私のあなた
あなたに、心はなかった。感情はなかった。
ただ、表面に浮かんだ笑顔が、私の方へ向いている。
それだけで良かった。あなたが私を見てくれていること。私があなたを見つめられること。それだけで、紛れもない幸せだった。
私はあなたに語りかける。
「ねえ、今日は何があった? 私はね――」
私がどんな話をしても、あなたは何も応えてくれない。けれど、笑顔のまま、ただ私の言葉を受け止めてくれる。
「そうだ、今度買い物に行こうよ。雑貨屋さん。もっといいのが欲しいんだ」
あなたは肯定も否定もしないけれど、私にとってはそれで充分だった。その笑顔を、また明日も見たい。
買い物に出かけた私は、雑貨屋さんで色々なものを手に取った。あなたに似合うものはどれだろう。あまり賢くはない頭で、必死に考えた。ああでもない、こうでもないと、小一時間は悩んだだろうか。
「……うん、これだ!」
悩んだ末、選び抜いて、決めた。
あなたに合う、額縁はこれだ、と。
あなたは今日もいつも通り、心のないまま、私に笑顔を向ける。
黄色いチューリップをモチーフにしたフォトスタンドが、あなたの笑顔を際立たせた。