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RAIN  作者: 恵奈
18/21

雨がやってくる

不定期遠距離恋愛。




「え? なに? 聞こえない」


 声が、遠かった。

 オマケに電波の状態も悪いらしく、雑音が混じって彼の声が探しづらい。



 仕事であちこち遠くへと行かなくてはならない彼。

 いつもメールをくれてたけど、それだけじゃ足りないの、と泣いた私のために毎日夜電話をかけてきてくれるようになった。

 ……それでも、足りないの。

 触れることの出来るキョリでいてほしい。

 本当はそう言って泣き喚いてみたい。

 でもそれがとても子供じみた、ただのわがままだってことぐらい、私もわかってるから。

 懸命に彼の仕事を理解しようと、努めてる。



「今日はどこにいるの?」


 返ってきた言葉に、思わず絶句。

 テレビでしか見たことのない土地の名。


『今日はずいぶん走ったからな』


 そんな能天気に言わないで。

 あなたはどれほど私が心配をしているのか全然わかってないのね。

 海の向こう側の土地、何百キロと隔てられてるという事実に、私がどんなに不安を感じているのかきっと想像もつかないのね。


「大丈夫?ちゃんと休んでる?」


 ほんの少し心配の滲んだ私の声にどうか気付いて。

 気丈に振舞ってあなたのことを諌める私を、うるさいなんて思わないで。

 あなたのことが、本当に心配なだけだから。


『―――うん、大丈夫。無理はしてないよ』


 落ち着いてゆっくりと答える声は、少しやさしく聞こえた。


 ―――愛されている、そう思える瞬間。




 会えない時間は不安を育てていく。


 彼は無事だろうか。

 無茶したりしてないだろうか。

 どこかよその人に心を動かされたりしてないだろうか。


 表情や体温で確かめることの出来ないときは。

 10cm×5cmのちっぽけな電話から出る電波だけが、私の恋の命綱。

 面倒だなんて決して思わないで。

 ちゃんと気持ちを言葉にして、何度も私に言い聞かせて。

 好きだよ、って。

 待っていることしか出来ないから、不安を感じずにはいられないから。

 そんな私のことを、わかってほしいの。




 見上げる夜空。

 空は彼の頭上までちゃんと繋がっているよね。


「ね、見える? 星、今日もキレイだよね」


 大きな星なら、きっと彼のいる場所からも見える。

 街の灯りに負けない星の光を、一緒に見あげていることで感じる、本当にささやかな幸せ。


『残念。…こっちは大雨』


 こんなに晴れているのに。夜空には雲ひとつないぐらいに。


『夜になったとたん、急に降り出してさ』


 耳を澄ますと、雑音だと思っていたのは、雨の音だったのに気がついた。

 雨のにおいなんて少しもしないのに。

 ………そんなにも、私と彼は離れているんだ。

 改めて思い知らされる現実に、心が痛くなった。


「……遠いね」

『……………………』


 沈黙は、彼の戸惑い。


 ごめん、弱くて―――。

 強くなりたいと願ってはいるけど、やっぱり不安に負けてしまう私。

 ―――ごめんね。


『……この雨雲さー、ゆっくりと北上してくんだって。明日にはそっちに雨降らすんじゃないか~?』


 彼の声は、わざとらしいほどの明るい声で。


「明日?」


 夕方見たテレビの天気予報を必死に思い出す。

 そう言えば、雨の予報だったっけ。

 いやだな、って思ったっけ。


『オレ、ゆっくりと雨雲の後を追っていくから』


「え?」


『雨が止んだら、会えるよ』


「―――うん。待ってる」


 雨が彼を連れて帰ってくる。

 そう思うと、明日の雨も待ち遠しい。


「気をつけて、帰ってきてね」


 ……私のところに。


『まかせとけ』



 彼の言葉が、私を強くしてくれる。

 ありがとう。


 雨の降る夜空を見上げている彼の姿を想った。


 愛してる、と気付く。


 きっと。――――――同じ、気持ち。




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