春の雨
身長差夫婦。
朝起きてすぐ。
身体が雨の気配を感じた。
耳をすますと、サーッと静かな雨の音。
ときおり軒先からの雫が落ちる音。そのリズムが心地よかった。
外は寒そう。
春の雨に、そう感じた。
晴れてたら少し遠くまで散歩にいこうね、って言ってたのに。
せっかく咲きだした桜が、この雨で散ってしまわなければいいのにな。
ぴぴぴぴぴっ
今頃鳴り出す目覚まし時計。私より寝坊なんてめずらしい。
雨のせいかな。
彼を起こしてしまう前に、そっとオフにした。
あくびを一回。
隣から聴こえる穏やかな寝息に、少しずつ誘われていく。
まだもう少し。寝てても…いいよね…
ゆるやかな二度目の眠りから私を揺り起こしたのは、ちょっとした風。
なあに?
目を閉じたまま気配をさぐる。
聞こえるのは静かで優しい雨の音。
それと……
伸ばした指が触れたのは、温かな肌。
ざらざら、ちくちく。
これは………一夜越しのヒゲ?
このざらざらちくちくする感触、実は結構好き。
「やっと起きたか」
と。あなたの声。
「………おはよ」
ニヤニヤ。
いっつもそんなふうに笑うんだから。
伸ばした指に、彼からのキス。
両手を差し出すと、抱きなれた腕が私を力強く抱き寄せた。
重くないの?なんてもう聞かない。
あなたにとっては私なんて子供ぐらいの重みでしかないから。
ぎゅっと。
………もっと強くてもいいよ?
「おくさん、今日の予定は?」
「おやすみ」
「ん?」
「今日の予定はぜーんぶおやすみ。何にもしないの。ずっとごろごろしてるの」
ぷっと彼が笑う。
「ナマケモノの日?」
「ううん、贅沢な休日の過ごし方」
「たまにはいいか」
そう言いながら動き出す彼の指をしっかりと握り締める。
「聞いてた?何にもしない日って私言ったでしょ?」
「なんにもって……」
あきらかに失望したダンナ様にちょっとだけキス。
「そうよ。ほら、雨降ってるし。音聞こえるでしょ?」
「ん」
二人して息を潜めれば、さーっと風が通るように聞き逃してしまいそうな雨の音。
「この音、私好き」
「そうか」
やっとあきらめてくれた彼の指が、しっかりと抱きしめるために肩にかかる。
「この音も」
ぴったりと寄せた頬に彼の鼓動。
とくとくと規則正しい音。
「安心するの、すごく」
「ん」
「暖かくて、幸せで」
「うん」
雨の音と、鼓動と、呼吸と。
彼が優しいまなざしで見送ってくれてるのを感じながら。
ゆったりと眠りの中に引き込まれていく私。
春の、優しい雨が降る朝。




