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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夫の番が見つかった

作者: 高月水都

橘って英語でもタチバナなんですね。(発音違うかもしれないけど)

 我が国の王は人ではなく竜の血を色濃く継いでいる存在で、長い寿命。番を求める本能を持つ。


 だが、番が見つかるのはほんの一握りで、大体の王は成人して数年で諦めて、身分の釣り合う貴族令嬢と婚姻して後継者を作る。


 わたくし――アマリリスもそんな経緯で王妃になった。番を求める習慣が強い我が夫である陛下と結婚した時、実は白い結婚になるのではないかと内心警戒して……歴代の王の中には番以外と結婚したくないと白い結婚を貫いた者も居たからそうなる可能性も考えていたのだが、幸いにもそんなことなく、無事に二児の母になった。


 息子は夫ほど竜の血の影響はないようで、人間社会の常識を身に付けて貴族相手に渡り歩いていて、娘は甘えん坊でどこかにいる番を求めて相手をしてくれない夫に構ってもらえない分わたくしに甘えていた。


 寂しがる娘の気持ちが分かるから…………子供こそ作ったのに公務をすべてわたくしに押し付けて番のみ求める夫。そんな夫に若い頃は期待していたけど、今ではすっかり諦めてしまったが、娘の行動はまだあきらめていなかった頃のわたくしに似ていた。


「お母さま。今日はどこに行くのですか?」

 勉強が終わったのか娘がこちらに来て問い掛けてくる。


「今から、孤児院の慰安に向かうところよ。カサブランカ」

「じゃ、じゃあ。わたくしも……一緒に……」

 行きたいと甘えてくる幼い娘が可愛くて、傍に控えていた娘の侍女に、

「カサブランカのこの後の予定は?」

「授業も終わり、休憩時間です」

 今日は珍しく時間が空いていたからわたくしの所に来たのだと言われ、ならば予定を変更して共に行こうかと護衛に変更の指示をする。


 後で聞いたら、もしかしたら娘がそう言いだすかもしれないとすでに準備をしてたとのこと。今回の関係者に臨時ボーナスを出して、感謝をするとともに久々に母子揃っての公務。娘がとても嬉しそうにしていた。


「王妃さまだ~」

「今日は何の御本を読んでくれるの~」

 子供たちは最初は緊張していたけど、たびたび来るからかすっかり慣れてくれた。子供たちに何の本がいいか尋ねて音読会をしているわたくしから娘がそっと離れて一人の女の子と遊んでいるのが見えた。


 最近入ってきた子で、心身ともに弱っているから馴染めていない子供だと職員が教えてくれた子だったが……。


 音読会も終えて、しばらく様子を見ていると娘と女の子が結んだひもで何かを作っているのが見える。確か、遠い異国の遊びで……名前は何だったか。


「お母さま。見てみて、カンナちゃんすごいんだよっ!!」

 娘が呼んだと思ったら結んだひもでいろんなものを作っていく。


「あやとりって言うんだって」

 ああ。そうそう。あやとりだ。


「すごいわ」

 紐だけでここまでいろんな物を作れるなんてと感心すると女の子は嬉しそうに頬を緩ませていた。


 ………あとで聞いたらここの孤児院に来て初めて笑ってくれたとのこと。


 娘はそれ以来、時間があったら孤児院に向かい、その女の子――カンナちゃんと遊んでいるようになった。


 母としては寂しかったが、ずっとわたくしにべったりだったのが友達が出来たのだと喜ぶことにした。



 


「陛下。来月の予算ですが……」

「煩い!! 【番】じゃないのに口出しするなっ!!」

 公費の内分けを見ていたら孤児院の予算が削られていたのでそれに関して進言をしようとしたら遮られる。


「………………」

 またかと呆れる。


 竜の血を継ぐ者が玉座を継ぐ。だけど、その存在が王に相応しいかは別の話。

 わたくしの夫である陛下は、番を強く求める傾向がありながら。わたくしという妻を持ち、子供を二人作った。


 後継者問題で白い結婚を貫かれても困るが、先に生まれたのが王子だった時点で後継者が出来たと判断して子作りをしないという選択も出来たのにそれもせずに、歴代の王族の中には王位に就く前に番を探しに出奔していた者も居たが、それもせずにただ公務もせずにわたくしのすることに文句だけ言い続ける。


 いつか現れる番のために白い結婚もする気概もなく、番が現れないと諦めて王としての責務をこなすわけでもない中途半端な夫。


「ふんっ」 

 怒りの形相で去って行く夫。


 そんな夫の分まで公務を行っていく。

「母上。待っててください」

 騒ぎを聞きつけた息子がそっと声を掛けてくる。


「すぐに私が立派な王になりますから」

 そんなことを告げる息子のタチバナが誇らしかった。


「そうね……」

 その時が楽しみだと思って微笑む。





 それから数年後。


 息子はかつて誓った言葉を違えずに成長するにしたがって公務をしない夫の分まで公務に参加していく様に誰もが王に相応しいと期待を抱いた。


 そんな息子の素晴らしさに誰も夫に見向きをしなくなったのを察したのか。


「カサブランカの学園入学の挨拶に参加する」

 王立学園の入学式と卒業式は王族があいさつをする。だが、その公務も自分がする必要が無いとわたくしに丸投げしていたのにどんな風の吹き回しか。


「まあ、よろしいですが……」

 公務をしてくださるならそれでもいい。もしかしたら、王としての自覚に目覚めてくれたのかと期待もしてしまう。

 父性に目覚めてくれて、娘の晴れ舞台を見たいという理由でも構わない。


 まあ、もしもの時に備えて、信頼できる側近もつけておくように采配するが……。


(いや、駄目だ)

