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【番外編】幼子達のクリスマス 前編

今日はクリスマスイブと言うことで…リサとソウリャの幼い頃のエピソードです。


後編も、明日投稿したいと思いますのでよろしくお願いします〜!


メリークリスマス!

しんしんと冷える空気。


いつに無くベットの中が暖かく感じた。



「ん…んん…」


窓から差し込む光に目をこする。


夜中ずっと外気に触れていた顔が氷のように冷たかった。



そろそろ起きなければ、と手を思いっきり伸ばす。




そして、大体の子は気づくのだ。



「サ、サンタさん、来てくれたーーー!」



年の終わりも近づく12月25日の朝。

歓喜が舞う。





「もう私達はそんなんじゃ満足しないわ!クリスマスにプレゼントだけで喜ぶ年頃じゃないのよ!」


せかせかと歩く人が多いガザラのメイン通り。

その中で大きくガッツポーズを構える少女が一人。


彼女、メリエラは大きなリボンを拵えたコートを着ながら、似合わない程の大声で宣言したのだ。


「えー?そう?私、毎年楽しみだからなぁ…」


一方、私はおばあちゃんから貰ったダボダボなローブ。


確かに彼女の様なお金持ちの子にとってはプレゼントなんて大した価値もないのかもしれない。


「リサ!あなたもう幾つ?11でしょ?甘いわねー」


「あ…甘い?」


散々な言われ様に苦笑いをしながらも、彼女の持論を聞く。


「まあ、貴女は通行許可証カード持ってないから、王都の進定学校に行けないみたいだけど。進定学校むこうじゃこんな田舎とは違ったクリスマスを過ごしてるのよ」


物凄い上から目線な言葉。

本来なら頭にくるような内容ではあるが、根っからの金持ち気質なメリエラに、一々対応していたら拉致が開かない。


「そっかぁ、流石だね王都は。王都のクリスマスってどんな感じなの?」


王都のクリスマス。

リサだって年頃の女の子だ。


興味が湧いてくる。


「あのね、夜がすごいの!」


メリエラが目をキラキラさせる。


「夜にね!街全体が輝き出すのよ!もみの木あるじゃない?それに魔光石を大小散りばめてね、いるみねーしょんってやつやってるの!」


「い…いるみ…??…ん??」


「いるみねーしょん!とにかく夜なのに光だらけなの!そしてね、それだけじゃないのよ!!!クリスマスの何日も前からそのいるみねーしょんを見に集まる人たちがいるのよ!」


手をブンブンと振り回すメリエラ。


「それでね?……その美しい光景を好きな人と…見に行くのよ」


先ほどとは一転し、両手を祈るように組み、うっとりとした表情に変わる。


いきなり乙女へと変身したメリエラに苦笑しながら私は思った。


そんな、恋人どうのこうのの話なんて、この田舎町から出られない私にとっては無関係な話だ、と。


それを見越したかのようにメリエラが私をビシッと指さした。


「つまりは、子供を卒業した私達は”クリスマス”というイベントを、ただ物を与えられるものから愛する人と過ごすものへと移行しなければいけないのよ!!」


「い……いや、そんなに力説されてもいまいちピンと来ないかな…」


周りの人がなんだなんだと視線を向けてくる。

それが恥ずかしくて小声ではぐらかした。


「えーーーっ…まあそっか。リサはあのソウリャさんと過ごすんだもんね。不満なしだよねぇ」


「っ!?え!?!?」


いきなりソウリャの話を出され驚く。


「な、変な事言わないでよ。あんなのはただの居候!家の仕事も一切しないでただ飯食ってんだから、ホント迷惑でしかないよ!」


ソウリャは王都の学校に通いたいからと、王都に隣接するガザラにパラマから一人で引っ越してきた従妹だ。


「はぁぁ…またまた贅沢を言うわね貴女。ソウリャさんはね、進定学校ではトップの人気を誇る王子様よ?ここらでは珍しい漆黒の髪に、消えてしまいそうなほど線の細い身体。でも群を抜いて背は高くて、自信ありげな立ち振る舞い。毎回何をしても首席、だけどそれを決して鼻にかけないわ!それよりもアレね。心が浄化されるような優しい口調!本当はどこかの王子様なんじゃないかってみんな言ってるわ!」


「うっわ、すごい勘違いね。ただ、みんなよりも三歳年寄り。母親が異国出身で、働かずに本ばかりよんでるからで、牛乳ラブで、余裕ぶっこいてて、勉強が好きなだけじゃない。まあ、優し気な口調なのは否定しないけど」


実際に家にいる彼をみても果たして彼女たちはもう一度同じことをいえるのだろうか。


「……リサったらもったいなーい。同棲してるくせにー」

「同棲じゃないっ!」


何故みんながあんなのをそんなに評価するのか分からないくらいだ!


