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家族ごっこ

「おっ! 迎えが来たみたいだぞ。思ったよりも早かったな」


誘拐されて二時間が経った頃、ルイスが窓から外を見て声を弾ませる。


迎え……つまり、誰かが僕を助けに来てくれたということ。

しかし、僕の頭の中には(もや)がかかり、ルイスの言葉が何度も繰り返し響いていた。


その時、勢いよく部屋の扉が開く。


「アイセル!!」


顔を真っ赤にし、汗だくになったクレイブが部屋に入るなり僕の名前を叫んだ。


「おっと、動くんじゃねぇぞ?」


だが、とても悪党らしいセリフとともに、ルイスが短剣を僕の喉元に突きつける。

いまだに僕は両手足を縛られ、椅子に座らされた状態のままだ。


「あいせる!!」

「待て! ダナ!」


続けて室内に飛び込もうとするダナの腕を、クレイブが慌てて掴む。


「ダナ、えれなたすけた! つぎはあいせるまもる! やくそく!」


ダナの言葉を聞き、エレナが無事であることを知る。

そして、ダナがいるということは、僕の匂いを辿ってこの場所を見つけてくれたということも……。


だが、そのようなことを頭の片隅で考えながらも、いまだに僕の思考の大部分が『フェリシアを手に入れたい』という感情で埋め尽くされていた。


「よかったなぁ、クソガキ。パパが直々にお迎えにきてくれたぞ?」

「…………」


わざとらしく煽るような口調で僕に話しかけてくるルイス。

だが、全く反応しない僕を見て、クレイブは訝しげに眉を(ひそ)める。


「貴様はたしか……ルイスだったか?」

「おっ? パパのほうは俺のことをちゃーんと覚えててくれたんだな」

「……アイセルに何をした?」

「ははっ! あんたの大事な大事な一人息子に怪我なんてさせてねぇよ。ただ、頭ん中がパパへの憎悪でいっぱいになってるってだけ」

「何……?」


戸惑うクレイブに向けて、ルイスがニヤリと笑う。


「その瞳の色……まさか、魔族か?」

「大正解!」


ルイスは僕に説明したのと同じように、自身が他者の欲望をコントロールできるとクレイブに話して聞かせる。


「知ってるか? このガキはあんたの嫁さん……フェリシアだっけ? あの女に惚れてんだってさ。ほんとマセたガキだよなぁ。つまり、このガキにとってあんたは恋敵ってわけだ!」

「…………」

「フェリシアだって、まさか義理の息子からそんな目で見られているだなんて思いもしないだろうよ! とんだ家族ごっこだよなあ!」


心底楽しそうなルイスの声が部屋中に響く。


「言いたいことはそれだけか?」


だが、クレイブはルイスの挑発には乗らなかった。


「もともと俺は父親失格だ。アイセルに憎まれても仕方がないことくらいわかっている」

「チッ、つまんねぇ……」


思っていた反応と違ったからか、ルイスは苛立たしげに舌打ちをする。


「だったら父親らしく愛息子の望みを叶えてやれよ!」


ルイスが短剣で僕の手足を縛っていた縄を切る。

そして、自由になった僕の右手に、その短剣を握らせた。


「アイセル。お前の望みを思い出せ。邪魔な父親を排除すれば……フェリシアはお前のものだ!」


さらに強くルイスの言葉が頭に響く。


(フェリシアが欲しい……! フェリシアを僕のものに……!)


ルイスの声に呼応するように強い衝動が湧き上がる。


(そのためにはクレイブを排除しなければならない)


僕は自身の手に握らされた短剣を見つめる。


(クレイブを排除する……僕が……僕が……)


そして、短剣を握り直し、今度は真っ直ぐにクレイブを見据えた。


(僕が……?)


その時、僕の思考がピタリと止まる。

衝動は変わらず僕の内側に渦巻いているのに、大きな違和感が(ぬぐ)えないのだ。


(どうして僕が……?)


クレイブを見据えたまま短剣を構えると、ルイスがゲラゲラと笑いだす。

その隙を突いて、僕は手にした短剣でルイスに(・・・・)斬りかかった。 

読んでいただきありがとうございます。

次回は明日の8時頃に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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