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RAIN  作者: 恵奈
2/21

淡い思い

男子高校生。そしてまた身長差(笑)

 



 予想外の天気ってあるだろ?

 一日晴れだと天気予報で言ってたのに、夜になって急に雨が降り出したり。

 まさに、今日のような天気。


 で、妙に準備のいい人ってのいるだろ?

 いつも傘持ち歩いてて、今日みたいな日でも雨に濡れなくてすむ人。

 俺の好きな人がまさにそれだったわけ。




 6時まで部活やって、電車に乗って帰るとき、たまに出会う人。

 OLなんだろうな。

 スーツ着てるし、化粧もしてるし。

 たぶん20代前半ぐらい?

 顔立ちはどっちかって言うと綺麗系。だけど、俺にとっての印象は、可愛い、って感じだった。

 なんでかって言うと、まず背がちっこい。でもそれだけってわけじゃなくて。

 たとえ、それがなくても多分印象は変わらない。

 仕草とか、表情がどっか可愛い。

 この人に上目遣いで何かお願いされたら、きっと俺断れねー、ってカンジ。


 夏ごろからよく見かけてて、ずっと気になってた。

 でも高校生の俺が、OLの彼女に話しかけるのって、難しいだろ?

 なんかきっかけがなくちゃな。

 だから、ずいぶんと見てるだけの関係だった。




 相変わらずの人ごみの電車内。

 雨だからまっすぐうちに帰ろうとする人たちであふれかえってて、飽和状態。

 姿見失ったなー、と思ってたら、すぐそばに彼女がいた。

 こんな近くにいるのって、初めて?

