晴れ女VS雨男
高校生。
―――彼が好きなのは、私の友達。
よりによって、彼氏持ちなんか好きにならなくてもいいじゃない、と思う。
そう言ったら彼は思い切り顔をしかめた。
「かんけーねえよ。こういうのは理屈じゃねえんだろ」
「むくわれないってわかってても?」
「器用じゃねんだよ、オレ」
「物好き」
「ほっとけ」
普段ふざけて馬鹿ばっかりやってるくせに。
こういうときだけイイカオしたりしないでよ。
鈍感な彼を睨む。
―――そんな私も、物好き。
報われないとわかっていても、そんな彼が好きだった。
「もうすぐ雨が上がるなぁ」
廊下から遠くの空を見上げると、薄ぼんやりとした、灰色の空。
小さな頃から、不思議とそういうことが分かった。
空気の密度が変わるというか、ちょっとした気配。
少し嬉しくなって、足取りも軽くなる。
「アレ? まだいたんだ」
ほとんどの生徒はもう下校してる時間。
数学の岸本に無理やり押し付けられた教材の整理をやっとのことで終わらせてきた私は、ガランとした教室で一人でいる住田の背中を見つけた。
もしかして私のことを待ってたのかな、と期待。
まあ、期待するだけ無駄なんだけど。
ふっと肩の力を抜いて、いつものように軽口をたたく。
「なーにー? 私のこと待ってたのー?」
うりうり、っと背中を指でつねってやる。
「ふっ、誰がだよ。ちょっとぼーっとしてただけだっつの」
「ふうん?」
あれ。いつもと違う?
内心そんなふうに思いながら、私は自分の席に置いたままだった鞄をとった。
教室の中には重苦しい沈黙が落ちている。
「元気なくない?」
「おー、そうかもな」
ぼんやりと窓越しの校庭を見てる住田の背中。
ずいぶんと淋しそうに見えた。
「どしたの?」
私がそう言うと、住田は苦笑したようだった。
「オマエに心配されるなんて、情けないなー」
「誰が心配なんか」
「あー、うん。心配いらないから。今日だけだからさ」
「?」
「明日には復活するから。先帰っていいぞ」
彼が、一度も振り返らないでそう言う。
―――それが、寂しかった。
彼の、元気がない訳。
少しだけ心当たりがあった。
慌てて帰る乃亜の姿を、さっき見かけた。
もしかして?
胸に針が刺さる。
少し前に降り始めた雨は、まだやんでいなかった。
こそばゆいような雨の上がる気配はするものの、あともう少し。
それに。
彼の心の中。雨が降ってるような気がした。
私に何か出来たらいい。
望みを叶えてあげることは出来ないけれど、ほん少しでもいいから元気になれる、何か。
「ねえ。チョット屋上に付き合ってよ」
「はぁ?」
やっと彼が私を見た。
努めて、いつもの私を装いながら人差し指で上を示す。
「雨降ってるのにか?」
「もうすぐ止むよ」
気乗りしない彼の腕を掴む。
窓の外の雨雫はだんだんと小さくなっていく。
「ほら、はやく」
「なんだよ、一体」
響くのは、二人の足音。
余計なおせっかいなのは知ってる。
それなのに、振りほどかれない手。
それだけでうれしい。
「私、晴れ女なのよ」
「俺はたぶん、雨男だ」
「私にいいアイデアあるよ」
屋上のドア。
開けたのとほぼ同時だった。
雨が遠ざかっていく。
名残のように遠くに光の粒のように降っていて、雲の隙間から陽が差し込む、この瞬間。
「大人になっていくと、あんまり見なくなるものよね。子供のときはみんな見つけるのが上手だったのに。見れる条件を知ってる今のほうが、絶対に有利なはずなのに」
彼は何も言わず、濡れた屋上へと進み出た。
「見たの、すげー久しぶり」
大きな虹だった。
目の前の空、高い高い場所に、七色の光の橋。
「なぐさめてくれてるのか?」
「違うよ。アピールしてるの」
「?」
「雨男だと、いろいろ困ることあるでしょ。だから晴れ女の私といつも一緒にいればいいのよ」
報われない、と自分で可能性を否定する必要は無いのだと気付いた。
だから、私は言う。
振られたばかりの男の、わずかな心の隙をねらって。
「住田のことが好き。あ、一晩ぐらい考えてから答えを出してちょうだいね」
「……おう」
「虹。イイカンジじゃない? また見せてあげる」
「おう」
まだいつもの彼じゃないけど、まっすぐに私のほうを見てくれた。
少しは元気でたかな、と物好きな私は嬉しくなった。
「通り雨」とつながってるー




