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「ええっと……」


まさか僕に反論されるとは思わなかったのだろう。

目を泳がせながら戸惑うミア。


いくら僕が子供だからって、あんな言い掛かりでディアナを貶めようとするなんて……。

さすがにお粗末過ぎる。


というわけで、僕はディアナと出会った状況を余すことなく伝えることにした。


「僕の護衛とディアナ様がぶつかったんだ。そのせいで転んでしまったのはディアナ様のほう。もちろん僕に怪我はない。ああ、先に言っておくけどディアナ様はそのことで僕に怒りをぶつけたりはしなかったよ。自分にも非があったからとすぐに謝ってくださったんだ」

「…………」 


こうすれば、さっきのような自分にとって都合のいい部分だけを誇張し、歪めて吹聴する手は使えない。

ミアは何も言えずに黙ってしまった。


「お得意の印象操作ができなくて残念だったね」


僕がそう告げた瞬間、目の前で固まっていたミアの顔が怒りに歪む。


(あーあ……ガッカリだなぁ)


やっぱり彼女(ミア)の『可哀想』は偽物だ。


僕は可哀想な女性をとても好ましく思う。

悩んで苦しんで傷ついて、それでもどうにもならなくて八方塞がりになっている女性に強く惹かれてしまう。


だからこそ、自分を可哀想な弱者だと偽る女性には何一つ興奮しないのだ。

むしろ萎える。 


すると、今度はミアを庇うようにユージンが僕に食って掛かってきた。


「おい! 失礼なことを言わないでくれ! ミアは君が怪我をしたんじゃないかと純粋に心配をしてくれただけで……」

「だから、それが的外れだと指摘したんだよ。このままだとディアナ様が僕に怪我をさせたとあらぬ誤解を生んでしまいそうだったからね」

「でも……」

「あなたこそ、どうしてハーボトル男爵令嬢ばかり庇おうとするのかな?」

「ミアは俺の大切な友人だからだ!」

「ふーん……オトモダチねぇ?」


僕がユージンの発言を茶化すと、彼は顔を真っ赤にしながら再び口を開く。


「君だってディアナの肩ばかり持っているじゃないか!」


そう言ったあと、ハッと何かに気づいたようにユージンの言葉が止まる。

そして、ニヤリと口の端を歪めて笑った。


「ああ、なんだそういうことか……」


意味がわからず眉を(ひそ)める僕に向かって、ユージンはニヤニヤと笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「君は随分と年上が好みなんだね? 血は争えないというわけだ」

「……!?」


おおっと。ませたエロガキだと遠回しに嫌味を言われてしまった。


(まあ、正解なんだけどね)


だが、実母のことを持ち出されるとは思わなかった。


僕の実母が隣国で見つかったおかげで、父の汚名は(そそ)がれた。

そして、継母フェリシアが悪女だという噂も、裁判を起こしたことで異母妹のレイチェルによる策略であったと証明されつつある。


しかし、僕の実母がふしだらなイケメン好きだということは周知の事実となり、その血を引く僕の外見は母親譲り。

つまり、僕の実母を引き合いに出してユージンに嫌味を言われているというわけ。


だったら……。


「ええ。いくら政略結婚とはいえ、父という決められた相手がいるにもかかわらず、本能のまま好みのタイプに(なび)くだなんて……我が母ながら最低だと思いますよ」

「なっ……!」


まさか、僕があっさり認めるとは思わなかったのだろう。

ユージンが目を見開く。


「政略であっても相手を尊重し大切にするべきです。もちろん、あなたもそう思いますよね?」

「…………」


今まさに、婚約者を放ってヒロインといちゃついている彼には盛大なブーメランになったはずだ。


それにしても、中身はともかく外見は子供である僕の言葉にここまでヒートアップするなんて……。

どうやらユージンには煽り耐性が無いらしい。


(こういうタイプがカッとなって暴力を振るったりするんだよね)


DVやモラハラに走るタイプだ。

やはりディアナの相手には相応しくない。


「ユージン様。そろそろいきましょう?」


そこへ、これ以上は不利と悟ったのか、ミアがユージンのジャケットの裾を引っ張り、甘えた声で撤退を促す。


「あ、ああ。そうだな」


軽く咳払いをしたユージンは僕から目を逸らすと、今度はディアナに向き直る。


「今回はただの待ち合わせで、ミアと出会ったのは偶然だったようだが……。ディアナ、君が疑われたのは普段の(おこな)いが招いた結果だ! そのことをよく考えるんだな!」


そんな捨て台詞を残し、ようやくミアとユージンが僕たちの前から立ち去った。


「アイセル様、ユージン様の無礼な言動の数々……本当に申し訳ありません。後日、私からもう一度彼に話をいたしますので……」


そう言いながら僕に深く頭を下げるディアナ。

ミアはともかく、ユージンはディアナの婚約者であるため、彼の尻拭いもディアナの役割になってしまうのだろう。


「頭を上げてください。ディアナ様が謝られることはありません」

「いえ……しかし……」

「そんなことよりディアナ様に伺いたいことがあるのですが……」

「はい。何でしょうか?」


顔を上げたディアナにニッコリと笑いかけながら、僕はゆっくりと口を開く。


「あの男……ディアナ様に必要ですか?」

読んでいただきありがとうございます。

次回は明日の朝8時頃に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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