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RAIN  作者: 恵奈
9/21

雨の止むとき

夫婦。




「えっ、お前どこから掛けてるんだよっ!?」


 電話越しの怒鳴り声に、思わず身を縮めた。

 ………何も怒鳴らなくたって。


「だから、駅前。………もうすぐ仕事も終わるでしょう?」


 休日出勤の、我が夫に電話をする。


  ………我が夫………、うわ、なんかヘン。


「どっかでゴハン食べようよ~。お寿司食べたいっ。なんかものすっごくお寿司食べたい気分~」


 これもツワリなのかなぁ。

 もともと食が細いほうではないけど、なんだか最近ものすごく食欲旺盛。

 いっぱい食べたいし。

 いつも食べてたいし。

 もしかしたら、ダーリンよりもよく食べてるかもしれない。


  ………ダーリン………、うわ、ますますヘン。


 なんてことを考えてたら、電話の向こうで、ばたばた、とあわただしい音。


「駅前、なんだなっ!? すぐ行くから待っとけ。………と、いや、だめだ、とりあえずどっか店入れ、店。サ店か、なんかっ」

「なんでー。すぐ来るんでしょう? 何でサ店に………」


 向こう側の、息を吸う気配に、思わず携帯電話を耳から離す。


「身体冷やすな、っつってんだよ!!」

「もうっ、怒鳴らなくても………。………と、切れてるわ」


 無機質なピーっ、という機械音に通話ボタンを押す。

 はあっ。

 ため息をついてから、そっと、下腹部に手を当てる。

 まだ見た目にはわからないけど、その手のひらの下。そこには小さな命が宿っている。


「パパは、心配性だねぇ」


 嬉しくてつぶやく。


  ………パパ………、うわぁ、メチャ照れる~/////。




 雨の日の駅前は、かなり華やかだ。

 色とりどりの傘が慌しく行き交う。

 人待ち顔の壁際族に加わりながら、私は空を見上げた。

 まだ少し曇ってるし、まだ雨は止みそうもない。

 だけどなんとなく思う。

 ………夜までには、きっと止む。


 手に持った傘から落ちるしずくが、服や靴をぬらさないように気をつけながら、時計を見た。

 5時か………。

 きっと、あいつってば5分もかからずに来るんだろうなぁ。ゆっくり歩いたら、15分ぐらいはかかる距離なのに。

 ………まあ、そうしてくれるの、嬉しいんだけどね。

 走ってくるはずの道を、その姿を探しながら眺める。

 私に会うために、走ってくる姿とか、顔とか。

 見逃せないじゃない?

 実際は………私だけじゃなくて。おなかのベビイのためでもあるんだけど。


 妊娠した、と告げたときの顔を思い浮かべる。

 そして、その表情は、私が初めて好きだと告げた時の嬉しそうな笑顔とダブる。

 私の中で、一位になってる「とびっきり」の顔。


 幸せだな、と思う。

 彼は私のことを、ずっとずっと好きでいてくれた。

 私が、自分の気持ちに気付かない間も、ずっとずっと………。

 何でも話せる、一番の男友達。そう思ってたのにな。

 友達のままの部分と。

 恋人のままの部分と。

 そして、もうすぐ、パパになる部分………。

 こんなふうに、彼と結婚した今も居心地よくいられるとは思ってもみなかった。

 今まで、自分が恋愛だと思ってしていたもののすべてが霞んだ。

 熱い想いも、穏やかな気持ちも、幸せな毎日も。

 彼が、全部くれる。





 予想通りの、彼を見つけた。

 傘の間を縫うように、走ってくる。


「あちゃー、私にはうるさいくせに………」


 傘も差してないその姿には、苦笑するしかない。

 私への愛ゆえに?

 まだ見ぬ我が子への愛ゆえに?

 私の前を通り過ぎていく人が怪訝に見ていく。

 ………だってしょうがないじゃない、嬉しい時には笑うものでしょう?

 走りながら、私を探し出す視線。

 ひらひら、と手を振ると、さらに加速して走ってくるその姿。

 ………それをカッコイイと思ってしまうのは………愛ゆえに? 笑




「ハイ、お疲れー♪」

「み、店に入ってろと………」


 息、あがってますわよ。


「だって。智己の顔、ちょっとでも早く見たかったんだもの。智己だって、ちょっとでも早く私の顔を見たかったから走ってきたんでしょう?」

「………」


 カバンから出したハンカチで、髪にかかる雨のしずくをぬぐう。

 あれ。………あんまり濡れてない?

 空を見上げると、垣間見える青空。


「あ。………もうすぐ雨が上がるよ?」

「柚伽。………はぁっ………」


 あら、ため息?


「………大事にしてくれよ?」


 そう言う智己の、なんとも言えない顔。



『午後に強く降り出した雨は、夜には止み、キレイな星空が見えることでしょう』


 私が気象予報士なら、きっとそう言ってたと思う。




「はい。あなた♪」


  ………あなた………、うわ、これもダメだわ。笑




柚伽×智己@世界は彼女のためにある。

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