僕だってお年頃
「アイセル様……」
「それにとても優しいしいい匂いもするし時折見せる切なげな表情には興奮してしまいます!」
「アイセル様……?」
「つまり、初対面の僕が思わずナンパしてカフェに誘ってしまうくらいディアナ様は魅力的だということですよ!」
そこでようやくディアナは肩の力が抜けたように笑みを浮かべる。
(ああ、やっぱり)
愛情を与えられればディアナはこんなにも美しく花開くのに……。
彼女の婚約者はそんなことにも気づかないで、あざとい女の気を引くために尻尾を振り続けているのだろう。
(だったら、僕がディアナ様をもっと笑顔にしてあげなきゃね)
そう考えてしまうのも仕方がない。
僕だってお年頃の男の子なのだから。
僕はそっとディアナから手を離す。
「わたくしったら、つい喋り過ぎてしまいました。アイセル様と話しているとまるで大人と会話をしているような気分になってしまって……」
「ああ、それはおそらく僕が大人に囲まれて育ったからなのかもしれません」
「あ………」
途端に、ディアナはバツが悪そうな表情へと変化する。
どうやらダルサニア辺境伯家のあれやこれやの噂を耳にしたことがあるようだ。
あのレイチェルですら僕が冷遇されていたことを知っていたのだから、無理もないのかもしれない。
だが、せっかくなのでその噂を利用させてもらうことにする。
「ですので、僕はあまり同じ年頃の者たちと会話が噛み合わなくて……。そもそも屋敷にずっと籠もりきりだったので友人もいませんし……。だから、今日こうしてディアナ様とたくさんお話ができて本当に楽しかったんです」
別に嘘は何一つ言っていない。
ただ、ちょっぴり寂しげに微笑んでみせる。
「もしよければ、僕が王都に滞在している間にもう一度会っていただけませんか?」
そして、縋るような眼差しでディアナを見つめた。
「ええ。もちろんです」
優しいディアナは僕に同情してくれたのだろう。
おかげで、僕は彼女と次の約束を取り付けることに成功したのだった。
◇◇◇◇◇◇
ディアナと出会った日から一週間が経った。
その間にフェリシアは三度もお茶会に参加し、社交界での居場所作りに励んでいる。
アルバーン伯爵夫人のサポートのおかげもあり、今のところ成果は上々のようだ。
そして、本日もお茶会へ向かうフェリシアの乗った馬車を見送った僕は、ディアナとの待ち合わせ場所へと急ぐ。
そう。今日はディアナと二度目のデート。
デートだと思ったほうが僕の気分が上がるのでそういうことにしている。
僕たちが出会ったチョコレート店の前で待ち合わせをしていたのだが……。
「坊ちゃま。アレは……?」
今日も付き添いのファニーが困惑した声で僕に問いかけた。
チョコレート店の前にはすでにディアナの姿が見えている。
だが、淑女たる彼女が珍しく感情を露わにし、男女二人に何かを訴えているのだ。
「わたくしは待ち伏せなどしておりません!」
近づくと、ディアナの声が耳に届いた。
読んでいただきありがとうございます。
なんとか書けました!
明日も朝8時頃に投稿できるように頑張ります。
よろしくお願いいたします。




