PROLOGUE
身長差。
「雨………」
窓を覗いて彼女がつぶやいた。
通りに面した喫茶店の、窓際の席。
彼は煙草を灰皿の中で押し潰してから、彼女の視線を追って窓の外へと視線を走らせた。
日差しは明るいままだ。
「通り雨だ。きっとすぐにやむよ」
彼女は彼の言葉に答えず、氷の解けかけたレモンティーを最後の一口まで一気に飲み干した。
窓の外は、気ままな6月の天気に躍らされる人達。
彼の言うとおり、きっと雨はすぐやむだろう。
彼は、ゆっくりと冷めかけたコーヒーを一口飲んだ。
「ね、早く出ようよ。雨やんじゃうよ」
彼が視線を上げる。彼の目には、帰り支度の済んだ彼女が写った。
「?」
「ほら傘もあるし。ね、早く」
彼女は持参したおNEWのブルーの傘を、彼に示した。
「傘は一本しかないじゃないか。すぐやむだろうし………」
「だから急いでるのよ」
下手なウィンクをする彼女に、彼はようやく気付く。
「なるほど。そういうことか」
「ふふ、わかった?」
伝票を片手に彼が席を立つ。
彼がレジで支払をしている間に、彼女はドアの外で傘を広げ、くるり♪と回す。
「早く早くーぅ」
外に出た彼を、彼女が雨の中に連れ出す。
傘を受け取りながら、彼はため息混じりに言うだろう。
「俺が持つと、オマエ濡れるぞ?」
「あ」
座っていた間はあまり気にならなかった、ふたりの30センチの身長差。
彼がさす傘の守備範囲から外れた彼女の頭が可愛く揺れる。
「もうッ」
「ほら、傘。これぐらいの雨なら俺平気だから、一人で使えよ」
彼の言葉はしっかりと聞こえたのに、彼女は自分の傘を閉じた。
「?」
「せっかく一緒にいるのに。どうせなら、一緒に濡れよ」
「ま、それもアリか」
彼は肩をすくめて笑った。




