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ディアナの答え

「…………」


僕の問いかけに彼女は何も答えなかった。


その後、レストランの予約時間が迫り、チョコレート店の前から場所を移動することにした僕とディアナ。

移動の間も、レストランに着いて食事をしている間も、彼女の口からユージンの話題が出ることはない。

もちろん、僕からも再びその話題を振るような無粋な真似はしていない。


だけど、ディアナはずっと答えを考えていたのだろう。


食後の紅茶が運ばれてきたタイミングで、彼女自ら話を切り出してきたのだ。


「先程のお話ですが……アイセル様のおっしゃりたいことはわかります。私とユージン様の関係はひどく(いびつ)ですものね」


貴族にとって結婚とは政略の占める割合が大きい。

そのため、相性のよくない者同士が婚約を結ぶこともあり得る。


僕の実の両親なんかがいい例だ。

だが、あのイケメン好きで奔放な母でさえ、全く好みではない父と結婚し、後継者である僕を産むまでは我慢していた。


だから、脳と下半身が直結しているお年頃でも、婚約者との関係を円滑に深めていこうと互いに努力するのが普通なのだ。


「たしかに、ちょっと……いや、かなり……まあ、あり得ないくらいにあの男は酷いですね」

「ふふっ。全くフォローになっていませんわ」


僕の言葉に笑いながらも、彼女の表情(かお)には諦めの感情が色濃く滲む。


正直、初めてミアを見かけた時は、五人の男を手玉に取るなんてどんな手練れなのだろうとワクワクした気持ちが芽生えていたのも事実。


(だって、いずれハーレムを築く僕にとって彼女は先輩みたいなものだったからね)


だけど、実際にミアと対面してみると……残念ながら思ったほどの魅力を感じることはなかったし、彼女から学ぶものもなかった。

むしろ、あの稚拙さに騙される男がいることに驚いたくらいだ。


「ハーボトル男爵令嬢にも問題はありますが、やはり彼が自分の立場を理解しないと何も変わらないと思いますよ?」


ミア程度にころっと騙されるユージンが悪い。

さらに言えば、婚約者のディアナを貶めておいて、そのくせ彼女と婚約を解消するわけでもない。


(ミアとの仲を確実にしてから婚約を解消するつもりなのかもしれないけど……うまくいかなかったらどうするんだろ?)


そんな僕の言葉に、ディアナは深い深い溜息を吐く。


「それでも、簡単に婚約を解消するわけにはいかないのです」

「アシュベリー伯爵が許してくれませんか?」


婚約は家同士のもの……つまり、家長であるディアナの父の許しがなければ婚約を解消することはできない。


「いえ、父はこの状況を知りません」

「…………」


(ん? 知らない?)


もしかして……。


「伯爵に話していないのですか!?」

「ええ。父に心配をかけたくはありません」


ディアナはきっぱりと言い切った。


「それに、これくらいのことは自分で対処できるようにならないと……。他の方々もハーボトル男爵令嬢に苦言を呈しながら、自身の婚約者との関係を戻そうと努力なさっていますから」

「他の方々って……?」

「私と同じようなご令嬢が学園に何人かいらっしゃるのです」


そういえば、ミアを囲っていたユージンを含む五人の男たち全員に婚約者がいると聞いていた。


(まさか五人全員の婚約者がディアナと同じように……?)


貴族令嬢としてのプライドや矜持なのかもしれないが、ここまで被害が出ているならば親の手を手を借りたほうが解決は早いと思う。


「ディアナ様は婚約を解消するつもりはないと?」

「ですから、簡単には……」

「解消できるとしたら?」

「え……?」

「もし、解消できるとしたらディアナ様はどうしますか?」

「それは……」


ディアナの瞳が揺らぎ、彼女は自身の両手をぎゅっと強く握りしめた。


「正直なところ、これまではユージン様を取り戻そうと必死になっておりました」


ミアに出会う前のユージンは、ディアナにとって何ら問題のない素敵な婚約者だったからだ。

政略だったとしてもディアナはユージンに惹かれ、彼とならともに未来を歩んでいけると信じていた。


だからこそユージンの心変わりに深く傷つき、それでも彼との思い出が足枷となり、元の関係に戻ることを諦めきれなかったという。


「ですが、先程のアイセル様に食って掛かるユージン様を見ていたら……その、彼への気持ちがスッと冷めていくのを感じまして……」

「あー……」


うん。わかるよ。

中身は成人済みだから、僕と会話をしている相手は僕が子供であることをうっかり忘れてしまう。

それはディアナ自身も言っていたことだ。

「まるで大人と会話しているようだ」と……。


だけど、端から見ていればユージンは子供の僕を怒鳴りつけ、僕の実母を引き合いに出してまで罵ろうとしていた。


(そりゃあ、引くよね)


どうやらディアナの恋慕に僕がトドメを刺してしまったらしい。


(なんだか申し訳ないことをしちゃったなぁ)


僕はユージンの顔を思い浮かべながら、内心笑いが止まらなくなるなるのだった。


読んでいただきありがとうございます。

次回は明日の8時頃に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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