第7話 真実
クリスマスまであと18日
撮影会を終えた僕は真彩さんと話をしていた。
「やっぱり、咲希ちゃんもわかっていたのよ。あなたが長く行きられないって」
「僕も気づいていたんです」
「聞かせて。あなたがなぜ病気になったのか」
真彩さんに促され、僕はこの病気になったきっかけを話す。
それは、僕が19歳、大学に入って間もない頃だった。
「綿あめ撮影会?」
大学の教室で、僕はまだCEOになっていない咲希さんから起業することを打ち明けてきた。
「そうなのよ! コスプレイヤーも普通のモデルさんも大歓迎の撮影会! 真彩ちゃんが主宰モデルで私がCEO! すごくない?」
咲希さんはこの時から、コスプレモデルの仕事をする傍ら、起業家としての勉強もしてきた。
今になって企業の目処がたったという。
「だから、坂田くんもカメラのセンスがあるでしょ? 私の専属カメラマンになって、私のPR写真を取ってほしいの!!」
なるほど、僕は彼女の専属カメラマンとして頑張るわけだ。
「でも、そのための資金とかはどうするの?」
「そこは、モデルのお仕事で稼いだお金で賄う! あと、カフェギャラリーも作っちゃうの!!」
実は、真彩さんが大塚にいい物件を見つけたらしく、モデル業で稼いだお金で買い取ったらしい。
「これで、私の計画は始まったばかり! 坂田くん、私のLP写真よろしく!」
なんだか押し付けられた感じがするなぁ。
僕は渋々それを了承した。
2月14日、この日はバレンタイン。
咲希さんはモデル活動に専念しているため、ほとんどチョコレートを貰う機会はなかった。
でも、その時の僕は有名チョコレートブランドの板チョコを購入した。
「咲希さん、いつもお疲れ様」
「あ、有名ブランドのチョコレートですか? あんまり高級なものは食べないな」
渡そうとしても丁寧に断られた。
その時の僕は知らなかった。
彼女が高級品よりも楽しいことにお金を使う人だったことを。
「坂田くん! 撮影お願い!」
「わかった!」
でも、必ず彼女のハートを射止めてやる。
僕はその時から誓っていた。
その帰り道、僕は大学から帰る途中で胸に小さな違和感を覚えた。
なにか心臓が大きく鼓動を打っているような感覚だった。
その時の僕は、大したことはないと思った。
でもそれが、今の僕を苦しめ続けていたことを知らなかった。
「その時から、貴方は病気を?」
真彩さんが僕の話を聞いて納得した。
「あのときは大したことはなかったけど、それが僕の命を蝕んでいたなんて思いもしなかった」
そして、僕は佐伯先生との出会いを打ち明ける。
4月5日、その時の僕は胸の違和感が気になって東京大学附属病院を訪ねた。
そこには、心臓外科医療のパイオニアである佐伯先生がいたからだ。
「君が、坂田勇斗くんだね? 私が君の主治医を担当することになった佐伯だ。今後ともよろしく」
佐伯先生は早速僕を検査してくれた。
CTスキャンやレントゲン撮影、ありとあらゆる検査をしてくれた。
その結果は、
「坂田くん、君は拡張型心筋症とみて間違いない」
僕の闘病生活のきっかけにもなる宣告だった。
「しかも、かなりレアなケースだ。心臓が徐々に肥大化してまともに血液が全身に送れなくなる。移植手術をしても成功するかは半々だ。余命は3年以内が目安と言っていいだろう」
そう、僕の余命はこの時から決まっていた。
「先生、僕はどうすれば?」
「慌てることはない。発作を抑える薬は処方しておく。それでも、臓器提供者が見つかるまでの時間稼ぎかも知れない」
それからの僕は絶望していた。
いつ死ぬかわからない恐怖に打ちひしがれ、僕は泣いていた。
死にたくない。
それだけだった。
僕は家族に病気のことを打ち明けた。
当然家族は悲しんだ。
いつ死ぬかわからない息子の命だ。
泣いて当然だと思ったが、
「あたしはそれでも、兄さんと一緒に生きる!」
まだ17歳の澪は決意を固めていた。
こんな僕でも、支えると決めた妹がいたんだ。
「そうね」
「澪の言うとおりだ」
澪は本当に良い妹だ。
父さんと母さんが仕事で留守にしがちな家を守ってくれているから。
だから僕を支えると言ってくれる。
その部分だけは安心できる。
僕はそれだけでも心強かった。
こんなにも嬉しいことはなかった。
翌日、大学へ通うと。
「坂田! お前、大丈夫なのか?」
「大丈夫! ただの風邪みたいなものさ」
僕は、みんなに心配させないために嘘をついた。
せめてこの大学時代を有意義に過ごしたいと、心から願っていた。
「悠斗さんは、その時から私たちに余計な心配をかけないために?」
「そうだ。咲希さんたちを悲しませないために今まで隠し通してきたんだが、まさかここへ来てバレてしまうなんて」
「でも、咲希ちゃんはあなたを失いたくないと思ってる」
真彩さんは真剣だ。
咲希さんを誰よりも思ってくれている。
「咲希ちゃんは、あなたが長く生きれないことを去年から薄々感じていた」
真彩さんが咲希さんが僕が死ぬことをわかっていたことを打ち明ける。
「本当ですか?」
「あなたがその薬を欠かさず持っていたことで、咲希ちゃんは不安を感じていた」
どうやら、安定剤を持ってたことをすでに知っていたみたいだ。
「その薬のことは私も知っている。それは拡張型心筋症の発作を抑える抑制剤。飲むと発作を和らげるけど、定期的に服用しないといけない」
真彩さんは薬学部で薬の知識を学んでいた。
今はモデルとして活躍しているけど、薬剤師の道も検討していたことは僕でも知っていた。
「しかも、貴方は非常に稀なケースで、移植手術をしても完治できる保証はない変異原性タイプ。しかもその余命、もうわずかしかないんでしょ?」
さすがは真彩さん、僕の病状まで知っていたとは。
流石はメディカルモデル。
医師であり、モデルでもある彼女は救急救命士の資格も持っている。
「ハァハァハァハァ……」
「咲希ちゃん、大丈夫?」
真彩さんが咲希さんを支える。
「もう、嫌なの。悠斗くんが私のために嘘をついてるのが……!」
「咲希さん」
僕は涙が止まらなかった。
もう正直に生きようと心に決めた。
「あなたがもうすぐいなくなるって、嘘だと思っていた! 嫌でも忘れたかった! でも、本当なんだよね?」
咲希さんは涙が止まらなかった。
「悠斗くんは! もうすぐ死んじゃうんでしょ!? ねぇ、本当だよね……!」
「事実だ……! 本当にごめんね」
僕はもう限界だと感じていた。
だからこそ、この言葉を口にした。
その言葉を聞いた咲希さんは安堵したのか、僕に抱きついて泣きじゃくった。
僕はただ、静かに泣きながら受け止めた。
この短い命で、彼女を愛そうと誓った。
真実を知る覚悟は、あなたにありますか?