 ドキドキした。

 彼女の視線が俺のほうに向く。

 そして、笑いかけられた。


「この前はありがと」

「え。……あ、なんでもないですよ、あんなの」


 驚いた。

 彼女は覚えていてくれた。



 つい1週間前のことだった。

 同じ電車に乗り合わせた彼女の様子が変なことに気がついて、俺が声をかけたこと。

 彼女のすぐ後ろのおっさんが助平そうな顔をしてたことが気に入らなかった。


「おっさん、痴漢なんてサイテーなことすんなよ」


 狼狽したようによそ向いたおっさんの様子と、ほっとしたような彼女の様子に、俺の勘はあたってたことを知る。

 ただ、ずっと彼女を見てたことを知られたんじゃないかと。

 俺はさっさと電車を降りてしまったんだが。



 駅について、人が流れる。

 再び動き出した電車の中、彼女と俺はぴったりと寄り添うようにして揺れていた。


「……相変わらず、すごい人ね」


 そう言う彼女の身体を、ドア際に押しやり、ラッシュ時の圧力を俺の180センチの身体を使って遮断する。


「大丈夫?」

「これぐらい、平気」 

「ありがとう。……背、高いね」

「や、バスケしてるんで。……背、低いっすね」

「これでも150はあるのよ?」


 窓が曇るような湿気と熱気の中、30センチほどの高低差でぼそぼそと言葉を交わす。

 あー、可愛い声。

 それに……いいニオイがする。

 俺の胸の辺りまでしかない彼女の顔。

 見られてないことをいいことに、間近にいる幸せを堪能する。

 伏せた目元。長い睫毛が頬に影を落としてて、きっちりと口紅を塗った唇が濡れたように光ってる。自然と分かれた髪の隙間、白いうなじが目にまぶしかった。

 走る電車がカーブに差し掛かる。

 俺らのいるほうへと圧力が密集してくる。俺はドアに当てた手に渾身の力を込めて彼女をかばう。

 車内のあちこちで起こる不満のうめき声の中、彼女の存在だけに、俺の意識の全部が持っていかれそうになる。

 今、彼女に身体を押し付けてしまうと、何もかもを知られてしまう。

 異常なほど早い鼓動や、抑止できない悲しいオトコの性とか。

 危機を乗り越えたあと、車内に安堵の息が漏れる。

 ふと彼女を見ると、大きな目が俺を見上げていた。


「助かっちゃった。キミは……大丈夫だった?」


 小さな声で、言われた。

 思わず、息が詰まった。

 ごくりとつばを飲み込んだあと、横を向き、


「大丈夫っす」


 と、そっけなく答えた。



 降りる駅に着き、俺は彼女のほうをあまり見ないように足早に改札を抜けた。

 彼女の降りる駅も同じだ。

 もたもたしてたら、追いつかれてしまう。

 雨にでも打たれたら、いつもの自分を取り戻せるかもしれない。

 でも予想外の大雨に、俺は階段の下で立ち尽くした。


「傘、ないなら一緒にどう? 途中まで一緒でしょ、方向」


 後ろから声を掛けられた。

 彼女の声だと、すぐに気づく。

 ふと横を見ると、カバンから出した折りたたみの傘を広げながら、彼女が俺を見上げていた。

 どうやって、断ろうかと首をひねる。


「……ありがたいっすけど、その傘じゃ、2人は無理ですよ」


 彼女の手にしてる傘は、誰がどう見ても、彼女一人分のサイズでしかない。バカでかい俺が一緒に入るのはどうやっても無理だと思った。


「でも、ないよりはマシじゃない? 走って帰るつもりだったでしょ。ね?」


 柔らかい笑顔と声で言われたら、それ以上断りの言葉を言えなくなった。




 駅のロータリーを彼女の赤い小さな傘を手に並んで歩く。

 できる限り頭を下げて。

 できる限り傘を彼女のほうへ傾けて。

 彼女の綺麗な髪が濡れずにすめばいい。

 身体の半身を雨にさらしながら。

 ……相合傘って、こんなんじゃねえよな、ふつう。

 苦い思いと気恥ずかしい思いをしながら、ただ黙って歩く。

 だけど、彼女のこんなにも近くにいることと、同じひとつの傘の下にいることに、だんだんと嬉しくなってくる。

 ……名前、聞いてもヘンじゃないかな。

 斜め上から彼女の顔を眺めながら、口を開いた。



「里奈」



 それは、男の声。

 ロータリーの端っこに止まった白のセダンから聞こえた声。


「迎えに来てくれたの?」


 彼女の声だった。

 俺の隣から、さっと彼女の身体が消える。

 嬉しそうな声とともに、小さな身体が、車の中を覗き込むように腰を折る。

 その後姿を見ながら。

 俺の手に残った赤い傘を見上げる。

 彼女の、小さくて赤い、可愛い傘……。


 彼女の身体に雨が降っていく。

 髪が濡れて、服に雫のしみが次々に浮かび上がって。

 俺の濡れた左側の腕がずんと重くなったような錯覚。

 俺は迷わず傘を差し出し、彼女の身体の上にかざした。

 冷たい雨が、頬に当たる。


「ね、君も乗って。送ってくれるって」


 彼女の笑顔が、俺に向けられる。その向こう、俺よりさらに体格のいい男が、俺を見ていた。


「里奈が世話になったって?送るよ、後ろ乗って」

「……イエ、俺濡れてるんで、車汚しちゃうから」

「かまわないから、乗ってって」

「……イエ、本当に、結構です」


 強情だったかな、と思う。

 その男はため息をついたあと、彼女に乗るように言った。


「じゃあ……、その傘、使ってね?」


 傘を畳み掛けた俺に向かって、車中の人となった彼女の申し訳なさそうな声が言う。

 それまで断ってしまうのは、彼女を悲しませてしまうような気がして。

 俺はただ黙って頭を下げた。



 初めて知った、彼女の名前。

 ……里奈、っていうのか……。

 俺一人の身をなんとか庇える傘を手に、とぼとぼと歩き出す。

 通りすがりに、人に笑われる。

 傘を見上げ、長いため息が出た。


「……どう見ても女もんだよな」


 傘をたたんで、手に持って再び歩き出す。

 髪をぬらした雨の雫が、前髪を伝っては頬を流れ落ちていく。

 またも通りすがりに笑われたが、少しも気にならなかった。


「……里奈……」


 知ったばかりの名前を呟くと胸が痛む。

 頬を伝う雨の中には、ちがうものも混じってるかもしれない。


「……失恋ッスか……」


 そう呟いた。

 秋の雨の冷たさに、さらに泣けた。



実体は知らないけど、バスケ部男子が好き。

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