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最終話 喪失と再生

いよいよ明日はクリスマス

 数日後、千葉市内にある葬儀場で僕の告別式が行なわれていた。

 

 家族や友人、綿あめ撮影会を代表して咲希さんと真彩さんが訪れていた。

 

 父とゆかりのある寺の住職がお経を唱えている。

 

 魂となった僕は、死神と一緒に参列者たちの後ろに立っていた。

 

「もう、悔いはないのか?」

 

 死神が尋ねた。

 

「咲希さんを思ってのことだよ。それに、これは僕自身が決めたことなんだ」

 

 僕は笑顔だ。

 

 もう、思い残すことなんてないし、やりきって満足している。

 

「悠斗くん……!」

 

 咲希さんが泣いている。

 

 僕が本当に死んだことを知って、初めて気づいた。

 

 これが愛する人を失う辛さなんだということを。

 

「これで良いんだ。後は僕の遺骨で」

 

「宝飾品が出来てそれが届けば、お前の役割は終わり、新たな生命(いのち)として生まれ変わる」

 

 死神は僕を新しい命への転生を約束してくれた。

 

 途端、住職さんが喝の一声を上げた。

 

 僕は少しビクッとなってしまった。

 

 僕の遺体はシンプルな棺に収められ、美しい花で彩られた。

 

 みんなが僕に最後の手紙や思い出の写真を入れてくれる。

 

「兄さん……」

 

 澪は涙ぐんでいた。

 

 よっぽど僕が死ぬのをわかった上で見送ろうとしているんだね?

 

 大丈夫だよ。

 

 僕がいなくてもきっとお前は生きていけるから。

 

 父さんと母さんのことは頼んだよ。

 

「真彩ちゃん」

 

「咲希ちゃん?」

 

「悠斗くんがいなくなったら、私はどうしたら良いの?」

 

 咲希さん、すごく不安になっていた。

 

 僕という最愛の人を失い、途方もない悲しみが彼女の心を押し潰す。

 

「悠斗さんから、貴方に遺言を預かっているの」

 

 そう、真彩さんと焼肉した時に、ある遺言を頼んでいた。

 

「<僕の魂は、貴方とともにある>」

 

 それは、いつまでも一緒にいるという、最後の言葉。

 

 咲希さんがそれを聞いて、安堵した。

 

「悠斗くん……」

 

 咲希さんが僕の遺体へと歩み寄る。

 

「これ、最後のプレゼント」

 

 棺に収めたのは、一枚の写真。

 

 僕と咲希さんが、スカイツリーで撮ったツーショットの写真だ。

 

「プリントして、持ってきたの。だから、大事にしてね……」

 

 咲希さん……。

 

 僕の為に、そこまで……。

 

 ありがとう。

 

 棺の蓋が閉じられ、釘が打たれる。

 

 僕の遺体が入った棺は、ゆっくりと霊柩車へと運ばれる。

 

 参列者たちは、最寄りの車に乗り込む。

 

 霊柩車がクラクションを鳴らして走り始める。

 

 参列者たちはその後に続くように車やバスで走る。

 

 僕と死神は、咲希さんたちを乗せたバスの屋根に座る。

 

「遺骨宝飾は、海外の職人が作ると聞いているが?」

 

「まぁ、あのお店で手続きをしたから、大丈夫だよ」

 

 死神と他愛のない話をする。

 

 僕の遺体は千葉市緑区の斎場に到着した。

 

 棺は、火葬炉まで運ばれていく。

 

 みんなが悲しみの色を浮かべながら棺を運ぶ台車の後について行く。

 

 僕の棺は、窓から雑木林が見える火葬炉の部屋へと運ばれた。

 

「皆様、最後のお別れを」

 

 葬儀社の担当が、父さんたちに最後の別れを促す。

 

「悠斗、よく頑張ったね」

 

 厳しくも温かい、そんな父さんが誇らしい。

 

「あなたがいなくても、私たちは大丈夫よ」

 

 母さん、本当にありがとう。

 

