らには成すすべがないのだ。


本来順番に攻撃を放つために結成された列が、死刑執行を待つ列へと変わってしまった。


ガクガクと膝が震える。


敵はたった独り。


だが、わかる。

その佇まいで分かってしまう。



彼は強大な力を宿す闇の民だと。



「_______」



彼が、何か呟いた気がした。



だが、それを認識するまで脳は働いてくれなかった。












ドオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!




甲板に出るや否や、背後から凄まじい破裂音が響いてきた。



それまで一目散にライの手を引き走り続けていたエラだったが、流石に足を止め振り返る。


「……んはっ…はぁ…っはぁ…」


ライも荒い呼吸のまま、バッと後ろを振り返った。


これ以上は無いほど真っ黒な黒煙。



それが数十メートルの高さに上がっていた。


「……ば、爆薬…??」


その脅威の規模の大きさに、エラが顔を強ばらせる。



残念だが、これは爆薬じゃない。


「……エラさん…違う…」


「…え?」


ライには分かってしまった。


何故なら、既に1度目撃している光景だからだ。


「……これは、闇の民の攻撃…爆薬じゃない、蒸発…」


「………?」


何を言っているのか分からない。


エラの表情がそう言っていた。


無理もない。

あまりにも非科学的で、非人道的な現象だからだ。


カランカランカラン…


この“蒸発”による爆発の影響で吹っ飛んだモノが空から降ってくる。


エラは呆然と足元に転がってきたモノ…王国兵にのみ支給される、王家の紋章入りの剣を見つめた。



「…彼らは人間を蒸発させるんです」



カラン、ボト…カラン、と次々にいろんなモノが降り注いできた。


見覚えのあるような、兜や剣。そして、布切れ。

数え切れないほどの遺品達だ。



「………っはぁっ…はっ…っあっ…」



エラが浅い呼吸を繰り返す。




ああ、ガザラの時と同じ。


ああ、怖い。


ああ、息が詰まる。


ああ、ああ、ああ。




それでも、ライはあの時とは違った。


自分が思う以上に、視界は開けており、思考はクリアだ。




今、僕の左手を握っている人…。


あまりの衝撃の事実に、彼女らしくもなく震え上がっているエラを守らなければいけない。



そんな使命感からかも知れない。






徐々に海風に流されて黒煙が薄れてゆく。



ライはゆっくりと伝説の剣を抜いた。





黒煙の向こう側に、2本の足が現れる。


そして、膝、腰、胸…と徐々に姿を表した。






ドクン…






闇の民…



そう言われたのは何故だろう。










まず、浮かんだのはそんな疑問だった。











真っ白なローブ。


そのフードからヒラヒラと覗くのは美しい金色の髪。





淡く色づく薄い唇に、中性的に整った顔立ち。








その顔を彩る、オパールのような真っ青な瞳。







その瞳と、目が合った。




ドクッ




『見つけた』





あっと、思ったその瞬間に、闇の民は背後から真っ黒な影を現す。


蜘蛛のように足の生えたその立体的な影は、沢山の群れを繕ってこちらへと突進して来る。



どうすればいい!?


どうすればいい!!!!?




走って逃げたところで追いつかれるのは一瞬。


かといって、この剣で切る前に、触られたら蒸発する…そもそも、これは剣で切れるのか!?


バリアを張るのが一番だけど…僕は魔術が使えない…!





あああああああ、もうダメだ!

守るって、ダメだ!その策が無い!





「……お願い!!守ってええええ!」



一か八か…まぐれでもいい。魔術が使えないかどうか、思いっきり、心を込めて叫んでみた。



ズサァン……。




目の前に押し迫っていた蜘蛛のような影が縦二つに二分され、蒸発していく。



「ごめん、悪かった」



はっと、横を見ると、青い顔をしながらも剣を構え直すエラの姿が。


「大丈夫、私が守る」


早口にそう言い捨てると、彼女はライの前に立ちはだかった。



今週もお読み頂き誠にありがとうございます。


やっと全貌を明らかにした闇の民。

とてつもない破壊力ですね…。


今回犠牲になってしまった皆様には心より追悼致します。




次回はほとんど戦闘シーンになります。緊迫感のあるものにしたいと思います!

ご期待ください。

(ならなかったらすみませんm(*_ _)m)


次の投稿は4月1日を予定しております。


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