寝ても覚めても
ちょっと短めです。
闇オークション連呼回。
闇オークション。
僕がその存在を知ったのは、王都へ向かう少し前のこと。
執務室を訪れていたクライブの弟が、闇オークションの話題を口にしたのがきっかけだった。
なんとなくの好奇心でスキルを発動し、盗み聞きをしていた僕はそのフレーズに衝撃を受けた。
(なんてことだ……!)
だって、闇オークションなんて漫画でしか見たことがない。
いや、ここはハーレム漫画の世界だった。闇オークションの存在は嗜みみたいなものなのか。
僕が読んでいた漫画では闇オークションで人身売買が横行しており、理由あって売りに出されていた女性を主人公が救ったり、買ったりしていて……。
つまり、ハーレム漫画の主人公にとって闇オークションは貴重な出会いの場なのだ。
漫画で読んだのだから間違いない。
(どんな所なんだろう?)
気づけば、闇オークションのことばかり考えてしまう僕がいた。
寝ても覚めても闇オークションだ。
(マズイな……)
こんなことになってしまったのなら解決策は一つしかない。
実際に見に行くしかないだろう。
(聖地巡礼……いや、違うな。主人公の僕がいずれ足を踏み入れることになるのだから……下見だ)
闇オークションの開催場所の情報は、王都・南地区・どこか。
この三つのみ。
普通なら、こんなに少ない情報で見つけられるわけがない。
だけど、僕は主人公だ。
きっと、こう……ほら、何か良い感じに見つけられるような気がしている。
というわけで、僕は王都の南地区へ到着した。
南地区には貴族だけでなく平民向けの様々な商店が並んでおり、そのうちの一角を指差しながら彼女は僕の耳にそっと囁いた。
「ここ! ここですよ、坊ちゃま!」
彼女は侍女三姉妹の末っ子で、名前はファニー。
侍女としての仕事振りに大きな問題はないが、明るく大らかで少々ルーズな性格をしている。
僕の王都散策の付き添いに名乗りを上げたファニーだが、その目的が彼女が指差しているチョコレート店だった。
平民の若者をターゲットにしたのであろう雰囲気と規模の店だが、チョコレートの味は絶品らしく、貴族の使用人が主人の言いつけで買いに来ることもあるらしい。
「さあ、売り切れちゃう前にいきましょう!」
「ああ」
ちなみに今の僕はいつもよりラフな服装に身を包んでいる。
ファニーだって侍女服ではなくシンプルな水色のワンピース姿だ。
これならば貴族の子息と使用人には見えないだろう。
一応僕はダルサニア辺境伯の一人息子であり後継者だからね。
さすがに一人で王都をふらふら散策することは許されなかった。
ファニーの他にも私服の護衛が側にいる。
前世だったら有り得ない環境だが、慣れとは怖ろしいもので、今では坊ちゃま呼びにも順応している僕なのだ。
(フェリシア様にも買って帰ろう)
お茶会でも菓子は振る舞われるだろうが、緊張したフェリシアが口にできているかはわからない。
それに、前世での経験則だが、緊張から解き放たれた時は甘い物を好む女性が多い。
タウンハウスへ帰ってきたフェリシアが僕の隣でホッと一息つけるように……。
と、そんなことを考えながらチョコレート店を目指して歩いていると、こちらに向かって若い男女のグループが歩いてきた。
(ん……?)
年齢は全員が十代半ばといったところだろうか。
ピンク髪の愛らしい容姿の女性が一人と、彼女を取り囲むように華やかな容姿の男性が五人……。
(五人……!? 凄いな!)
どこかのご令嬢とその護衛たちなのだろうか?
自身と同じような状況なのかと一瞬頭を過ぎるも、すぐに違うと気づいてしまう。
なぜなら、男たち五人全員が熱い視線をピンク髪の女性に向けながら、少しでも気を引こうと熱心に語り掛けているからだ。
(いや、凄いな!?)
近くを行き交う人たちも、驚いた表情でその集団を見つめている。
それくらい異様な光景だったのだ。
読んでいただきありがとうございます。
次回は明日の朝8時頃に投稿予定です。
ストックゼロなので……頑張ります!




