何それ
読んでいただきありがとうございます。
最終話が長くなったので3話に分けて投稿しております。
※本日1話目の投稿です。
(温かい……)
意識がゆっくりと浮上する。
(これは……魔力?)
僕の左手から魔力が流れ込み、それとともに身体中に力が行き渡っていく感覚。
ぼんやりとした意識のまま目を開けると、自室のベッドに寝かされていることを理解する。そして……。
「アイセル様! よかった……!」
満面の笑みを浮かべ、僕の左手を握り締める司祭のレナード。
「…………」
不法侵入という四文字が頭に浮かび、思わず整ったレナードの顔面を凝視する。
「覚えてらっしゃいませんか? 精神干渉系の魔法を受け続けた影響で意識を失っておられたのです」
「あ……」
そこでようやくルイスとのあれこれを思い出した。
言われてみると、精神干渉魔法を受けまくった記憶しかない。
「ですので、僭越ながら僕が治療を」
そう言って、レナードが握り締めた僕の左手を軽く持ち上げる。
どうやら、流れ込んでくる魔力はレナードの治癒魔法のようだ。
一瞬でも僕の部屋への不法侵入を疑ってしまい申し訳ない気持ちになる。
「それにしても、魔族の攻撃魔法を立て続けに受けて、この程度で済むだなんて……さすがは僕のアイセル様です」
僕の左手を握り締めたまま、レナードがうっとりとした表情で僕を見つめる。
どうやら疑うくらいでちょうどよかったらしい。
「アイセル様は精神干渉系魔法に対する耐性が異様に高いようですね」
「耐性……?」
レナードの話によると、本能的な恐怖心が強い人ほど精神干渉系魔法に対する耐性が低いのだという。
簡単にいえば、死に対する恐怖心が強いと魔法にかかりやすい。
逆に、死に対する恐怖心が薄いと魔法にかかりにくい。
僕は後者というわけだ。
(なるほど……)
たしかに、僕は死なないことに関しては絶対的な自信を持っている。
だって、ハーレム漫画の主人公が幼少期に死んで終わるだなんて見たことも聞いたこともない。
意外なところにも才能があったんだなと自画自賛しながら、ふと本来の目的を思い出す。
(そういえば僕のスキルはどうなったんだろう?)
ルイスによる誘拐事件は、僕のスキルが覚醒するイベントだったはず……。
その時、ノックもなしに僕の部屋の扉が開いた。
「あいせる!」
そして、ダナがものすごい勢いで僕に飛びついてくる。
「あいせる! あいせる! あいせる!」
ぎゅうぎゅうとダナに抱き締められる僕。
「ダナ、あいせるのやくそくまもったのに、あいせるいなくなった! あいせるたおれた! もう、ダナはあいせるのいうこときかない!」
どうやら、僕の言いつけを守った結果、僕が誘拐されて目の前で意識を失うことになったとダナは怒っているようだ。
「まだ治癒は終わっておりません! 僕のアイセル様から離れてください!」
「やだ! ダナはあいせるのそばにいる!」
そんなダナを僕から引き剥がそうとレナードが奮闘している。
二人とも部屋から出て行ってくれても構わないんだけど……なんて思いながらうんざりしていると、開け放たれたままの扉をノックする音がして、ファニーとともにエレナが姿を現した。
「アイセル様……! ご無事でよかった!」
僕の姿を見るなり涙ぐむエレナ。
そんなエレナの姿を見て僕のテンションは急上昇する。
「エレナ様こそ、お怪我はありませんか?」
そう。僕がルイスに誘拐されていたと同時に、エレナもジョシュア第二王子によって連れ去られていたのだ。
すでにダナからエレナの無事を聞いてはいたが、やはり心配だった。
そして、エレナの口から事の顛末が語られる。
どうやらエレナを追放したあと、メルソーナ王国は防壁魔法の維持が不安定になってしまったらしい。
そのため、ジョシュアたち一行は秘密裏にリシャグーノ王国へ潜入し、王家を介さずにエレナを自国へ連れ戻す計画を企てたようだ。
そこへルイスがジョシュアと接触し、欲望を引き出されてしまったせいで、平和的な交渉ではなく拉致という手段を取ったのが事件の真相だった。
その時の状況をエレナが身振り手振りを加えながら説明し始める。
「私がメルソーナ王国への帰国を拒否したせいでジョシュア殿下は逆上してしまって……」
エレナを婚約破棄した上に、追放した張本人が逆上とは笑わせる。
「危険な魔導具を発動させてしまい、私を庇ってサディアス様が怪我を……」
現場には僕の叔父であるサディアスもいたようだ。
「卑怯にもジョシュア殿下は怪我をしたサディアス様にトドメを刺そうとして……その瞬間、私の聖魔法が再び目覚めたのです」
なんと、エレナは防壁魔法だけでなく治癒魔法までレベルアップしたのだという。
まさに覚醒イベントだ。
しかし、聖女としての価値を取り戻したことにより、メルソーナ王国が本格的にエレナを連れ戻そうと動くかもしれない。
「そこで、正式にダルサニア辺境伯家の庇護下に置いていただくことになりました」
「それって……」
メルソーナ王国に手を出されないようエレナの所属をリシャグーノ王国とするため、ダルサニア辺境伯家の一員として受け入れるということ。
つまりは政略結婚で、それは僕との婚姻を意味して……。
「はい。サディアス様との婚約が整いました」
「…………」
何それ。
「政略結婚ではあるんですけども、私……ギイザの森で命を救っていただいた時からずっとサディアス様をお慕いしていて……」
「…………」
ねえ、何それ。
※補足
エレナ……冤罪で追放され隣国の騎士に溺愛される系の聖女。アイセルと出会った時にはすでにサディアスといい感じだった。なぜか当て馬が途中で仕事をしなくなり、サディアスとの仲は順調に進んだ。
サディアス……アイセルの叔父。ギイザの森でエレナを助けてから彼女のことを気にかけ、アイセルの知らないところで神殿にもマメに足を運んでいた。口下手な正統派ヒーロー。
レナード……冤罪で追放される聖女の物語1巻に登場する当て馬。途中で別の崇拝対象を見つけ、聖女を神殿の奥深くに監禁する……という事件を起こすことはなかった。
いずれ領主となるアイセルのために、神殿内の権力を握っておこうかと考えている。
ダナ……闇オークションで売れ残り虐待を受けるようになる。ついに逃亡に成功し、ダルサニア辺境伯領にて偶然出会った聖女に怪我を治癒してもらう。初めて触れた優しさに感動し、聖女に対して歪んだ執着を持つはずだった冤罪で追放される聖女の物語2巻に登場する当て馬。
今は騎士や使用人から「可愛い」とちやほや甘やかされている。
本日中に2話目と3話目(最終話)も投稿します。
よろしくお願いいたします。




