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第4話 すれ違う優しさ

クリスマスまで、あと21日

 12月8日、僕が入院する日が決まった。

 

 再来週の日曜日からと。

 

 そして、大学の同窓会で僕はかつての仲間たちと再会した。

 

「悠斗! 久しぶりじゃないか!!」

 

 健児が僕の元を訪れた。

 

 彼は気の合う悪友で、いつもふざけ合っては教授に怒られる始末だった。

 

「お前、身体は大丈夫なのか? みんなお前が死ぬって囁かれてるぞ?」

 

「そうだよ。僕には来年はないんだ」

 

 みんな僕が闘病していることを知っていた。

 

 でも、僕に心配をかけたくないという気持ちくらいはわかる。

 

「俺だって嫌だけど、あんまり無理するな」

 

「ありがとう。ところで三島さんは?」

 

「あぁ、撮影会が終わって今こっちへ向かってる。到着しても、2時半辺りだろう」

 

「そうか」

 

 僕は時計の時刻を確認する。

 

 まだ11時すぎ。

 

 この同窓会は、夜7時まで行われる。

 

 そうなれば、咲希さんと二人きりになれるのはこの同窓会が終わってからになる。

 

 僕はLINEで咲希さんにメッセージを送った。

 

 <同窓会が終わったら二人きりでやりませんか>

 

 <OK! じゃぁ同窓会が終わったらカフェビスキュイで>

 

 と言ったように、メッセージのやり取りをする中、

 

「それじゃぁ、千葉総合大学同窓会名物、外縁一周ミニ駅伝を開催します!」

 

 千葉総合大学は西千葉駅前にキャンバスを構える大学だ。

 

 その外縁を一周する男女対抗の駅伝競走が、同窓会で人気を博している。

 

 僕は心臓に病気を抱えているため、参加できない。

 

「じゃぁ、悠斗の分まで俺は頑張るぜ!」

 

 健児は僕の思いを背負って走ってくれる。

 

 頼もしい悪友だ。

 

 僕はその間に、安定剤を飲む。

 

「坂田くん、少し良い?」

 

 と、同級生の女子たちに囲まれた。

 

「三島さん、あなたを心配してるの。あなたがいなくなったらどうすれば良いのかって」

 

「三島さんには黙ってほしいんだ。いずれわかってしまうことだから」

 

 そう、咲希さんはすでにわかっていたのかも知れない。

 

 僕はできるだけ彼女の笑顔を壊したくないと、願い続けている。

 

「お待たせいたしました!」

 

 駅伝競走の準備ができていた。

 

 僕は男子チームが勝つと信じている。

 

「スタート!」

 

 号砲がスピーカー越しに鳴り響き、最初のランナーがスタートした。

 

 最初の1区は両者譲らないデッドヒート。

 

「宮田、負けるな!」

 

「ゆうかちゃん、頑張って!!」

 

 一歩も譲らない中、第2区へとタスキが渡った。

 

 第2区は女子が優勢だが、男子も負けじと食らいつく。

 

「頑張れ!!」

 

「女のプライドを見せてやれ!」

 

 女子が優位を保つ中、男子は力を温存していた。

 

 そして、中継所が見えてくると、

 

「今だ!」

 

 ここへ来て男子が一気に加速する。

 

 あっという間に女子を追い抜いて第3区へとつなげた。

 

「良いぞ、田中!」

 

「みーちゃん、ファイト!!」

 

 モニター越しにギャラリーが応援する。

 

 第3区も第1区に引けを取らない激しいぶつかり合いになる。

 

 この第3区が、勝負の明暗を分けると言っても過言ではなかった。

 

 アンカーの第4区は、健児が待っている。

 

 僕は健児が勝つと信じている。

 

 そして、第4区へ差し掛かった途端、

 

「徒競走行為中止!」

 

 突然横断幕に止められた。

 

 モニターには、初老の男女4人が並んでいた。

 

