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RAIN  作者: 恵奈
3/21

小さな疑問符

女子高校生。




 好き。


 ……ってわけじゃないんだけど。

 ビミョウに気になる存在?

 それがあいつで。


 同じクラスの、中島。


 最初はね。

 うちのクラスにこんな奴がいるって事さえ気付かなかったぐらいで。

 何とも思ってなかったのよ、ほんとに。

 きっかけは……なんだったのかなぁ。

 ああ、そっか。

 親友のさやかにつきあってバスケ部の練習見学に行ったときか。さやかの彼氏がバスケ部だからさ、たまに付き合わされるんだけど。

 そのときに目に付いたわけよ。

 黙々とシュート練習してる一人の部員。

 あのラインから投げるの、3Pシュートって言うんだったっけ。

 アレをさ、他の部員の邪魔にならない場所でずーっとしてる姿がさ、なんだか知らないけどすっごい気になっちゃった。


「さやか、アレってなんか罰でも受けてるとか?」

「ああ、中島君? 秘密トレーニングのひとつらしいよ。慎ちゃんの個人的しごきその1とも言うけどね」

「へぇ」

「めぐ、知らないでしょ。中島くん同じクラスだよ」

「え、うそ、ほんと?……知らなかったなぁ。影薄いんじゃない?」

「あははは、そうでもないと思うけど。どっちかって言うと無口だから」

「ふうん」


 そんな会話をしたことを思い出した。


 中島は、さやかの言うとおり、かなり無口だということをまず知った。

 観察してるとわかるけど、必要なこと以外あんまりしゃべらない。

 それどころか、あんまり笑いもしない。

 たいてい一人でいるのが多くて、昼もどっかで済ましてるらしくて、教室にはいない。

 部活に出てるときは、結構表情豊かなくせに、教室ではさっぱり。

 でしゃばらないし、常に無愛想だし。

 こりゃー、私が同じクラスにいること自体気付かないのも無理ないって感じで。

 私はといえば、いつも騒ぎの近くにいるし、年中にぎやかだから。

 ほっときゃいいんだけどさ? 今までなんとも思ってなかったんだから。

 それなのに。

 背、高いのに、こんなに存在感ないのはチョット問題アリじゃない?

 なんて。

 どうでもいいことなんだけど、気になっちゃうんだよ、ほんと。

 朝、教室に入って一番にやつの姿を探して見ちゃったり。

 ほんとたまにしか聞けないんだけど、声。

 妙に低くて響く声で。

 ふいに耳に飛び込んでくると、思わず振り向いて確かめたり。

 ちょっと日常生活に影響が出るくらい気になりだしちゃって、タチが悪いの。




 ある日、中島が鞄の中を探ってるときに、ちらりと見えたものがあった。

 ナンだろう?が最初の印象。

 その2日後に、またそれは見えた。

 傘?

 それからまた1週間たって、まだ中島のカバンの中にはそれはあった。

 赤い折りたたみの傘。

 なんで、コイツがそんなもの持ち歩いてるの? が最終的な疑問。

 男のクセに傘を常備してるってかなりヘンでない?

 っていうかソレ、女物じゃない?

 もしかして、ワケあり?

 ……なんでなんでなんでーーーーーーー?????


「最近よく中島くんのこと見てるね」

「あー……ん、そうかも」

「めぐちゃーん?もしかして……」

「ああ、それはない。ただの好奇心」

「好奇心?……何に対して?」

「……」


 さやかになら、目撃した赤い傘のことを話してもいいんだけど、なんとなく話せなかった。

 聞かないで?

 と、懇願、アイコンタクト。

 ありがたいことに、ふうん、と曖昧に笑っただけで、話題を変えてくれる。ああ、ありがたや。

 それにしても。

 ……なんでだろ……???




