第9話 生死を受け入れる覚悟
クリスマスまで、あと15日
「なるほど。イヴに最後のリクエスト撮影を」
「彼女と最後になるから、外出許可を」
僕は佐伯先生に外出の許可を申請した。
「わかった。 当日までの体調を見極めたうえで最終判断をする。それで良いね?」
佐伯先生に言われ、僕は病室の窓を見る。
曇天の空に薄日がさしている。
まるで、僕を迎えに来る準備をしているかのようだった。
僕はもうすぐ死ぬんだと、ひしひしと重くのしかかる。
それでも僕は、最期の時まで生きようと心に誓った。
僕は咲希さんにメールを送った。
「咲希さんへ、
こんなメールを送ってごめんね。
でも、この気持ちだけはどうしても伝えたいから。
初めて出会ったときから、君はCEOになるのが夢だと語っていたね?
君は、モデルたちが楽しく女性らしく輝ける職場を作りたいという思いを持っていた。
だからこそ君は毎日頑張っている。
でも、君の身体は一つしかない。
僕が死んでも、君は生きててほしい。
いつ死ぬかわからない僕だけど、これからもよろしく」
僕は送信した。
さて、これからどう生きていくか。
まずやるべきことを整理する。
「まずは、咲希さんへのバースデービデオメッセージの収録」
僕はナースコールで看護師さんを呼ぶ。
「なるほど、最後のバースデープレゼントに添える動画メッセージを」
「お願いします」
看護師さんが携帯電話のカメラで動画を撮影してくれる。
「咲希さんへ」
無事に収録を終えた。
「ごめんなさい、わがままを言ってしまって」
「良いんですよ。大好きな人への最後のサプライズだから」
看護師さんと他愛のない話をする僕は、どこか悲しかった。
もうすぐ死ぬとわかっているのに、もう少しだけ生きていたい。
そんな気持ちが拮抗している。
すると、咲希さんからメールの返信が来た。
開いてみるとこう記された。
「悠斗くんへ、
心配してくれてありがとう。
私は、小さい時から女性らしく輝ける職場を作りたいと思っていたの。
でも、それが出来たのは、他でもない勇斗くんのおかげ。
だから、悠斗くんには感謝してるし、ずっと生きてほしいと願っている。
こんな事を言うのも何だけど、
どうか、死なないで……」
咲希さんも僕のことを心配してくれている。
だからこそ、最後まで生きていこう。
僕はそう誓った。
夜7時、僕は最後のクリスマスプレゼントを選んでいる時、咲希さんがTikTokでライブ配信するという通知を受け取った。
僕は早速アプリを起動して咲希さんのアカウントを探す。
「こんばんわ! 今日は咲希のメロメロバーリニューアルオープン記念配信!!」
咲希さんが画面の向こうからハイテンションで挨拶した。
そう言えば、高田馬場でレンタルスペースを運営して毎週火曜日にバーイベントをやっていたんだっけ?
風営法が改正されてしばらく休業していたけど、今になってようやく再開できたってことか。
「今夜の特別ゲストは、男性コスプレイヤーにしてキャンプメシの達人・MAKOTOくんが来ています!!」
「どうも! キャンプレイヤーのMAKOTOです! 今夜は咲希さんと一緒に家庭でもできるアウトドア風ステーキを作ってお客さんをもてなします!」
そうか、MAKOTOくんが来ているのか。
彼は合わせの撮影には必ず呼んでいるキャンプ仲間で、僕の病状を知る数少ない友人でもある。
「MAKOTOくん、今夜もよろしく」
そうコメントを送る。
「あ、悠斗さんからコメントが! ありがとうね!」
MAKOTOくん、意外とシャイだけど寝はしっかりしている。
彼はコミケで初めて撮影して出来た友達だから。
「MAKOTOくん、悠斗くんとはどんな経緯で?」
「まぁ、コミケで撮影してもらったのがきっかけかな? 合わせ遠征のときは僕のキャンプスキルを活かしてみんなを楽しませていたからね」
咲希さんは興味津々だ。
MAKOTOくん、意外とアウトドア料理のスキルは豊富で、TVアニメ<異世界キャンプメシの流儀>では、料理監修もやっていて、公式レシピ本も3冊ほど出している。
咲希さんに負けないマルチ振りを見せる一方で、私生活はだらしないというわけではないが、酒が回ると異様なテンションになる変わり者だ。
「じゃぁ、お肉を仕込んでいる間に雑談配信始めようか!」
「そうだね!」
二人の雑談が始まった。
僕はすかさずコメントを送る。
「あ、勇斗くんからコメント! <今夜は9時までしか見れないけど、楽しませてもらうよ>、だって!」
「悠斗さん、入院しているの?」
「うん。もう、長くは生きられないみたいなの」
「そうなんだ。僕も姉を難病で亡くしているから、勇斗さんが最後まで生きてきた証を、僕はみんなに伝えたい」
MAKOTOくん、優しいなぁ。
彼なら、咲希さんを託せるかも知れない。
僕はXのダイレクトメッセージでMAKOTOくんにメッセージを送った。
「咲希さんを頼む」
僕はその一言を遺して配信から離脱した。
時刻はまもなく夜9時。
消灯時間が近い。
僕は携帯の電源を切って寝ることにした。
そして夢を見る。
咲希さんと僕が結婚する夢を。
これが僕が本来臨んでいた夢だということを知っている。
そしてすべてが暗くなる。
誰もいなくなったチャペルで、僕はひとり佇んでいた。
そして、黒い衣装をまとった男が出てきた。
彼はこう告げる。
「君は今年のクリスマスで命を終える。それまでに思い残したことをやりきれ」
男がそう言い終えた途端、僕は目が覚めた。
時刻は午前5時。
見回りに来ていた看護師さんに声をかけた。
「あ、ちょうど佐伯先生があなたに渡したいものがあると」
看護師さんが僕にあるものを渡した。
それは、咲希さんからの贈り物。
僕あてに書いた、クリスマスのグリーティングカード。
開いてみると、1枚の写真とメッセージが封入されていた。
「悠斗くんへ、メリークリスマス。
少し早いけど、この写真を渡しておくね」
それは、僕にとってかけがえのないもの。
そして、写真には咲希さんのサンタコスが収められていた。
「ありがとう、咲希さん」
僕は泣いた。
嬉しかった。
これが最初で最後の、愛する人から送られた最高のクリスマスプレゼント。
「あとは、僕のなすべきことを……!」
僕は最後まで生きる。
そのためには、
「佐伯先生へ、明日外泊許可を申請したいのですが」
佐伯先生にメールを送った。
僕の精一杯を咲希さんに捧げたい。
「咲希さん、明日は休みだよね?
今度海浜幕張のイルミネーションを見に行きませんか?
あなたのお返事を待っています」
僕は咲希さんへメールを送った。
命の輝きは永遠ですか?




