ステータスの低い公爵家の姫との婚約を破棄したので、伯爵家の姫と結婚することにします。
俺は転生した。
バイトの帰りがけに交通事故にあった俺は、気がつけばゲーム世界の王子になっていたのだ。このゲームはやり込んだこともあり、簡単にイベントをこなしてレベルをあげていった。
そして、俺はあることをしようと思った。結婚イベントを変える事だ。このゲームの主人公である王子は、公爵家の姫と結婚することになっていた。しかし、この姫は外見は可愛いが、ステータスは平均よりちょっと上なだけだ。しかも声優もあまり好きではない。そこで、ステータスが高く、お気に入りの声優が演じている伯爵家の姫との結婚を画策した。
「婚約を破棄する」
舞踏会の真ん中で、俺は公爵家の姫にそう告げた。周囲がざわめく。俺は姫を指さし、自分のセリフの余韻に浸った。姫は涙ぐみ、こちらを見据えている。泣くがいい。俺は俺の道を行かせてもらう。
しかし、状況は俺の知らない方向へと曲がって行った。
まず王が烈火のごとく怒ったのである。ベテラン声優が演じる王は、そのイケボで俺を罵倒する。王家と公爵家の結婚は、ただの政略結婚ではなかったのだ。国をまとめるための大事なイベントであり、この結婚はその重点であったのだ。
だが俺はそんな批判は馬に念仏で受け流した。このゲームの王子は、国内でも並ぶ者の無い剣術使いだ。少々の敵は倒すことができる。公爵家ごときが刺客を放ってきたとしても心配はなかった。
しかし、方向はどんどん変わってきた。
公爵家が叛乱を起こしたのだ。俺は知らなかったが、公爵家は元は王家と出自を同じくする名家だったのだ。公爵は公衆の面前で姫を辱められた事に立腹し、さらには王家と公爵家の婚姻を仲立ちした侯爵家も、その面目を潰されたと公爵に手を貸したのだ。
俺は大丈夫だと思っていた。王家には充分な兵と武器がある。ゲームの裏技も知っている。負ける気はしなかった。
だが、俺の思惑は大きく外れた。
王家の兵の多くも叛乱軍についたのだ。国を継ぐことになっていた俺についていけないと思ったのだろう。
敵兵は城下町に迫りつつあった。さらには、国境を接する敵国もこの機を狙って兵を進めてきた。王はもう何も言わなかった。わずかな兵しか城にはいない。たとえ俺が高レベル、ステータスMAXの存在でも、これだけの敵兵を相手には勝つことができない事がわかっている。
俺は逃げ出す事にした。イベントのフラグ次第では、敵国の姫と仲良くできることを知っている。うまく行けば、敵国の王になることも可能なのだ。
城を脱出し、城下町から外に出た。街に向かって侯爵の軍勢が進んでいるのが見えた。王家はもう終わりだ。とわかった。
たかが婚約を破棄しただけで、どうしてこんな事になったのか。俺はわからなかった。何か致命的なフラグを踏んだのか? それとも隠しイベントか何かだったのか? 攻略サイトの内容を思い返す。しかし、理由はまったく見当がつかなかった。
まあ、いい。今はここから離れ、敵国に逃げ込むことだ。
俺は街道を進むことにした。どれだけ歩けば敵国につくのだろうか。ゲーム内では目的地を選べばすぐだったのに、歩かねばならないというのはどういうことだ。
「そこを行く、あなた」
声が聞こえた。そちらを向くと一人の女が立っていた。思い出す。公爵の姫のお付きのメイドだ。この女も攻略対象になっているから覚えていた。まぁ、結婚というわけではなく、とあるイベントで傷ついた俺を看病し、一夜を共にするだけだが。
「なんだ?」
俺がそう言うと、メイドはにっこりと笑った。
激痛が腹をえぐった。
見ると、腹に短剣が柄の部分まで深く喰い込んでいた。メイドは笑いながらもう一本の短剣を抜き、微笑みを浮かべたまま俺の腹に突きいれた。
「姫様からの伝言ですわ」
メイドはもう一本短剣を抜き、俺の首に当てた。
「無様に死んで、と」
短剣の刃が喰い込む。血が流れだす。メイドが手を止めた。
「そして……苦しんで死ぬようにしろ、と言われましたので」
俺は街道に倒れた。腹の傷から血と何かが出ている。俺は首の傷を押えることしかできなかった。そういえば、このメイドは戦闘スキルが高かったっけ。
メイドは優雅に血をハンカチで拭き、それを地面に落とすと、微笑みを浮かべたまま立ち去った。俺は一人、街道に残された。
俺はここで死ぬのか? そんなイベントは無いはずだ。主人公の俺が死んだら、ゲームは終わりになってしまう。待てよ、俺はいったい誰がやっているゲームの中にいるんだ? そもそもここはゲームの中なのか?
俺は血だまりの中でもがいた。もう、そうする事しかできなかった。
俺が何をしたというのか。ただ婚約を破棄しただけじゃないか!




