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闇の民潜む

『任務遂行完了』


脱出した事に喜びにわくのかとおもいきや、違っていた。


力を出し尽くした兵士達が、崩れるようにその場に倒れ込む。

バタバタと音を立てる彼らを前に、ライは声すら出ずに驚いた。



『戦闘兵士達、大変ご苦労であった。直ちに救護班出動せよ』



船内放送に続き、どこからかまた新しい人達が甲板にやって来る。


そして、先ほどの戦闘員を囲むように陳列し、ブツブツと呟き始める。




「…エラさん…あの人達、何をしているの?」


救護班、と言われながらもその場から負傷者を運び出すではなく、なにか手当もするわけでも無い。

ただただ、何やら呪文のような言葉を一斉に呟いているだけ。

それがあまりにも不思議な光景だった為、聞かずにはいられなかった。


「彼らは救護班…治癒の魔術に特化している人達よ。今の一件で力を使いすぎた戦闘班の傷を魔術によって癒しているの」


なるほど、と思いながらライはその光景を見つめる。


途切れることのない呪文がとても心地よく聞こえてくる。

心做しか、兵士立ちの表情が和らいでいっているように見えた。



やがて、元気を取り戻し始めた彼らは自分の足でその場から立ち去る。



次々と戦闘員が立ち上がり、列をなすように船内へと戻って行った。



静かになった波の音に、シンクロするように呪文がなびく。




そして、“救護班”はある時を堺に術を懸けるのをやめた。


自力で立ち上がれなかった人々に両手を合わせ、深く頭を下げる。


そしてそのまま船内へと入っていった。


「え、エラさん…まだ、まだ回復してない人達が…」



その場には倒れ込む人が十数人残されたままだ。


どうして?と隣に並ぶエラを見上げた。


「………」

エラは黙って彼らの横たわる姿をひたすらに見続ける。


その後まもなく、彼らは黒服の人たちによって箱に詰められ、船内へと運ばれていった。



あの黒服…ライも何度か見たことがある。

ガザラの北の丘の教会。

おばあちゃんを葬った時も、祭祀様はあんな黒服を着ていた。



何が起きたのか、わかりたくない事が分かってしまった。



徐々に人が減って行く甲板。


彼女もそれに習うように、黙って船内へと歩いていった。




ライは呆然と立ちすくむ。


バン、という音を立てて、甲板の照明が落とされる。



もうほとんど人気の無くなった甲板が、月光を反射し無機質に光っていた。



「エラには、聞かないであげて」


後ろから、頭をポンポンと優しく叩かれる。


その反動で目に溜まっていた涙がボロボロと零れた。


「……クニックさん…やっぱり、彼らは死んじゃったんですか…?」


ゴシゴシと袖で目をこする。

涙を我慢しようとしていたからか、喉の奥がズンと痛い。



「魔術を使うにはね、体力がいるんだ。それを専門用語で精力って言うんだけど、これを使い果たすと人は死んでしまう。少しでも残っていれば、回復は出来るんだけど、使い切っちゃうとダメなんだ」


