「奴ら」
余計なことは言いません。
背景を読み取りづらいかもしれませんが想像力を働かせてください。
ーーーそれでは。
いつになればこの夜は明けるのか…。
夜道を一人で歩く。人の姿は見当たらない。孤独感を覚えるが、それ以上に緊張の糸を緩められない。
…今日は出会いたくない…。
そんなことを考えながら歩き続ける。もし出会ってしまえば命がけで走り逃げなければならない。背中に人を担ぎながら走るのは結構な体力を消費する。しかし走らなければ結末は決まっている…。
ーーーそう…ただ「奴ら」の餌食になるだけである…。
………
……
…
「はぁ…はぁ…はぁ…もう…来ないか…?」
物陰に身を伏せ周りを確認する。「すり歩く」音は聞こえない…。
「…来てないようじゃな」
「はあああぁぁぁ…」
大きく息を吐く…。それと同時に安堵する。
今回もどうにか「奴ら」から逃げ切れたのだと。
「しかし、あまりじっとしてもられんぞ?…まぁ安心出来る場所などあるかどうかも疑わしいが…」
「わかってる…だけど、もう少し休ませてくれ…」
「…そうじゃな、もう少し身を潜めておくとするかの」
僕の名前は桐ヶ谷 透。三日前までは普通の学校だった。
隣にいるのは鳳凰院 紫乃。知り合ってまだ二日しか経っていないためそんなに詳しくは知らないが隣町のお嬢様学校に通っていたお嬢様らしい。そのせいか変わった喋り方をするやつだ。そして恐ろしく幼児体系。喋り方とあいまって変なやつだ。
そして僕らは三日前から豹変してしまった世界でどうにか生き延びている…。
「…さて、もういいよ。そろそろ行こう」
おもむろに立ち上がる…留まり続けるのは危険だと僕も理解している。
「しかしどこを目指す?闇雲に歩き続けるのも体力の浪費であろう?」
「おいおい、「奴ら」から逃げる前にちゃんと話しただろ?人が避難していそうな場所に行こうって」
「む…そうじゃったな。「奴ら」から逃げるので精一杯でつい…な。許せ桐ヶ谷」
こいつは僕のことを苗字で呼ぶ。最初僕も紫乃のことを苗字で呼んだのだが長くて言いづらいだろうから紫乃でいいと言われた。
だから僕のことも名前でいいと言ったら図に乗るなと言われた。妙なやつである。
更に、こいつはすぐ謝る。お嬢様っていうとプライドが高いイメージなのだが…でも、これはこれで好印象だ。だが、やっぱり妙なやつである。
「いいよ、気にしてない。確か…そうだ、こっちの方に警察署があったはずなんだ」
荒れてしまった街を見渡し方角を確認する。改めて見るとやはり三日前までの街並みは見る影もない…。
「警察署か…なるほど、行く価値はあるのぉ。では行くとするか。後ろは任せろ」
「ああ、頼んだ」
そして二人であまり足音を立てないように進んで行く。
広い道を歩く時は色々な方向に気を配らなくてはならない。いつ「奴ら」がどこで出てくるかわからないからだ。
「…止まって」
「………」
交差点にさし当たったところで紫乃を止める。理由は一つしかない。
ーーー奴らだ…。
こちらにはまだ気付いていない…と、なるとこちらを見ていない時に素早く渡って向こうの物陰に隠れたいところなのだが…
「…三匹か…厄介じゃの」
「一匹ならタイミングも図りやすいんだけどね…」
「…気付かれぬよう、ここを渡りきるか…迂回するかじゃな…」
警察署まではもう少し距離がある。ここは迂回していこう…。
「紫乃、仕方がない。ここは迂回していこう」
「了解だ」
そして僕らが後ろを振り返った時…
ーーー「奴」はいた…。
「ォギギアアアアアアァァァァァァ!!!」
「なっ…!」
「馬鹿者!!!走るぞ!!!」
紫乃に手を引かれ一気に警察署の方まで走る!突然の出来事と恐怖に思考が停止する。
何故「奴」がいた!?何故接近に気付けなかった!?何で何で何でなんでなんでなんで!?!?!?
「ォギギアアアァァァ!!!」
「ちっ…!」
「っ………!」
奴の雄叫びに気付いた奴らもこちらに迫って来ていた!
「振り返るでない!前だけを見んか!しっかりせい!!!」
「あ、ああ………!」
紫乃の喝でやっと頭が働きだす。走って走って逃げなければ…!
「曲がるぞ!紫乃!」
「了解じゃ!」
交差点を渡り切ってから通りを曲がる。これでとりあえず奴らの視界からは消えることが出来ただろう。
そしてもう少し走り丁度身をひそめられる場所を見つける。
「そこに隠れよう!」
「ああ!」
そして身を隠す…奴らが追ってくる音が聞こえる…正直なところさっきから震えが止まらない…!
見つかるな…!見つかるな…!
それだけを祈りつつ様子を見る。しばらく待ったところで、ようやく何も音が聞こえなくなる。
「…はぁ…」
「今回もどうにか…じゃな…」
ようやく胸を撫で下ろす…今回も助かったのだと…。
だけど間近で見た奴らの容姿がまだ目に焼き付いている…。
人の姿をしているが皮膚はただれ腐敗しており目は白目をむき、歯や爪は鋭利に尖っていた…。思い出しただけで胃液が逆流しそうだった…。
「全くしっかりせい…かなり危ないところだったのじゃぞ」
「ああ…ごめん…ホント助かったよ…気を付ける…」
確かに僕は固まってしまって動けなかった…紫乃にはホント助けられたよ…。
「…いや、違うな。私が後ろの警戒を怠ったのがそもそもの原因じゃな…。すまん、桐ヶ谷…私はお前を責めることなど出来なかったの…」
「そんな!…あれは事故だよ、気に病まないでくれ」
「そう言ってくれるのは嬉しいのじゃが…」
「何にせよ紫乃、僕は君がいなかったらさっき死んでいたよ…それだけは確かだ。だから…ありがとう」
「…う、うむ…」
照れたように顔を俯かせる紫乃。可愛い顔してるんだけど…こうもちっちゃいとな…。
ガッ!!!
「いって!!!」
「今、何か失礼なことを考えたじゃろう。天罰じゃ。甘んじて受けぃ」
思いっきりスネを蹴ってくる紫乃!いたたたたた…。
「いくら何でもスネは…!く、くそう…」
痛みに耐える…そんな顔に出ていたのだろうか、僕は…!
「ほれ、そろそろ向かうぞ」
「あ、ああ…少し戻ることになるか…」
そして僕らはまた警察署へと歩き始めた。
「紫乃ちゃん偉いっ!ぶいっ☆ぶいっ☆」
「キャラ崩壊してるけど…大丈夫?」
ガッ!!!