隠してなんていないよ
「うおっ!」
間一髪で僕の攻撃を避けたものの、ルイスが大きくバランスを崩す。
「ダナ!」
僕が大声で呼ぶと、瞬時に反応したダナがルイスとの距離を一気に詰めた。
「ぐあっ!」
飛びかかったダナの頭突きが、ルイスの顔面にクリーンヒットし、床に倒れ込んだルイスが自身の鼻を両手で押さえながら悶絶する。
今度こそ逃さないよう、倒れたルイスの上に馬乗りになった僕は、手にした短剣を彼の喉元に突きつけた。
「ダナ、よくやった! そのまま待機だ」
「たいき……?」
「動かずに待てってことだよ」
「うん!」
僕の言いつけ通り、ダナはその場に座り込む。
そして、ルイスは瞳を金色に変化させ、僕を下から睨みつけた。
「クソガキ……お前が攻撃する相手は俺じゃないだろうが! フェリシアを手に入れたいなら父親を攻撃しろよ!」
「どうして?」
「はあ!?」
「どうして僕がわざわざ手を汚さなきゃならないの? そんなことをしなくったってフェリシア様は僕のものになるんだよ?」
ルイスの魔法はたしかに僕の欲望を強く自覚させた。
そして、その欲望を『僕自身の手で叶える』ために、クレイブを殺すという『行動』を僕に取らせようとした。
(そもそもの前提が間違っているんだよね)
転生者である僕は、僕自身の欲望がいずれ『叶う』ものだとすでに知ってしまっている。
欲望を叶えるための『行動』が必要ないものだと、理解してしまっている。
──だって、僕はこの世界の主人公だから。
そのため、いざ短剣を構えた時に、溢れ返る『欲望』と『行動』が繋がらなかったのだ。
僕がクレイブを殺さなくったって、僕の欲望は叶うとわかっているから。
そして我に返った僕は、咄嗟に短剣でルイスに攻撃を仕掛けたというわけだった。
ちなみに、僕がクレイブを倒せるだなんてルイスは端から思っていない。
僕がクレイブを殺そうとすることで、僕とクレイブの双方に精神的なダメージを与え、親子の関係をズタズタにしようとしたのだろう。
まさに人間を弄ぶ魔族らしい発想だ。
「何を……意味わかんねぇことばっかり言いやがって」
「簡単だよ。君の魔法は僕には効かなかったってこと」
「思いっきり効いてたじゃねーか!」
「でも、僕は君の思いどおりにはならなかった。つまり君の負けだ。残念だったね?」
僕はにっこりと笑ってみせた。
「そうでもねぇぜ。お前の秘めた欲望がパパにバレちまったことに変わりはねぇんだからな。なあ、これからどんな顔して家族ごっこをするつもりだ?」
そう言って、ルイスは勝ち誇った笑みを返す。
「秘めた? 僕は自分の欲望を隠してなんていないよ? いずれ僕がフェリシア様を娶るつもりだと父には宣言済みだし、フェリシア様には毎日ちゃんと愛の言葉を贈っているからね」
「は……?」
「僕がまだ子供だから彼女も遠慮しているんだろうけど……あと十年もしないうちに勝負は着くんじゃないかな? 容姿を褒める言葉一つ出てこないくせに、筋トレの話だけは饒舌になる男なんて、すぐに飽きられてしまうだろうからね」
「…………」
僕の話を聞いたルイスは、なぜかクレイブに視線を向ける。
クレイブは苦々しげな表情で僕の言葉を肯定するように頷いた。
「マジか……」
そう呟いたあと、ルイスは堪えきれずに声を上げて笑い出す。
「なんだよ、最初から家族ごっこかよぉ。さすがにそれは予想外だわ」
どうやらルイスの目論見は全て外れてしまったようだ。
ざまあみろ。
僕の完全勝利である。
(それにしてもよく笑うな)
何がツボに入ったのか、喉元に短剣を突きつけられた状況で、ルイスはクツクツと笑い続けている。
(そろそろいいか……)
どうやらルイスは完全に戦意を失くしているようだ。
しっかり捕縛して、今度こそ憲兵本部に送り付けてやらなければ……。
そんなことを考えていると、ようやくルイスの笑いが治まった。
「お前みたいな人間は初めてだよ」
「僕は唯一無二の存在だからね」
「ははっ! よし、いいこと思いついた!」
言うやいなや、いきなりルイスが上半身を起こした。
乗っかっていた僕はバランスを崩して後ろに倒れそうになるも、ルイスの腕が僕の背に回される。
そして、僕の顔をルイスが至近距離で覗き込んだ。
間近で見る黄金の瞳が揺らめき始める。
(何だ……?)
まるで吸い寄せられるようにルイスの瞳に魅入ってしまう。
それと同時に僕の身体から徐々に力が抜けていき……。
「そこまでだ!」
気づけば、クレイブと騎士たちによって僕とルイスは引き離されていた。
「アイセル、大丈夫か?」
「遅いですよ、父上」
「すまん」
クレイブはすぐに助けに入りたかったが、僕が短剣をルイスに突きつけていたせいで、慎重にならざるを得なかったらしい。
短剣をルイスに奪われてしまえば、それだけで形勢は逆転してしまう。
現に、ルイスが上半身を起こしただけで、僕はバランスを崩してしまったのだから。
「団長!」
クレイブを呼ぶ騎士の声に視線を向けると、ルイスは三人がかりで取り押さえられ、目元も布で覆われていた。
「どうした?」
「この男の目が……」
困惑した表情の騎士。
「先程と色が違っているようで……」
気になった僕は、押さえつけられているルイスのもとへ近づき、目元を覆う布を外した。
「こら! アイセル!」
怒鳴るクレイブの声を無視し、ルイスの瞳を確認する。
すると、そこには琥珀色でも金色でもない……僕と同じ紫色の瞳に変化したルイスが、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
(どうして……?)
しかし、疑問を言葉にするより先に、僕の視界がぐらりと揺れる。
思わずその場にしゃがみ込むが、そのまま僕は意識を失ってしまうのだった。
読んでいただきありがとうございます。
あと1話で終わります(たぶん)
次回は明日の朝8時頃に投稿予定です。
よろしくお願いいたします。




