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初めての学校

壁に二人分の影が揺れる。


「さあ、始めようか」


「はい」


蝋の揺れる机を挟むようにして勉強が始まった。


「まず、君がどこまでこの世界について理解しているか確認させてもらうね。君は12歳だろ?進定教育までは通い終わったのかな?」


進定教育…。聞いた事はある。

だが、ライは受けていなかった。


マラデニー王国の管轄下には「常定教育」と「進定教育」があり、それぞれ受ける事が標準されている。

しかし、そんな教育が受けられるのなんて、貴族や裕福な商人の子供だけだ。


「いえ、僕は常定教育も受けていません」


そもそも、ガザラにはそんな教育が受けられる施設すらない。


「えっ……じゃあ、君は学校にも行っていないの!?」


「はい」


王国軍に入れるほどの身分の人には到底理解できない事なのだろう。

クニックは黙り込んでしまう。


しばらく黙り込んだ後、無言で紙にペンを走らせた。


サラサラと文字を連ねていく。


「はい、これ。読んでみて」


軽く五行ほど書かれた紙を向けられる。


「……あう、光と……や…やみ?……勝つ…………」


読める文字だけを拾って読み上げていく。


常定教育を受けていない。つまり、まともに文字を習った記憶がないのだ。


試されている、と分かっていてもどうにもなることではない。



「戦う………な、長い…」


あ……この言葉達。これは光の伝説の序章だ。


途中で気づく。

これならお祖母ちゃんから嫌というほど聞かされていた。


「みかねた唯一神ヴェネア、わが光の民に剣授けけり。しかれど、剣一向に抜ける気配なし。そこに剣の声が聞こゆる少年現る。その名をテナレディス」


合っていますか?と、読み終えた後にクニックの顔をみる。


「………伝説の序章、暗記はしているんだね。うんでもわかった。文字は徐々に覚えていこうか」


文字も読めないのか、と言われた気がして少し顔をを染める。


「大丈夫、習っていないのなら出来なくて当然だ。悪いのは君じゃなく社会の仕組みだからね」


自分を恥じているのを察したのか、クニックがフォローを入れた。


そして羽ペンを机上に置く。


「じゃあ、これからは口頭でお勉強しよう。気軽に構えていていいからね」


右手と左手を机上で軽く組み、優しく微笑みかけられる。


こくん、と頷いた。


「じゃあ、まず最初に。世界に大陸はいくつあるでしょうか」


大陸。

前にソウリャから聞いた事があった。

このガザラよりも大きくて、歩いても歩いても反対側の海にたどり着けないほどらしい。


それが世界には五つあると。


「五つ……ですか?」


ただ、確信は無かったので疑問形で答える。


「正解。因みに、今向かっているのはマラデニー王国の西に位置する”グランデール大陸”だ。グランデール大陸の北部は我々マラデニー王国の管轄地域。同盟国のマルサレニア、ミシガン、デルヘッサなどがある。南部にはレデール王国やキッサリア王国などだ。この二国は我々と同盟国ではないから多分立ち寄ることは無いだろう。むしろ、敵対しているから入れないといった方が正しいかもしれない」


