通り雨
年齢差。
雨が降ってきた。
教室からグランドのほうへ視線を向けると、細い、春の雨が光って見えた。
傘……持ってきてないや。
伸びかけの髪を、ついいじってしまう。
「どうしても、ダメ?」
その言葉を聞くのは2度目。
そういえば……私。
視線を教室に戻すと、机をはさんだ向かい側。
頬を赤くしたクラスメートがいた。
……告白されてたんだっけ、今。
待っててくれてるんだ、私の答えを。
だから私は答えを出さなきゃいけない。
その答えは、最初から決まってるし、たぶん相手もソレは知ってると思うんだけど……。
髪に触れてる手で、口元を隠す。
……罪じゃあないでしょ。
初めてだもん。
……こんな風に、同い年の男の子に、スキって言われること。
やっぱり……嬉しいじゃない。
緩んだ口元を、相手に見せないように。
そっと相手の顔を伺う。
……肩、力はいってるよー、って、緊張してるね?
……そんな怖い顔しなくてもー、って、それだけ真剣なのか。
すっごくドキドキしてるんだろうなぁ。
……思い出しちゃうよ、あの日のこと。
大好きな人に。
子ども扱い、もしくは妹扱いしかしてもらえなかったツライ日々。
そんな日常を打破すべく、立ち上がった(ちょっとオーバーだな)あの日の私。
今の住田君と同じくらい。……ううん、もっとどきどきしてたかも。
私がじっと見てるのに気がついた住田君は、唇をかんでちょっとそっぽを向いた。
……ごめんね?
嬉しいけど。……答えてあげられないんだ、私。
「……ごめんなさいっ」
思い切ってそう言って。ぶんと音がするぐらいの勢いで頭を下げた。
こういうとき。痛いよね、やっぱ。
断るほうも。もちろん断られるほうも。
「やっぱりダメか。うん。あ、あんまり気にするなよ、ダメもとで告っただけだからさっ」
健気なんだなぁ。
住田君は照れ隠しのように頭をポリポリとかいて、私にそう言ってくれる。
「まあ、はっきり振ってもらってすっきりしたよ。しばらくは落ち込むかもしんねーけど、またしばらくしたらオレらしく馬鹿やるからさ、ふつーに友達してくれよな?」
「うん……」
いつも教室の中で見る住田君と違って、少し頼もしい。
……ありがと。
キライじゃないんだよ?
だけど私には、好きな人がいるから。
君の事、スキにはならないんだよ。……ごめんね?
「じゃあ、悪かったな、引き止めて。気をつけて帰れよ?」
「うん。……じゃあ、また明日、ね」
そう言うと、笑って手を振って応えられた。
「おう」
住田君一人残して、私は教室を出た。
―――急いで帰ろう。
雨がまだ小降りのうちに。
……会いたくなっちゃった、私。
少しぐらい濡れても平気。
思い出したあの日のドキドキを胸に、会いに行っちゃおう。
好きって言うんだ。
何度言っても飽き足りない、言い足りない私の気持ちを伝えるの。
……クラスメートから告白されたって言ったら、妬いてくれるかな。
スカートのすそが少しぐらいめくれても平気。
伸びかけの髪が少しぐらいハネても平気。
走ってって、思いっきり胸に飛び込んでやるんだ。
「大好きよ」って。
グラウンドを走り抜けて、門を出る。
今からなら、会社の前で待ち伏せできるかな。
おどろくだろうなぁ。
……って思ってたのに。
正門の近くで見慣れた車。
あれって……。
窓が開いて、運転席から、一番会いたかった人の顔が覗く。
「雨。どうせ傘持ってないと思って」
「きゃーっ、うれしいっ、迎えに来てくれたのっ?」
私の黄色い声に、苦笑しながら。
「ついでだ、ついで。営業で近くまで来てたからな」
「でもうれしいよ~」
運転席の外で、私は思わず飛び跳ねる。
「あのね、あのね。話したいことあるのっ。……でもね、とりあえずね、……大好きv」
「バッ、オマエ。そんなことはいいから早く車乗れよっ、濡れるぞ!?」
うわ。照れてる。
「んふふ~、大丈夫だよ。ホラ」
空を指差す。
気づいてなかった?
私しか見えてなかった?
「止んでるよ、もう。通り雨だったみたい」
「……。いいから乗れ」
「はーい」
怒られないうちに、と。車へと乗り込む。
そして、フロントガラス一面についた雨の名残の水滴を目隠しにして。
ほっぺにチュウしてもいい?
聞いたら、言ってくれるかな?
『ねえ、亘ちゃん。……乃亜のこと好き?』
亘×乃亜。




