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僕の欲望

「それじゃあ、ルイス。君が僕を誘拐したのは私怨ってことでいいのかな?」


たしかクレイブにも脇腹を思いっきり蹴られていたはず……。

だったらクレイブをターゲットにしてほしいところだが、さすがにあの筋肉ダルマを誘拐するのは大変そうだ。


「お前……こんな状況でよく落ち着いてられんな?」


ルイスの表情がわずかに歪む。


おっと、ここは子供らしく恐怖に怯え、泣き喚いたほうがよかったのかもしれない。


これがイベントだと確信したことにより、僕の心は平常心を取り戻してしまった。

そのため、恐怖に怯えるという行動に繋がらなかったのだ。


(いくら死ぬことがないとはいえ、暴力を振るわれない保障はないからね)


しかも、ルイスは腕に噛みついた僕を殴りつけた子供にも容赦のないタイプだ。


「ほんと、貴族ってのはガキでも可愛げがねぇんだな」


そう言いながら、ルイスは麻袋の中から僕を引っ張り出すと、僕の手足を雑に縛り始めた。

とりあえず、これ以上ルイスを刺激しないよう抵抗せずに受け入れる。


(ここは……空き家かな?)


縛られながら、さりげなく周囲を観察するも、残念ながら全ての窓が閉められ、僕の位置からは外を見ることは叶わない。

だが、ルイスが僕を担ぎながら徒歩でここまで来たことを考えると、街からそれほど離れているわけではなさそうだ。


「よし、こんなもんか」


手足を縛られた状態で僕は椅子に座らされる。

そんな僕を真正面から見つめるルイスはとても楽しそうだ。


「僕をどうするつもり?」

「さあ、どうしよっかなぁ?」

「身代金の要求?」

「金かぁ……。もちろん金も好きだけど、それだけじゃあ面白くないだろ?」


そう言うと、ルイスの琥珀色の瞳が揺れ、徐々に赤みを帯びてくる。


(これは……)


瞳の色が変化するのは、混乱や幻覚などの精神干渉系の魔法が発動している状態だと学んだ。


ただし、これは魔物の特性を学ぶ授業で聞いた話である。

人型の魔物は存在しておらず、人間が精神干渉系の魔法を発動しても瞳の色が変化することはない。


つまり、ルイスの正体は……。


「魔族……?」


僕の呟きに、ルイスは驚いたように目を見開いた。


「へぇ……よくわかったな」


ここは異世界ハーレム漫画の世界であるため、ファンタジーによく出てくる獣人やドワーフ、魔族といった種族も勢揃いであった。


魔族は人間に比べるとはるかに数が少なく、群れることを嫌うため、国を持たずに様々な種族に紛れて暮らしている。

だが、膨大な魔力を保有し、退廃的な思考を持ち、気まぐれに人間を弄ぶ。

そのため、たった一人の魔族のせいで国が傾きかけた……なんて逸話もあるくらいだった。


簡単にいうと、あまり関わりたくない厄介な種族。


(おおっ!)


だが、僕はこの事実に大いに興奮していた。

だって、逃がしてしまった悪党が実は魔族だったなんて、実に漫画らしい展開だ。


そんな僕を不審そうに見つめるルイスの視線に気づき、軽く咳払いをしてから会話を続ける。


「どうして魔族が……?」

「別に深い意味なんてねぇよ。偶然、カモになりそうな奴を見つけて声をかけたら、そいつがメルソーナの王子でさぁ。聖女を迎えにダルサニア辺境伯領に行くって言うから、それを利用して俺もお前らに借りを返そうと思いついたんだ」

「メルソーナの王子? それじゃあ、ジョシュア殿下と手を組んだってこと?」


どうやらダナが言っていた通り、エレナを連れ去ったのは本物のジョシュア第二王子だったらしい。

だが、僕の発言が気に食わなかったのか、目に見えてルイスの機嫌が悪くなる。


「はあ? 手を組んだんじゃねぇよ! ちょっと欲望を引き出してやったら王子サマが勝手に暴走して聖女の誘拐を企てたんだ。それを俺が利用(・・)した! 何度も言わせんな!」


そんなルイスの発言に、僕はちょっとした引っ掛かりを覚える。


(そういえば……)


魔族には独自のルールがあるという。

一番の特徴は、強者と弱者、勝者と敗者、そういった上下関係にとても(こだわ)りが強いということ。


(だから、「手を組んだ」じゃなくて「利用した」なのか)


ルイスにとってジョシュアは下の存在。

いや、人間全てを自分より下だと思っていそうだ。


「ねぇ、欲望を引き出すってどういう意味?」


僕は気になったもう一つの疑問を直接ルイスにぶつける。


「んー? 知りたいか?」


今度は一転して機嫌よさげに口角を上げるルイス。


機嫌と表情がころころと変わり、まるで掴みどころがない。

ただ、笑っている今のほうが危険を孕んでいるように感じるのは僕の気のせいだろうか。


だが、僕が返事をするより先に、ルイスは勝手に説明を始めてしまう。


「俺は人間の欲望をコントロールできるんだよ。人間ってのは心の中に何かしらの欲望を飼っている。金持ちになりたい、恋人が欲しい、出世がしたい……だけど、それらは潜在意識の中に埋もれちまってんだ」


ルイスの瞳が再び揺らぎ始める。


「だから、俺がその欲望をちょっとだけいじってやる。自覚させるって言えばわかるか? 自分の欲望が何であるかを強く強く自覚させれば、人間はその欲望を叶えるための『行動』に出る」

「行動……?」

「金持ちになりたくて横領に手を染めて、恋人が欲しいから親友の女を寝取り、出世がしたくて上司に冤罪をふっかけて引き()り下ろすんだ!」


つまり、欲望を叶えるためならば手段を選ばない人間になってしまうということのようだ。


ルイスの話を聞き、僕は一つの可能性を思い浮かべる。


「もしかして、レイチェルも……?」


すでにクレイブと婚姻を結んだフェリシアに、立場を入れ替えるよう迫ったレイチェル。

どうしてそんな馬鹿げた発想ができるのだろうと当時は不思議だったが、ルイスが関わっていたのならば納得できる。


ルイスは何も答えずに、ただ俺を見つめていた。

気づけば、その瞳は金色に変化していて……。


「ガキ。お前の欲望を聞かせろよ。何が欲しい? 何が望みだ?」

「望み……」


頭に浮かんだのはフェリシアの笑顔。

すると、僕の口からフェリシアへの想いが言葉となって勝手に飛び出した。


それを聞いたルイスが、僕の目の前でゲラゲラと笑い転げている。


「まさか継母相手に下心を持っているとは思わなかった! とんだマセガキじゃねぇか!」


ひとしきり笑うと、ルイスが僕の耳に顔を寄せて囁く。


「大好きな継母を手に入れるには、お前の父親が邪魔だよなぁ。そうは思わねぇか?」

読んでいただきありがとうございます。

次回は明日の朝8時頃に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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