「いつまでもソウリャさんが自分の物だって思わない方がいいわよー。学校の女、こぞって彼にデートを申し込んでるからね」


「別にアイツが誰と何処で何してようが勝手よ!」


むしろ、出て行ってくれたなら家事の量がへって助かる。


「失ってから気づくのが物のありがたみよー!まあ、リサがそれでいいならいいけどねー」


「良いも何も、私には関係ないから!」


今までもすでに五年くらい一緒に住んでるけど、恋愛感情なんて抱いたことは無い。

これから先だって、どんな奇跡が起ろうと好きになるなんてあり得なかった。


「まあ、いいけどねー…………ん??…」


メリエラがいきなり辺りの匂いを嗅ぎだした。


どうしたの?とリサは首を傾げる。


「なんか…ここら、…生臭くない?」


「ん?…な、生臭…?……あっ!あああああああああ!」


リサは慌てて足元の箱を開ける。


「……うっ…」


瞬時にもわんとした匂いが広まった。


「な…さ…魚!?」


「そ!忘れてたの!私仕事中だった!これ、坂の上の店まで運ばなきゃ!」


慌てて魚の匂いを嗅ぐ。


「良かった、まだ悪くなっては無いみたい…メリエラごめん!また後でねっ!」


そういうと、リサは慌てて箱を持ち上げ、その場を後にした。


「……魚運ぶ少女って…」


ポツンと残されたメリエラは、怪訝な顔をしてその後ろ姿を見送った。







「ただ今帰りました」


夕飯が出来上がるちょっと前、彼は決まって帰ってくる。


「おかえりー」


私は濡れた手をタオルで拭きながら振り返った。

そして、彼の姿を目に留める。


「あはは!そんなに寒い?なんか、子供みたいよ!?」


留めるや否や、こらえ切れずに吹き出してしまった。


入口に立っていたソウリャの格好…着れるだけ着込み膨れ上がった体に、顔が埋もれるほどマフラーを巻いて、雪遊びから帰ってきた子供のようだった。


「こ…子供は酷いじゃないか。私はリサの3つも年上だよ??」


子供と言われ幾らか気分を損ねたのか、ソウリャは乱雑にマフラーを取る。


「あははははっ…だってぇ!だっ…」


その仕草をみて、言葉に詰まった。


「……ん?どした?」


ぎゃははは、と品のない笑いが突然に止み不自然に思ったのか、彼がこちらを見てくる。




長いまつげの奥の、真っ黒な瞳とバッチリ目が合った。





マフラーで隠されていた、真白く細い首筋。

しかし、ただ華奢なだけではなく程よい筋肉のついたそれは幾らか汗ばんでいて、呼吸をする度に喉が微かに動く。



ゴクリ。



自分のつばを飲む音が大きく聞こえた。



「…?」


黙り込んだ私を怪訝に見ながら、ソウリャは続けて上着を脱いでいく。


一枚…また一枚…。


最後には学生服のワイシャツ1枚に…。


するりとネクタイの結び目に伸びる左手。

グッ、グッと、首元を緩めた。


先程までキッチリと占められていた襟元がだらしなく開く。


「……っ…ふぅ…」


軽く上を向き、目を閉じながら長く息を吐く彼。



「で、どうしたんだい?リサ」

「!!!!!?」


突然目を開き、首だけで左を向いてきた彼に、私はドキリとした。





「………っ……!?な、なんでもない!ほら、ご、ご飯だから手ぇ洗ってきて!」


「え?あ、うん…?」


「ほら早く!」


突然の変化に戸惑いながらも、ソウリャは部屋を出ていく。



バンっ!!!


それを見送ったリサは台所の淵に勢いよく手をついた。


「な…なに…」


独り言。



顔が焼けるように暑かった。


走ったわけでもないのに、息が切れている。


右手を胸に当て、ぎゅっと握る。




静まれ、静まれ…。



大きく波打つ心臓に必死に命令した。






寒い日になもってこいの匂いが立ち上る。

ミルクたっぷりのクリームシチュー。


出来立ての湯気が食卓を包んだ。


「おばあちゃん今日帰り遅いって言ってたから、先に食べちゃいましょ」


「うん、そうだね。いただきます…」


彼はいつも通りに胸の前で手を合わせる。


ほんとに礼儀正しい奴だなと、初めてあった時から思った。


「…リサ?リサもほら。いただきますって」


物思いにふけっていた私に、食べ始めるように促す彼。


ハッと我に帰り、私も小さく手を合わせた。


部屋を照らすのはテーブルに置かれたランプのみ。

魚油を使っているからか、微かに生臭い匂いがした。


「リサ、どうしたんだい?いつもと様子が違うけど」


「へっ!?……べ、別におかしくなんか……」


突然に問いかけられ、面白いほどに跳ね上がる。


「おかしいよ、具合でも悪いんじゃない?」


テーブルの向こう側から真白く長い腕が伸ばされてくる。

それが、私のおでこに触る……寸前に払い除けた。


「おかしくないわよ!」


おかしくなんかない訳が無い!