クニックが地図を開き、指を指し示す。


「そして私たちが目指しているのはここ。マルサレニアの山奥にある神殿だ。ここにヴェネア様の神器が安置されている。まずはそれを手に入れに向かう」


ススス、と指を滑らせる。

ライは必死にそれを目で追った。


次はこの大陸、次は……と地図を見ながらの説明が続く。

どれも初めて聞くことばかりで新鮮だった。



「まあ、地理に関してはおいおい覚えていけばいいさ。実際に足を運べば自然と分かるようになる」


「はい」


正直、話の半分くらいしか頭に入らなかったライにとっては嬉しい言葉だ。


「じゃあ、地理はこれで取り合えす終わりにしよう。どう?疲れた?休憩取る?」


壁にかけられた時計を見ると、1時間は経っていた。

集中していたからか、あっという間に過ぎていた。


「いえ、僕は大丈夫です」


もっと知りたい、その気持の方が強い。


「お、ほんと?オッケー、なら続けていこう。じゃあ次はこの世界に生きる物についてだな」


そういうと、クニックは本棚から分厚い本を持ってきた。

パラパラとページを探すクニック。


何を探しているのか、とライもその手元を覗き込んだ。


「ライ、亜種あしゅって聞いたことはある?」


「……アシュ?」


またもや聞きなれない言葉。


誰か、人の名前だろうか?と頭を巡らせる。


「亜種って言うのはね、例えばこういう生き物の事だよ」


パラリ、とページを捲りライの方へと本を向けた。


「………」


そこには美しい女性の図…いや、上半身は女性、下半身は魚の尾のようになっている生き物の図が乗っていた。


「これって……人魚?」


これもソウリャから聞いたことがある。


海の上で美しい歌声を聞いたら近寄ってはいけない、と。


それは“人魚”とよばれる人間の顔をした魚の怪物の声で、それに寄っていくと海の中へと引きずり込まれてしまうから。


「そう、正解」


「人魚なんて、本当に存在してるの…?」


こんなものは迷信だと思っていた。

海上で過ごす船乗りたちへの戒めなのではないかと。


「俺も自分の目で見た訳では無いけど、存在はするよ。とある国ではこの鱗が高値で売られているんだ」


「へ、へぇ…」


「後はほら、こういう小人とか、化け猫とか。こういった我々が普段“怪物”と呼ぶ生き物を専門用語で“亜種”と呼ぶんだ」


ページを捲りながら説明される。


「彼らは皆恐ろしい生き物だ。人の者を奪ったり、人を騙したり。中には人を食べる亜種も存在する」


一瞬、蝋が揺らぐ。


「人を…食べる??」


背筋がゾワッとした。


「ああ、しかも彼らは大抵、強大な魔力持っている。つまり、こちらが力でどんなに抗おうが叶わないのさ」


魔力と聞いて、がザラで目の当たりにした闇の民の力を思い出す。


あの月の無い夜の光景が鮮明に浮かび上がってきた。



ぶるりと身震いをする。



「ごめんよ、そこまで怖がらせるつもりは無かったんだ。だけど、覚えておくといい。これから世界中を歩き回る訳だから、いずれどこかで“亜種”には出会う。その時には極力近づかないようにするんだ」


“奴らは人ではないから、話が通じる相手じゃない。

だが、獣のように無力ではない”