「私たちは、スポーツよりも環境保全を訴える!」

 

「徒競走は中止して、今すぐ興行をやめてください!」

 

 せっかく良いところだったのに。

 

「こういう活動する人は地獄に落ちてほしいわね」

 

「まったくだ」

 

 外にいる健児たちも老人たちに文句を言う。

 

「せっかくの同窓会を邪魔しないでくれ!」

 

「そうよ!」

 

 健児たちは煽ってみた。

 

 こういう輩は煽られるのに弱かった。

 

「な、なによ! 環境を壊してまでスポーツに興じるつもり!?」

 

「覚えておきなさい!!」

 

 活動家たちが退散していく。


 やれやれ、とんだハプニングだ。

 

 そして、

 

「ごめん! 電車が遅れて終わるギリギリだったの!!」

 

 咲希さんが来てくれた。

 

 というのも、ダイヤの大幅な乱れで到着が2時間以上も遅れたらしい。

 

「いいって。それよりもビスキュイじゃなくて近くのカフェにしない?」

 

「まぁ、あんまり高くないお店なら」

 

 同窓会が終わって、僕は店までの道のりを二人きりで過ごす。

 

「ねぇ、一つ聞いていいかな?」

 

「なんだい?」

 

 僕は覚悟していた。

 

 いずれわかってしまうことを。

 

「坂田くん、引っ越すんでしょ?」

 

「え? まぁ、できれば海外にと思って……」

 

 僕はこの時知っていた。

 

 彼女が、僕に心配をかけたくなくて嘘を(・・)ついていることを。

 

 その優しさに答えるべく、僕も彼女を傷つけないための嘘をついた。

 

「で、出発はいつなの?」

 

「そうだな。来年の年明け以降を予定しているよ」

 

 とにかく、この場を凌ぐには最適な答えかもしれない。

 

「そうなんだ」

 

 咲希さんは少し涙を流した。

 

 僕には理解できる。

 

 僕が死ぬとわかっていても、心配をかけたくないという気持ちが。

 

「見えた」

 

「このお店は?」

 

 そう、僕が見つけた店は、大学時代にお世話になったジャズバー。

 

 久しぶりに中へ入ると、

 

「いらっしゃい。悠斗くん久しぶりだね」

 

 気さくなマスターが出迎えてくれた。

 

 大学時代からの顔見知りで、いつもサークルの演奏をさせてくれた。

 

「何を飲む?」

 

「とりあえず、クラフトコークハイで。彼女にはカルーアミルクを」

 

「はいよ」

 

 男女3人のアマチュアジャズバンドが軽快なジャズミュージックを奏でている。

 

「ここ、なんだか大人の雰囲気ね」

 

「そりゃぁ、大学時代によく演奏させてもらったものさ」

 

 僕は、安定剤の残りを確認する。

 

 佐伯先生が入院する日を見越している。

 

 もって、あと13日分。

 

「ねぇ、それは何?」

 

 咲希さんが安定剤に興味を示した。

 

「た、ただのサプリメントだよ! 最近健康に気を使っているし」

 

「そうなんだ」

 

 咲希さんは納得した。

 

 ただ、彼女はこう思っていた。

 

(本当に坂田くんが死ぬとしたら、私はどうすればいいの?)

 

 僕は何も言わなかった。

 

 これ以上彼女を悲しませたくないと。

 

「ほい、お待ち道様」

 

 マスターが酒を用意してくれた。

 

「ありがとう!」

 

「いただきます!」

 

 僕達はグラスを交わす。

 

「ねぇ、私の昔話、聞きたい?」

 

 咲希さんがこんな事を持ちかけた。

 

 彼女の昔話なんて聞いたことはないな。

 

「聞かせてくれないかな?」

 

「うん。 悠斗くんにだけ話してあげる。私がCEOになった経緯を」

 

 咲希さんが重い口を開く。

すれ違いはときに、お互いを守るためにもなる。

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