神様!
高校生。
神様は意地悪。
昨日も、また晴れた。
月曜の朝一番、
「わりぃわりぃ」
と。真っ黒に日焼けした顔をくしゃくしゃにして言う彼に、隠しもしないでため息をつく。
「その分だと、すぐに目標額に達しそうじゃない?」
「あー、まあな。当初の予定額はクリアしたよ、先月」
「え、それじゃあ♪」
「だからな、もう少し目標を引き上げたんだ」
「えええええ?」
「7月にはマシンも買うし。夏休みには二人でたくさん遊びに行こうな」
にかっ、と笑う彼の頭には、今年受験生という自覚はまるでなさそうだった。
バイト漬けの毎日を送る彼。
だからといってキライにはならないけど、淋しいと感じるのはアタリマエ。
―――もっとかまってよ。
平日、カラオケBOXのバイトで、学校以外で会っていられるのは行き帰りの駅までの道だけ。
土日だってもちろんバイト、割がいいからと現場の土方作業でものすごい雨が降らない限りは、夜十時の「声だけ」デート。
でもその電話だって、日中の肉体労働のせいか途中で寝ちゃうこと、かなり頻繁。
「彼氏彼女」だけど。スッゴイ私って不幸っぽくない?
どうしてそんなにバイトばっかりするのよ?
一度聞いたことがあった。
「バイクを買いたいから」
「えー、バイク?」
はっきり言えば、呆れたよ。でも、
「ま、そういうなよ。イチバンに乗せてやるから。な?」
私の一番大好きな笑顔でそう言われたから。
耐えようと決めたんだけどね。
この私にしてはずいぶん頑張ったと思う。
うん。
一応日曜はいつも約束してる。でも実際は天気に左右されて、ほとんど叶わない。
そう、大抵現場作業の人手不足で彼は駆り出されちゃう。
今週末こそは!と願い続けてきたこの数ヶ月。
日曜ごとにすばらしく晴れる空を、ずっとずっと恨みがましく睨んでた。
週末のお天気のチェックは今ではもうほぼ習慣。
週半ばにお天気お兄さんが口にする言葉に一喜一憂。
それが昨日、土曜の夜。
『日本全国雨模様』
この言葉を待っていたの!!
沖縄だって北海道だって、80%近い雨の予報。
それでも何度と無く裏切られ続けてきた私は当日になるまでは決して気を抜かない。
にらみを利かせて、空を覆い始める雲を監視。
ホッと気持ちがゆるんだ矢先に晴!なーんて、むなしすぎる。
だから、土曜の夜から一気に降り出した雨を見たときは、思わずガッツポーズをしてみた。
そんな私の密かなアコガレは、晴れた日のピクニックデート。
付き合い始めた頃すでにバイト三昧だった彼とは一度も実現したことのない、幻のデート。
だけど、私は贅沢言わないわ。
大雨だろうと嵐が来ようと!
彼と二人でゆっくり会えるんだったら何でもいい。
だから。
だからお願い、神様!
―――朝起きて外を見たときは。
どんよりとした真っ黒い雲を見て一瞬喜んで。
でも―――
一粒の雨も降ってないことを嘆いた。
――――――び、びみょう?
ちゃらららん♪
メールの着信音に、いやな予感。
ぎくりと鼓動を止めた心臓をなだめる。
ぎゅっと胸に抱きしめてから覗いた携帯の画面。
彼からのメール。
「ゴメン。本当にゴメン! バイトはいっちまったよー(ToT)/~~~」
ぶちっ(怒)
―――神様は、私に冷たすぎる。
受けたダメージはかなり大きかった。
HPの残り少ないゲージを思い浮かべる。
回復するのに、ハーゲンダッツのカップアイス2個を消費。
なおかつお気に入りの傘を装備して、真っ黒い空の下、私は家を飛び出した。
ただひとつ。
唱えたい呪文は、「雨よ降れ」。
「こんにちは」
すれ違う近所のオバサンに向けた挨拶。心の中で語尾に「雨よ降れ」。
彼がいる現場までのバス、乗り込むときも思わず「雨よ降れ」。
傘を持ち歩いてるヒトを見つけるたびに、「雨よ降れ」。
空にひしめく黒い雲を睨みつけ、「雨よ降れ」。
「精が出るなぁ。でもムリするなよ?」
汗臭そうなオッチャンたちに混じって、彼がいた。
「そんな金ためて何買うんだ?」
がははは、と豪快な笑い声に負けない、彼の声が聞こえる。
「最愛の彼女と過ごす、サイコーの夏休みっすよ!」
真っ黒に日に焼けてるから。
私の大好きな顔で笑ったりなんかすると、白い歯が目立ったりなんかして。
首に巻いたタオルで汗を拭く姿が妙に男っぽくて、見とれちゃったり。
授業中じゃ見られない、真剣な表情なんかもポイント高くて。
こっそり呟く。
神様、勝手言ってごめんなさい。
彼があんなに頑張っているので、どうか雨を降らさないでください。
青春の夏。