 今まで公務をしてこなかった夫だ。何かあったら大変だ。それになによりも入学式の挨拶はわたくしがするつもりで予定を入れていたのだ。急の変更は大変だろう。


「王妃さま……」

「様子を窺うつもりでわたくしも向かいます」

 宣言するとともに珍しくやる気に満ちている夫の邪魔しない様にとお忍びの格好で入学式に向かう。


 入学式では、例年夫の代理でわたくしが挨拶をしていたので珍しく王である夫がいることに保護者達が困惑して……、中には王の顔を知らない者も居るので誰だろうと首を傾げて、王と聞かされて動揺する生徒もいた中で。


 夫はやらかした。


 入学の挨拶をするはずだったのに壇上に上がった瞬間一人の女子生徒をじっと見て、

「やっと、見つけたぞ。俺の番!!」

 と入学生の女子生徒……カンナに向かって抱き付いたのだ。


「お父さま。カンナちゃんを離してあげてください!!」

 最初に我に返ったのは娘のカサブランカで友人に抱き付く実の父を引き離そうと手を伸ばす。


「邪魔するなっ!!」

 だけど、番を見付けた夫はそれが実の娘であろうとも……いや、娘だからこそ自分の番との仲を裂く邪魔者扱いをして、力いっぱい床に叩き付ける。


「カサブランカっ!!」

 隠れて見ているつもりだったが、見ていられないとすぐに娘に駆け寄って怪我が無いか確かめる。


「陛下っ!!」

「たまにかぐわかしい匂いを身にまとっていることがあったが、まさか王妃の座を欲して俺から番を隠していたとはな……」

 カンナちゃんを抱きしめたまま夫の爪が竜の爪に変化する。


「ああ。なんて心地よいのだ。これが番のぬくもりか」

 夫がカンナちゃんを抱きしめたまま嬉しそうに笑っている。


「つがい?」

 カンナちゃんは戸惑ったように口を開く。


「ああ。そうだ。――龍の血を引く王族の前に現れる生涯の伴侶のことだ」

 喜色満面に夫が告げたとたん。


「えっ。気持ち悪い」

 まさかの反応だった。


「き、きも……? 番……?」

「陛下ってことはカサブランカさまのお父上なんでしょう。わたしの大好きなカサブランカさまに暴力を振るって、王妃さまを酷い人扱いして」

 その時になって気付いた。


 カンナちゃんは怒っていた。


「第一、私とカサブランカさまは同じ歳だし。実の娘と同じ年齢の子供に番って抱き付いてくるのって、私の産まれた国でそういうのは【ロリコン】とか【変態】って言うんですよ!!」

 夫に大きなダメージを与える口撃だった。


「つ、番……」

「王妃さまもカサブランカさまも孤児院の慰安によく来てくれて、カサブランカさまは孤児院のみんなに勉強を教えてくれていました。王妃さまはいつも公務で国を良くしようと頑張っていました。だけど、カサブランカさまの父上は何をしていたんですか? 国の大事な式典でも見たことないですよ」

 その時になって初めて知った。


 竜が番を求めるのは本能で、番を手に入れるとより強靭な存在になると言われてた。だけど、番の心の奥底から拒絶されると…………。


「そんな……番……」

 竜の能力は急激に低下していくのだと。


 竜の爪は砕け落ち、長命の影響で若いままだった夫が急激に老いていき、身体のあちこちが痩せ細っていく。


 するりと腕の中から脱走したカンナちゃんはカサブランカに近付いて、

「カサブランカさま。お怪我は?」

 と怪我の有無を確認する。


「そんな、番……」

 どうして腕の中からすり抜けていくのかと信じられないような顔をしている夫を気持ち悪そうに拒んでいるが、はっきり言っていいのか肩書が王だからこそ困っているカンナちゃんに、

「言いたいことは言ってもいいわよ。わたくしが許します」

 と許可を出すと嬉しそうにお礼を言って、夫に視線を向ける。

「番……」

 視線を向けられたことで喜ぶ夫に一言。


「カサブランカさまに酷いことをする人なんて大嫌い。気持ち悪いから近付かないで」

 その途端夫は……ショックのあまり意識を失っていった。


「ちょうどよかったですね」

 同じようにカサブランカの晴れ舞台を見たいとひっそりと来ていたタチバナが姿を現す。王族が全員いるのは危険行為だからと最後まで隠れているつもりだったが、何かあった時のために姿を現したのだ。


「番に拒まれて使いモノにならなくなった父はここで退位をしてもらう」

 宣言と共に部下に夫を連れて行くように指示をする。その対応の速さに流石我が息子と安堵したのだった。





 後、夫はもう二度と表舞台に出られないだろう。ひっそりとどこかに隠居生活という名の幽閉をしておこうとこっそり手を回したのだった。







身分差のある番ネタだと立場が上の人の方が結構有利なので一矢報いたいと思った。(恋人がいたのに別れさせられた。幽閉とかのパターンもあるし)

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― 新着の感想 ―
ちゃんと公務やって、王妃といっしょに孤児院慰問やっていればもっと早くに見つかったのにね…と考えてから、どのみち更にロリコンなだけなやつや…と思い到りました。救いはなかった(王にとって)
この王様、長命種なんやし、もし自分の直系の子孫が番やったらどうすんねやろな? 今回のカンナ嬢の時みたいに脇目も振らず「ヒャッハー番だー!」って特攻すんのか。 はたまた「いやいや流石に自分の子孫はアカ…
そりゃ自分と仲良くしてくれた友達のお父さんに抱きつかれたら普通に気持ち悪いでしょ!?その感想一択じゃないですか、普通の女の子だったら…(笑)抱きついてこない仕事してるお父さんだったら『ちょっとかっこい…
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