「中島?」

「…………」


 数日後。

 親戚の家に届け物をしにいった帰りのことだった。

 急に雨が降り出したので、親戚から傘を借りて駅までの道を歩いてる途中、ばったりと会った。

 中島は傘もささず、足早に歩いていた。

 呼び止めたのが私だということにびっくりした様子で、足を止めてくれる。


「あんたのうち、この辺だったのか」

「あ、ちょっと用事で来ただけ。……傘無いの?」


 私の頭の中には、赤い折りたたみ傘が浮かんでた。


「ああ」


 ?……今日は持ってないのかな。

 気が付いたら、その言葉は口をついて出ていた。


「家、すぐ近く?……顔見知りのよしみで送ってってあげようか」


 言ったあとすぐに後悔する。断られる、と思って。

 なんか悔しいじゃない、あっさり断られるのって。

 だから、先手を打って傘を差し出す。


「ほら、普通男が持つもんでしょ?」


 中島は、見慣れた肩をすくめる仕草をして、黙ったままそれを受け取った。


「部活終わったら、今頃になるの?いつも」

「……ああ」


 相変わらずの無口ぶり。

 でも、こんなふうに並んで歩いたことなんてないから、声をこんな至近距離で聞くのも初めてで、ちょっとドキドキした。

 案外悪くないと、私は心の中で思った。

 まるきり愛想はないけど、手に持った傘をこっちに傾けてくれてる。そのおかげで、私は濡れないでいるし。……いいやつだと思うよ。

 けど……なんか引っかかるの。


「あ」

「なに!?びっくりしたっ」


 もやもやとした胸の中のものについて考察してる最中。


「俺、ちょっと……」


 横を見上げると、一点を見つめてる中島の顔。

 小さなケーキ屋さんの前だった。

 びっくりする私に傘を押し付けて、走ってく。


「え?なによ、どうしたの?」


 中島の後姿を見送る。

 小雨にけぶるその向こうに、一人の女性。

 私の視界の中。

 中島がその女性に声をかける。

 その女性は、ゆっくりと振り返って、にっこりと笑う。

 え?なに?

 中島が肩にかけてたスポーツバッグの中から何かを出す。

 差し出してるそれは、あの、赤い傘で。

 え。何。傘持ってたの?

 どうして使ってなかったの?

 そのヒトのなの?

 え、なによ……?いったいどういうこと?

 ふいに視界がにじんだ。

 ……泣いてるよ、私。……なんで?


 中島がずっと持ってた傘は、あの女性のもので。

 返そうとずっとずっと大事に持ってたわけで。

 そんで、そんで。もしかしなくても。

 中島は……あの女性のことが……好きだった、とか。

 もしかして、私が知りたかった事実って、こういうことなわけ?


 好奇心が満たされた瞬間に。

 あろうことか、失恋。

 そう、中島のことを好きになってたことを気付いて。

 ……で、そのまま急降下……?

 そうなの?……そんなのないよ……、キツイよぉ。


 私自身の時間は止まってても、世界は平等に時間が流れてて。

 その女性は、脇に止まってる車に乗り込み、去っていく。

 ……って、アレ?

 私のところに駆け戻ってくる中島の顔は妙にすっきりしてて。


「やっと、返せた」


 それだけ言った。


「……」


 ぼうっとただ見てるだけの私に、ほんの少し笑う。

 あ?笑った……!?

 私の手から傘の取っ手をとると、また傾けがちに二人の間にさしてくれる。


「送ってくれるんだろ?」

「あ、うん」


 慌てて私は潤んだ目元をさっと拭う。見られてないといいんだけど……。


「……アレさ、好きだった人」

「!?……私、何も聞いてないよっ」

「聞きたいって顔に書いてあるくせに」

「え!?」


 中島は前向いたままだけど、チョット笑ってるみたいで。私はあわてて顔に当てた手を元に戻す。

 何がおかしいんだか。……私は全然面白くない。


 そのまま、5分もしないうちに中島の家に着いた。


「さんきゅ、な」


 傘を返されて、私は黙ってうなずく。

 中島は、また肩をすくめてそのまま家に入ろうとした。


「あのさっ、……。って、なんでもない」


 思わずひきとめようとして、引き止める口実が無いことに気付く。

 中島は黙って笑ってた。


「……明日、また学校で」


 かろうじてそう言うだけが精一杯で、私らしくない、と悔しくなる。

 そのまま帰ろうとする私の背中に、中島の声が追いかけてくる。


「俺、ぼーっとしてるけどさ。……案外周りのことよく見えてんだよな。だからさ、知ってたよ。見られてること」

「……!?」


 振り向いたら、もうすでに中島の姿はなかった。

 だけど笑ってるあいつの顔が思い浮かんだ。


 雨に混じって小さな疑問符がたくさん降ってくる。

 どういう意味なんだろう。

 あいつは……何が言いたかったわけ?


 ふう。

 落ちてくる雨を、傘を脱いで見上げる。


 ……まあ、いいや。

 とりあえず、自分に向けられた中島の笑顔が嬉しかった。

 明日の朝は私から声をかけてやろうと思う。

 「おはよう」って。

 見つめるだけ、ってのをおしまいにするために。






 次の日。

 遠くから中島の姿を見つけた。

 嬉しかった。

 ……そう、嬉しかったの。

 たくさん人がいるのに、あいつの姿をすぐに見つけられたこと。

 悔しかったのは。

 私が声かけるより早く。

 中島が気付いたこと。

 やつは、私を見つけて笑った。


 彼、見つめかえす、ってことを覚えたらしい。





乙女の目からビーム出てた?

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