クニックはそう言って本を閉じた。


この世界にはそんなにも恐ろしい存在がいたのか、と改めて恐怖を覚えた。

今まで自分がいかにのうのうと過ごしてきたかを思う。


ふと、ある事に気づいた。


「ねえ、そんなに亜種は強いのに、どうして僕達を襲って来ないの?」


「……ん?」


彼は本棚に本を戻そうとした体勢のまま振り返る。


「彼らは強い魔法が使える。僕らより強い力を持っているんですよね?それなら、どうして僕達の国を襲ってこないんですか?」


弱いものは強いものに虐げられる。


学校に行ってなくたって、その位は分かった。


すると、彼はシャツの胸元に手を入れる。


そして、ジャラリとあるものを出した。



それを首からはずしライの目の前へと出す。


「これ、なんだか分かる?」


かなり太めの銀色のチェーン。

そしてこぶし大のペンダント。


「………ネック…レス…?」


かなり大きなネックレスだった。



「いや、ちがうよ」


まあ、そうだろうな。と思いながらもソレを凝視する。


「さわってもいいよ。慎重にね」


壊すな、と釘を刺されてから渡される。


自分の手に全ての質量がかかると、予想以上のズッシリとした重さが分かった。


ペンダントの部分に何かないかと手を這わす。

すると、丁度上になる部分に微かな引っかかりがあった。


親指でグッと力を加える。


すると…。


「…あっ…!」


パカリと綺麗に開いた。

まるでそれは女性が使うコンパクトのように二つに開く。


瞬時に眩い光が放出され、部屋一体を明るく照らした。


ライはその強い閃光に目を細めながらも、その光の正体をみつめる。


金属で出来たコンパクトの中央に、なにやら嵌められている物がある。


よくみると、微かに輪郭だけが見えてきた。


しかし、輪郭を捉えるのがやっとの事。

その輪郭の中は光が錯乱していて凝視することができない。


何がそこにあるのか、結局分からず終いだった。


ライが諦めた途端、部屋が真っ暗になる。


「あまり目に良くない」


クニックかコンパクトを閉めたのだ。


突然に訪れた沈黙。

まず、何が起こったのかを頭で整理する。



ペンダントが、二つに開いて…そして…その後にものすごい光が…


考えても驚きしか出ない。




先に口を開いたのはライだった。


「クニックさん…い、今のって…?」


思考がまとまらずに、答えを求める。



「あれは、魔蓄石まちくせき


「ま…まちく…?」


またもや知らない言葉が出てくる。


「そう、魔蓄石まちくせき。魔力を蓄積できる石、というものだ」


先ほどの強烈な光を放つ物の正体。

それは、魔力を溜める石だったのだ。


ひとり納得するライにクニックは続ける。


「この世界に人間は三種類存在する。一つは“自由に魔力を生み出せる者”。一つは“存在する魔力を操れる者”。残る一つは“魔力を使えない者”」


指を三本立て、左手で1本ずつ摘みながら説明した。


「この石は、“存在する魔力を操れる者”の為に発明された石なんだ。彼らは“自由に魔力を生み出せる者”と違って魔力がそこには存在しないと力を使えない。だが、魔力なんて目に見えてそこらに落ちているものでは無いだろう?だから、こうして魔力を閉じ込めた石を携帯するんだ。いつでも必要な時に操れるようにね」


へええ、とライは頷く。


「それじゃあ…クニックさんは魔法…使えるの??」


ガザラで使えるのは長老たった1人だった。

それ故、魔法が使える人というのはとても貴重な存在だったのだ。


まさか、こんなにも若い青年が使えるなんて驚きでたまらない。


「使えるよ。まぁ、魔法じゃなくて、こういうのは魔術って言うんだけどね。因みに、王国軍に所属する人は皆魔術が使える。まず使えることが第1条件なんだ。そして、これは国からの支給で配られているんだよ」


それじゃなきゃこんな高価な物、個人じゃ手を出せないよ、とクニック鼻で笑った。


「なぜ亜種から攻撃を受けずに平和に暮らしていけるか。それの答えが魔蓄石これなんだ。これの力を使って国は自国の領土に シールドを展開している。一種の防御柵になってるんだ。そして、更に我々人間は武器が使える。この魔術と武器を駆使すれば、亜種よりも優位に立てるって事さ」


へええ、とただただ聞くだけのライ。

全く知らないところで、自分もこの魔蓄石の加護を受けていたようだった。


「因みに王国船は全てのこの魔蓄石を使って動いてる。これを爆発した時に出るエネルギーで動いてるんだ。それと同時にシールドも張られているから、そう簡単には破られないのさ」


彼は得意げに続ける。


「マラデニー王国がここまで発展できたのも魔蓄石コイツのお影って言っても過言じゃあ無いな」


そういうと、彼は大切そうに服の中に魔蓄石をしまった。

そして本棚の下の方をまさぐる。

ライがそれを覗き込むと、かれはクルッと振り返り微笑んだ。


「さて、気分転換になったかな?もう少し続けるよ。まずは基本魔術の原理からだ。君も少しは魔術という物を知っていた方がいい」


ドスン、と目の前に山のような本がつまれる。


「………!!?」


あまりの量に目をぱちくりとさせた。


「さて、初めての学校だよ、ライ君」

「は…はいいい!?!」


時計は既に天を指している。

その時計と何重にも重ねられた本の山を交互に見比べ、ど肝を抜かれたライであった。



ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


今回はこの世界の設定説明(?)のようになってしまいました((


つまんねー(´-ω-`)


と思っても読んでいただけると幸いです!


ここだけの話…

この中に後々の伏線がたんまりと入っております☆



ここで語彙の説明


⚫常定教育

四年制の教育機関。こちらの世界での小学校に相当する。ただし、義務教育ではないので、大半の子供たちが受けることはできない。


⚫進定教育

二年制の教育機関。常定教育を卒業した者が進める。こちらの世界での中学校に想定する。

こちらも義務教育ではないので、大半の子供たちが受けることはできない。


⚫亜種

劣っている種族、2番目の種族の意味。


⚫魔蓄石

魔力を貯めることの出来る石。こちらの世界での充電器のようなもの



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