さっきからソウリャの動作や言動に一々引っかかってしまう。


これは一体どういう事か。

これじゃあまるで私が恋する乙女のようではない……か……。




「………メリエラのせいだわ」


そうだ。彼女のせいだ。


彼女がソウリャの事を美化しすぎだったから、それにつられてしまったんだ。



うん、と一人納得した。


「メリエラさん?……あの、私と同じクラスの子?」


「そう。お昼ぐらいに彼女に会ってさ。また自慢話聞かされたのー」


やっと普通に会話ができた、と安心する。


「あはは、彼女もがザラでは珍しく進定学校に通ってるから、鼻高々なんだろーね」


なんだ、ソウリャだって分かってるじゃない。

人のいい彼が言うくらいだから、きっと学校でもそういう扱いを受けているのではないだろうか。


「そう!あ、そうそう聞いたわよ。ソウリャ、あんたモテモテなんだってぇ?」


「も…もてっ!?」


「毎日のようにおデート誘われてるそうじゃない」


「あ…ああ…あの娘たちか…。まあ、私的には迷惑でしかないんだけどね」


「またまたー!明日にでも彼女出来るんじゃなくて?」


ソウリャが連れてくる彼女、一体どんな娘なのだろう?と感がえるだけでもワクワクした。


「やめてくれよー。縁起でもない」


「縁起いいことじゃない」


ソウリャは心底迷惑がっているように肩をすくめる。


「私にしてみれば悪い。というか、何。リサは私に彼女が出来てほしいの?」


まゆを潜めて聞いてくる彼。

私にはなぜ彼がそんな事を聞いてくるのか到底理解出来なかった。


「当たり前じゃない!こんな真っ白しろすけヒョロっこ野郎を好きになってくれる人がいるなんて従姉妹として安心するわ」


安心する。

本当にその一言に尽きた。


「ふーん」


そうだよね、とにこやかな返事が返ってくると思いきや、返ってきたのは興味の無いような、呆れたような声。


流石のリサも、そこで彼が期限を損ねたことを知る。


「………ごめん、言い過ぎ……た……?」


一応誤っておくが、なぜ、恋を応援して怒られるのかが理解できない。


「ふーん」


そんな心の声も伝わってしまったのか、やはり彼の答えは同じものだった。




ズズ…と、ソウリャがスープを飲み始める。

またもや無言のぎこちない空気が広がる。


どうしよう。

理由が分からずとも自分が巻いた種だ。


ふと彼を盗み見ると、一切こっちを見る気配がない。


なにか楽しい話題…楽しい話題……。


「あっあと!後ね!いるみねーしょんって言う、綺麗なヤツがある事知った!凄いんだって!」


「ふーん………見たいの?」


相変わらずの御機嫌斜め感だったが、話題に食いついてはくれた。


「それはね!まぁ、でも通行許可証カード持ってないから…」


見るなんて一生出来ない。


そう思うと、なんか虚しくなる。

生まれた家によって、人生は決められてしまうんだ。




「持ってたら、見たいんだ」





「え?」


「いや、見たいんだね?」


よほど機嫌が良くないのか。

しつこく聞いて来るソウリャに段々といらいらが募る。


「持ってたら、見たいんだね?」


「なによ!持ってないからってバカにして!そうよ見たいわよ!見たくて何が悪いの!?ごちそうさま!」


ガチャガチャと音を立てて食器を片付け始める。


知るもんか!あんな奴!

ほんと嫌味なやつよ!


学校ではチヤホヤされてるだって?

調子に乗りやがって!


つか、ほんと通行許可証カード持ってる奴らって嫌味な奴しか居ないのね!


昼間のメリエラといい、ソウリャといい、確かに通行許可証カードを持っているのは特別だ。


でも、それって本人の努力じゃないじゃない!




握るスポンジを強く握りしめ、皿が傷になるほど洗ってやった。


「あんな嫌味な奴、帰ってこなきゃいいのに」


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