第3話 家族
クリスマスまで、あと22日
12月5日、僕は家族を連れて先日訪れたジュエリーショップを訪ねた。
澪や父さんたちに自分が何をするのかを説明するためだ。
「お父さん、息子さんが当店の遺骨ジュエリーサービスを利用するについて、率直なお気持ちを聞かせてください」
「息子は長く生きられないことは、私たちも知っていました。私としては、どんな形であれ、息子が永遠に生きてくれるならそれに反対はしません」
父さんが涙をのんで担当員に自分の気持ちを打ち明けた。
「私もです。息子が大好きな人のそばにいてくれるのなら、母親としてこれ以上にない幸せです」
母さんも同じだ。
澪はただ黙って頷くしかなかった。
「お気持ち、察しします。手続きの件ですが、どんなサイズのジュエリーでいたしますか?」
担当員が見積書を持ってきてくれた。
やはり、300万円となかなか手が出ない。
「当店では、故人の遺産で最大全額を負担できます。どうなさいますか?」
僕の傷病者手当は一月20万円。
死亡保険は最大500万円のため、今の収益を考えたら、すぐに届く。
「息子の死亡保険金を使います。お支払いはそれで構いませんか?」
「勿論、当店は保険金払いも大歓迎です。近年では死亡保険で制作するケースもありますので」
それは安心できる。
僕は早速手続きを取った。
使う僕の遺骨と遺髪、計400gで450万円。
その値段は土台や職人の手間賃や輸送費も含まれたオールインワン。
「悠斗、これでお父さんたちは思い残すことはない」
「だから、安心してね」
父さんたちが僕を抱きしめてくれた。
嬉しかった。
幼い頃から僕を厳しく育ててくれた父と、いつも見守ってくれた母。
そして、妹の澪。
こんな優しい家族に恵まれて、僕は幸せものだ。
「では、ご葬儀当日から6ヶ月を要します。本日はお手続き、ありがとうございました」
そして僕達は店を出た。
「悠斗、大丈夫か?」
足に力が入らなくなった僕を、父さんが支えてくれた。
「大丈夫、少しくらんだだけ」
「無理するな」
父さん、ありがとう。
僕は、あなたのような家族に恵まれたことを幸せに思います。
「よし、今日は焼き肉だ!」
「あなた、今日はお給料日だからといって、高いお店でしょ?」
「そういうと思って、今夜は高級肉が食べ放題の激安バイキングだ!」
そう、父さんは僕が永遠に旅立つことをわかったうえで焼肉を奢ってくれる。
僕はそれが嬉しくもあり悲しくもある。
もうすぐいなくなってしまうことを、わかってくれたからねぎらってくれる。
そして、訪れたバイキング店で、
「今日は、悠斗が主役だ!」
乾杯を上げて、夕食が始まった。
父さんと僕はビール。
母さんと澪は赤ワイン。
みんな僕をねぎらってくれる。
「よくこんなお店を見つけたわね?」
「実は、神戸フェアが開かれることをネットで知ってね。神戸ビーフが3980円で食べ放題は格安すぎるだろ?」
なるほど、それで僕をねぎらってくれたんだな。
僕はそれがどこか嬉しかった。
「兄さん、もういなくなるのはさみしいけど、私、兄さんが好きな人にちゃんと届けるから!」
澪はよく出来た妹だな。
兄として、嬉しく思う。
僕は、そんな家族が愛おしかった。
これからいなくなる僕をねぎらってくれるなんて、思い残すことは、咲希さんへの告白かな?
僕はそう思いながら家族と過ごす最後の時間を噛み締めた。
12月7日、僕は父さんたちと旅行で熱海まで新幹線で行った。
これが、最後の家族旅行と父さんたちが奮発してくれた。
「良い温泉街だね」
「そりゃぁ、父さんが出張に行った時、すごく良いお宿を見つけたんだ!」
そこまでしてくれるなんて、父さんの財布が心配になってくる。
「さぁ、着いたぞ。<瑠求ホテル・さざんか>だ!」
熱海駅からタクシーで10分海岸寄りに走った先にあるホテルは決して豪華ではないが、サービスの質が良さそうな雰囲気を出していた。
中に入ると、
「「「いらっしゃいませ!」」」
フロントガールたちが出迎えてくれた。
これだけでも質がいいとわかってしまうのは、父さんのセンスだ。
「さぁ、これがみんなで過ごす最後の旅行だ! 思い切り楽しもう!」
そうだな。
これが、父さんたちと過ごす最後の旅行だ。
全力で楽しまないと、死ぬ時後悔する!
「兄さん、あたし、外で買い物したい!」
澪が買い物をせがんできた。
「よーし、じゃぁ澪の友だちが喜ぶものを買っておこうか!」
「わーい!」
僕と澪は買い物に出かけた。
温泉街はいつにもなく活気で溢れている。
「こうやって兄妹水入らずも、これで最後なんだね?」
澪も、僕がいなくなることに悲しさを感じているのか。
「もし、僕がいなくなっても、」
「わかってる! 兄さんがいなくなっても、あたしは悲しまない!」
澪が拳を突き出す。
「悲しむのは、兄さんが死んでからでも十分! あたしは悲しんだ分、笑顔で兄さんを思うよ!」
澪は優しいな。
そして、誰よりも強い。
「よし、澪の好きなソフトクリームを奢るか!」
「やったー!」
そんな僕達の会話を人知れず聞いてしまった人がいた。
「坂田くんが……、死ぬ?」
たまたま年内最後の遠征で熱海を訪れていた咲希さんだ。
そんな事を知らない僕は、澪にソフトクリームを奢ってくれる。
「やっぱ、熱海の塩バニラは美味しい!」
「以前から食べたかったんだ」
他愛のない、妹との会話をする僕を見る咲希さん。
「ウソ……だよね」
そんな事を気に留めず、咲希さんは撮影に集中した。
ごめん咲希さん。
これが僕の身体の現状だ。
もう、命の時間制限が迫ってきているんだ。
そして、宿に戻っての夕食の時間。
「さぁ、遠慮しないでいいぞ!」
夕食は、バイキング会場での食べ放題。
流石に大盤振る舞いすぎないかと、冷や汗が出る。
「一度でいいから、キンメの刺し身を食べたかった!」
澪は大はしゃぎだった。
そう言えば澪は食リポーターを目指していたんだっけ?
僕は、窓越しの空を見上げた。
美しい上弦の月が雲一つない空で輝いていた。
まるで、僕にメッセージを伝えているかのようだ。
君の愛する人は、君の命を知ってしまったと。
その時の僕は、まだ知らなかった。
「悠斗! 早くしろよ!」
「早く選ばないと食べちゃうよ!」
「あ、今行くよ!!」
安定剤を飲んで、僕は食事を楽しむことにした。
駿河湾でとれた桜えびのかき揚げと黒毛和牛の鉄板焼。
これが、家族で過ごす最後の晩餐となった。
この先、僕の命は確実に終わりに近づいていくことになる。
遺骨ジュエリー、誰かのために何を遺しますか?




