始まりは、壊れていく鍵の音
ガシャン・・・・・
鍵が壊れた・・・
ガシャン・・・・・
錠前が壊れた・・・
ガシャン・・・・・
管理されていた本棚が壊れていく・・・
ガシャン・・・・・
いくつかの世界が狂っていく・・・
ガシャン・・・・・
直さなきゃ・・・
ガシャン・・・・・
直さなきゃ・・・
ガシャン・・・・・
直さなければ世界は狂ったままだ・・・
ガシャン・・・・・
世界の鍵を直さないと・・・
ガシャン・・・・・
世界の錠前を直さないと・・・
ガシャン・・・・・
手遅れになってしまう・・・
ガシャン・・・・・
世界は狂ったままになってしまう・・・
ガシャン・・・・・
見つけなければ・・・
ガシャン・・・・・
錠前と鍵を直せる者を・・・
見回りをしていた者が、聞こえるはずのない場所からの音を不振に思い見に行くと、持ち出し禁止書の部屋が荒らされていた。
「た・・・・大変だっっっ!!!」
慌てながらも誰も入らないよう処置をしてから上司の元に急いだ。
ちょうど同じ頃、いつものように書類をまとめていると何か嫌な感じがした。
なんの感覚か考えていると、ものすごく慌てた部下が入ってきた。
普段なら礼儀正しいのだが、今回はそんな事に構って入られないほど慌てている。
「いつもならノックをしてから入るのに・・・・・・・・・・どうした?」
肩で息をする部下に、何かまずいことが起きたと予想し何があったかを聞く。
部下は真っ青な顔をし震える声で告げる。
暗い部屋の奥の奥に隠された扉の先にあった本棚に収められている世界の鍵が壊されたと。
館の主にして管理人は、見廻りをしていた部下にこの惨状を知らされた瞬間、気を失い倒れてしまいそうになったが、現状がそれを許してくれなかった。
一刻も早く対処しなければ大変な事になるからだ。
知らせてくれた部下と書類整理を手伝っていた部下を引き連れその場に向かう。
向かっている間にも感じるのは、緩やかに壊れていく世界の気配。
急がなければと気持ちだけが急いていく。
部屋についた管理人が目にした現状は、ひどいとしか言えなかった。
本棚は壊れ、本についている世界鍵も壊れ、表紙がぼろぼろになっている。
管理人は鍵の破損をこれ以上広がらないように時間を止めるため、自分の持つ力を振るう。
管理人を中心に魔法陣が形成され光があふれていく。
『この部屋に存在する本棚たち全ての流れる時間よ・・・・・・』
不思議な声色で力が込められた言葉を紡ぐ。
『現在の時間よ・・・・止まれ』
最後の言葉を告げた瞬間、魔法陣の光が強くなり力が部屋を覆い尽くした。
元の明るさに戻ると本棚の時間は止まっていた。
これにより壊れていく鍵の時間を止め、もともと鍵に備わっている自動修復で世界の鍵を直し世界が狂っていくのを食い止めるが、時間を止めても自動修復ができないほど破損してしまった世界の鍵があった。
その存在に気づき、これ以上は無駄だと判断する。
「私ができるのはここまでか・・・」
「館長、いかがなさいますか?」
管理人は悔しそうに呟くと、部下の一人が今後の動きを聞く。
自分の力が及ばないのなら、鍵を修復できる者を見つけるしかない。
自分達で対処できなかったのが悔しい。
見ず知らずの他人に迷惑をかけるのが辛い。
だが事態は悪く、ここでくよくよ悩んでいる暇はない。
目をつぶっていた管理人は、まぶたを持ち上げ意を決した。
「仕方ないが・・・・・、召喚てもらうしかないな」
そう言って右手を軽く振るうと、管理人を中心に複雑な陣が描かれる。
不思議な光を放つ陣の中で、風もないのに管理人の髪がふわふわと揺れる。
先程と同じような不思議な声色で、力が込められた言葉を紡ぐ。
『館の主にして管理人が乞う。世界を護る鍵を修復せし者を召喚びたまえ』
光が一瞬カッと強くなると、すっと陣が消えた。
管理人から力の本流が消える。
ほぅっと、小さくため息をつく。
おそらく気が張っていたのだろう。
「もうすぐ客人たちが来る。そうだな・・・・私の分も含めて三人分ほどのお茶の準備を」
「かしこまりました」
管理人は部下に告げると、承知した部下は言われたことをするために部屋をあとにした。
それを見送った管理人は、もう一度部屋を見て悔しそうに顔を歪める。
ここの管理人になってから長いが、世界を守る鍵がこれほどまでに凄まじい壊れ方をしたのは初めてだ。
ある程度の壊れ方ならば自動修復でどうにかなるが、これはどうにも出来ない。
世界が緩やかに壊れていくのを防がなければならないので、鍵を修復できし者を召喚んだ。
緩やかに狂い始めた世界を正常な世界に戻すために。
くるりと向きを変え、部屋を後にした。
自分が召喚んだ鍵の修復者をもてなすために・・・・・。