「兄さん、私、一人でも頑張るから!」

 

 澪、幸せになるんだぞ。

 

「さようなら悠斗さん。咲希ちゃんの事はまかせてね」

 

 真彩さんが僕を優しく見送ってくれる。

 

 咲希さんはただ黙っている。

 

「名残惜しいでしょうが、お時間です」

 

 いよいよ僕は火葬炉で遺骨となる。

 

 それまでの間は会食の時間が流れていく。

 

 会食場の窓外で、僕と死神は今後の打ち合わせをする。

 

「で、一つ確認だが、宝飾品に魂の一部を分け与える。それが生まれ変わる時に、彼女の子どもとなる目印だ」

 

 死神が書類を確認する。

 

 それだけに、僕は咲希さんの子どもとして生まれ変わることを手配してくれた。

 

「本当にありがとうございます」

 

「我らは死者の魂を正しい方向へ導く者。心正しき者に安らぎを、悪しき者に罰を与え、新たな生命として転生させる。大天使様のお導きのもとに」

 

 死神は本当に優しいんだな。

 

「大天使様が言うには、宝飾として生まれ変わった肉体はお前の加護が宿り、彼女を守る力となる」

 

 そう9なんだ。

 

 僕が臨んだことがそんな意味になってくるなんて。

 

「おっと、そろそろ焼き上がる時間だ。立派な遺骨になっているかも知れないぞ」

 

 死神は懐中時計を確認する。

 

 もうこんな時間か。

 

 火葬炉へと向かう参列者たち。

 

 僕は死神とともに火葬炉へと向かう。

 

 火葬炉には、遺骨となった僕が台車の上いた。

 

「では、これから、収めてまいります」

 

 みんなで僕を骨壺に収めていく。

 

「なんだか不思議だな」

 

「死者であれば自分の遺骨を見るのは当然だ」

 

 そして、きれいに骨壺に収まった。

 

 これで僕の告別式は終わった。

 

 僕は49日の間、この世に留まることを許されている。

 

「愛するものとそばにいてやりな。彼女はきっと心を押しつぶされそうになっている」

 

 そう、解散して真彩さんと咲希さんが家路についている。

 

「真彩ちゃん、今日は一人にさせて……」

 

 咲希さんは悲しい表情をしていた。

 

「わかった」

 

 真彩さんは咲希さんの仕事に影響が出ないか心配する。

 

 でも、咲希さんの判断を信じて真彩さんは自宅マンション前で分かれた。

 

 咲きさんの部屋についた。

 

 彼女は、僕が死んだことに勘定を抑えきれず泣き崩れた。

 

「悠斗くん……!」

 

 深い悲しみに、咲きさんは打ちひしがれた。

 

「何がCEOよ。何が経営者よ。愛する人を失ってしまった今、私には何もないよ……」

 

 子どものように泣きじゃくる咲希さん。

 

 僕も悲しいよ。

 

 でも、僕は最後に咲希さんに何を伝えればいいかわからなかった。

 

 その時死神は、

 

「心に話しかけるんだ。 ただし、1回きりのメッセージだ」

 

 アドバイスを教えてくれた。

 

 僕は直ぐに行動に移した。

 

『大丈夫。ずっとそばにいるよ』

 

 それは、咲希さんにとって、不思議な感覚。

 

「悠斗くん!?」

 

 周りを見渡すとそこに僕はいない。

 

 でも、心のなかに、永遠に生き続ける。

 

「そうだよね。悠斗くんに迷惑をかけるわけにはいかない……!」

 

 たとえ僕はこの世からいなくなっても、心のなかで確かに存在する。

 

「悠斗くんのためにも!」

 

 咲希さんは早速写真展の企画書を書き始める。

 

「これで良いんだ」

 

 僕は安心した。

 

「行こうか」

 

 僕は天使の梯子を登り始めた。

 

 咲希さんがこれからも、安心して活躍できる未来を願って……。

あなたに思い残すものがあれば、それはなんですか?

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