知らなかった。

魔術って、何でもできる夢の道具だとばかり思っていた。


だが、なんて危険なものなんだろう。



「まあ、余程の事が無ければ使い切るってないんだけどね。私達に付与されている魔蓄石では、精力を使い切る程の魔力なんて発生しないから」


「……それじゃあ、なんで……?………あ…」


ーーー付与されている魔蓄石では、精力を使い切るほどの魔力なんて発生しないから。


今回、こんな事が起きたのは、この船に積んである魔畜石を使った…。

だから、精力を使い果たしてしまった人が出たということか。


とても複雑な気持ちになり、ライはクニックを見上げる。


「分かるだろ?……エラには聞かないで欲しい。十分に彼女も理解しているから」




優しいクニックの口調に、ライはコクリと頷いた。










※※※※


メシリニア大渦を抜け一段落した所だが、船内は何かと慌ただしかった。


まず、早急にバリアを展開することが求められている。

この船に乗り込んでいる知識人や技巧士たちは、休む間なく作業に取り掛かった。


1度外してしまったバリアを元の強度にまで戻すのには小一時間かかる。

一分、一秒でも早く展開するために皆が動いた。



そんな様子を眺めることしか出来ないライだったが、ここにいても邪魔なだけだと分かった為、とりあえず自室に戻ることにした。


先程甲板でかなり飛沫を浴びていたようで、衣服が濡れている。

このままベットに潜るのも気がひいたので、上下1枚ずつ脱ぎ捨て、肌着一枚になり、そのままベットの中へと潜り込んだ。



微かに遠くからのバタバタとした足音が響いてくる。



恐ろしい。

恐ろしくなった。

人の命が恐ろしくなった。



命より大切なものは無い、と誰かが言っていた。


それならばどうして、こうも簡単に死んでしまうのか。




エラのせいにする訳では無い。


でも、彼女の案で動いた結果、十数人の命が消えた。



直接手を加えた訳では無い。

それでも、だ。


なぜ死んだのか、という答えに、必ず“エラの決断”は関係してくる。



『全ては勇者様…貴方の一任にございます』




今回はエラが僕を庇ってくれた。


これからは、この決断をくだすのが僕になる。


僕がやれと言えば、みんながやる。


その結果、死んでしまう人は死んでしまう。



ああ、なんて恐ろしい。



もし僕が間違えた命令を出したら…。

もし僕が命令を間違えたら…。



もし、僕が命令するのに怖気ついていたら…?

もし、僕の命令が遅れたら?





死ぬ必要の無い人が死ぬ。





僕は殺人犯と変わらない。




※※※※


「兄上、案の定船の守りが薄れております」


目下には暗黒の闇の世界に浮かぶ白船。

先程から全てを見ていたが、まあ持ちこたえたようだった。


「例のあの少年が乗っている事は確かなんだな?」


「ええ、臭うわ。あの忌々しいテナレディスの剣の匂いが」


私の右腕に擦り寄ってくる女。

2000年の時を越したとは思えないほど繊細な素肌が密着する。


「君には行かせないぞ。なんだ敵でもたぶらかしに行くのか?」


母親が違うとはいえ自分の妹だ。

むかしから色の話が後を絶たない問題児だったが、こんな局面でも実の兄に胸を擦り寄せてくる。



「えー?そろそろ新しい肌が恋しいわ」


伸びた中指の爪を軽く舌先で舐める女。

腹が空いたの間違いじゃないのか。


「忌々しい奴らの肌でもか」

その強欲さに半ば呆れながらも私は続ける。


「男には変わりないでしょ?」


はぁ、とため息しか出ない。



「兄上、僕が行きましょう」


後ろからやや高めの声が聞こえてくる。


「……ああ、そうだな。任せよう」


「はっ」

お久しぶりです。

今回は話の切れが悪く…少し短くさせて頂きました。


最後に会話している新しいキャラクター…。

やっとこさ出てきましたね。


ライの宿敵とも言える奴らです。


波乱の予感ですね。


次回をお楽しみに…。



◇説明◇


【魔術】

・自然界に存在するエネルギーと語り合い、自身の思うように操る術。しかし、未だにその科学的な根拠は解明されていない。


・以前は万人が使うことが出来たが、科学の発達により薄れていった。


・現在、人間は「自然界のエネルギーと語り合い、魔力を生成して魔術を使う者」と「精製された魔力を使って魔術を使う者」と「魔術が使えない者」の三つに分けられる。



【魔蓄石】


・マラデニー王国が発明した製品。


・魔力を閉じ込めた石。(充電器のようなもの)


・使えば使った分だけ減る


・「精製された魔力を使って魔術を使う者」のための製品。



【精力】


・魔術を使うのに必要なもの。(体力のようなもの)


・精力は魔術を連続で使うと減っていく。使いすぎても、まだ残りがあれば身体を休めることによって回復する。精力を使い切った場合は死亡する。





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