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冷めてしまった

いくら令嬢たちが婚約破棄の意思を固めても、当主である父親が首を縦に振らなければ成立しない。

さすがに僕も五人全員の父親の説得までは難しい。


だから、ここは彼女たちに頑張ってもらうしかないだろう。


婚約者である自分たちより、彼らがミアを優先し続けること。

何度も苦言を呈したが一向に改善が見られないこと。

さらに、自分たちがミアをいじめていると曲解され、彼らから謂れのない悪意を向けられていること。

自分たちが蔑ろにされていることは、学園内ではすでに周知の事実だということ……。


これらの事実を父親に伝えるよう、ディアナが淡々と令嬢たちに説明を続ける。


「ただし、わたくしたちの計画は決して話さないでください」


これまで黙っていた令嬢たちが、ディアナのこの言葉を聞いた途端に戸惑いの声を上げた。


「それでは集団婚約破棄にならないんじゃ……?」

「皆で婚約破棄をすることを理由にお父様を説得するつもりでしたのに……」


彼女たちの言い分もわかる。

だけど、集団婚約破棄の計画を明かしてしまうと、家同士で連携を取らなければならなくなる。


(さすがにそれはね……)


全員が同じ派閥で尚且つ交流があり、信頼関係を築いていれば可能かもしれないが……。

まあ、現実的ではないだろう。

だから、僕は別の方法をディアナに提案しておいた。


動揺する令嬢たちに向けてディアナが再び口を開く。


「その代わり『他の四人の令嬢たちはすでに婚約破棄に向けて動きだしているようだ』と伝えてください」

「え……?」

「詳しく説明する必要はありません。そう噂で聞いて不安になったとでも言えばいいのです」


僕は彼女たちの父親がどんな人物なのかを知らない。


娘からの訴えを聞いてすぐに婚約破棄に動き出してくれるならいい。

だけど、婚約破棄どころか娘の訴えに耳を貸さないタイプの可能性だってある。


だから、まずは父親を動かすきっかけが必要だった。

それが『他の四人の令嬢たちはすでに動きだしている』という一言。


貴族家の当主ならば、この言葉を聞けば確実に状況を把握するために動くはず……。

そうすれば、他家が婚約破棄に動いているかはわからなくとも、娘が婚約者から蔑ろにされていることが事実であると理解するだろう。


(あとは……運かな)


娘の置かれた状況を把握し、実際に婚約破棄を実行する家が現れれば、(あと)に続けとばかりに婚約破棄の連鎖が起こるかもしれないし、結局はどうにもならないのかもしれない。


それでも、何もやらないよりはマシだと僕は思っている。


(何かを手に入れたいなら、行動するしかないからね)


これは僕自身にも言えることで、前世の頃から欲しいものがあれば僕は必ず手を伸ばしていた。

ただ手元に転がり落ちるのを待っているだけなんて意味がわからない。


(ディアナ様の婚約破棄がうまくいくといいな)


それからは婚約を破棄するまでの立ち回り……つまり、こちらが加害者だと誤解されてしまわないように、ミアからは距離を取ること。

ミアに絡まれてしまった場合は決して激昂せず、冷静に対応することなどをディアナは令嬢たちと話し合い、この日の集まりはお開きとなった。


四人の令嬢たちが立ち去ったあと、個室に一人残ったディアナのもとへ僕は顔を出す。


令嬢たちの話し合いに参加はしなかったが、僕がこのレストランの別の個室で待機していることをディアナはもちろん知っていた。

まあ、スキルを使って盗み聞きをしていたことは内緒だけど……。


「どうでしたか? うまくいきました?」

「ええ。なんとか五人で足並みを揃えることはできそうです」

「それはよかった!」


僕がそう答えると、ディアナは柔らかな笑みを浮かべる。


「なんだか不思議な気分なんです。ユージン様のお側にいられないことがあんなに辛くて悲しかったはずなのに……今は彼から離れるためにこんな(だい)それたことをしているなんて」

「後悔しているのですか?」

「いえ。後悔はしていません。むしろ、なぜあんなにもユージン様の気持ちを取り戻そうと必死になっていたのかと……」


それが『冷めてしまった』ということなのだろう。

僕にも前世で経験があるからよくわかる。


「もし、この作戦が失敗したとしても……もう、ユージン様のお側にいようとは思えません」

「どうするおつもりです?」

「そうですね……。いっそのこと、この国を出ていくのもいいかもしれませんね」

「いいですね! 僕はこの国を出たことがないので外国に興味があります」

「まあ、アイセル様も? 実はわたくしもなんです」


冗談とも本気ともわからないディアナの言葉。

おそらく、これから自分がどうなるのか分からず不安なのだろう。


(早く安心させてあげたいな)


彼女ととりとめのない会話を続けながら、僕にも何かできることはないだろうかと素早く思考を巡らせる。

そこで思いついたのは……。


「ディアナ様。今度、王立学園に遊びにいってもいいですか?」


読んでいただきありがとうございます。

次回は明日の8時頃に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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