第21話 クリスマス配信(前編)
クリスマスまであと3日
12月25日夜11時。
この日、僕は永眠した。
24歳の若さだった。
僕に後悔はなかった。
僕が死んだ経緯は今から4時間前、咲希さんのクリスマスプレゼント配信が始まった夜7時まで遡る。
『みんな、元気? 綿あめ撮影会恒例のクリスマス配信、始まりましたー!』
YOUTUBEの咲希さんのチャンネルで、ライブ配信が行われていた。
『今回は、新人モデルのえりなちゃんと、お酒大好きほっぷちゃんでお送りします!!」
咲希さんが僕の携帯の画面越しに笑顔を振りまいてくれる。
『咲希さん、今年のクリスマスはなんか特別なプレゼントがあるって聞いたんですけど?』
『そうなんだよ! 悠斗くんが私のために良いお酒を奮発してくれたんだよ! ビスキュイの限定メニューとしてみんなで飲もうね!』
なんか僕も嬉しい気持ちだ。
僕の身体はほとんど動けない状態だ。
というのも、容態が少し悪化して、鼻に酸素チューブを入れないとだめな状態だった。
おまけに、下半身に力が入らなくなっているという。
そう、僕はこの2時間後に死ぬと決まっている。
死神が僕にそうなるようにしてくれた。
少し恨むが、これは仕方のないことだ。
『ほっぷちゃん、悠斗さんはどんなお酒を送ったの? 早くビスキュイで飲みたいんだけど!』
『えりなちゃん落ち着いて。きっとすごく特別なお酒なんだよ!』
画面越しのガールズトークはなにか微笑ましく感じる。
僕は残された上半身でコメントを書き込む。
「こんばんは。今夜は僕にとって最後の夜だから楽しもうね』
コメントが流れても良い。
僕はそんな気持ちだ。
「あ、悠斗さん! でも最後なんて言わないでほしいよ』
えりなさんが悲しげにつぶやく。
『そう言えば、悠斗さんは病気らしいから、もう余命がわずかしかないかも?』
ほっぷさんがえりなさんを落ち着かせる。
『そうだよ! 悲しいことは言わないで、今日は思い切り楽しもう!』
咲希さんが二人を励ました。
僕の心残りはもうない。
それでも、僕は咲希さんの姿を見れないとなれば、凄く悲しく感じる。
でも、身体はもう動けない。
いつ死んでもおかしくはなかった。
だから、この瞬間まで精一杯生きようと思った。
『それで、最近の綿あめ撮影会はほんとハプニング続きだったね』
『フェミニスト気取りの活動家からの妨害や、モデルへのストーカー行為。頭にきちゃうことばかりだったね』
『高いものを送りつけて自己満足する輩も!』
3人のガールズトークは、撮影会に思わぬトラブルが頻発して頭を悩ませているようだ。
「咲希さんは、高級品が苦手なタイプだったよね?」
『そう! 高ければいいなんて考えは私には不要! やっぱり100均こそが最強! 高級ブランドは推し活の敵!』
咲希さんの庶民派主義は徹底しているところがすごいよなぁ。
『一度グランクラスに座ったけど、サービスが良すぎて落ち着かないの。私にとって、グランクラスとかの高い席は私の主義に合わない!』
『どうせなら普通の席で十分だよね』
ほっぷさん、それは言えてるな。
僕は直ぐにコメントを入れた。
「ホテルのスイートルームの宿泊券をもらったらどうするの?」
直ぐに咲希さんが反応した。
『悠斗くん、もしそれがあたったら、私は金券ショップで換金するわ。招待券は基本お断り! 贅沢反対! 以上!!』
そうでした。
以前、ホテルディナーバイキングの招待券を送ったことが原因で出禁を食らった知り合いがいたなぁ。
「そう言えば、ホテルのディナーバイキングのチケットの件はあれからどうなったの?」
僕はコメントを送信する。
『勿論、燃やしました! 贅沢すぎるディナーは悠斗くんとの撮影で十分!』
『いいなぁ』
えりなさんが、咲希さんとホテル撮影に行ったことを聞いて羨ましがる。
『ああいう贅沢な場所やサービスは、庶民には贅沢! 贅沢反対こそ庶民派主義の鉄則!』
咲希さんは徹底してるからな。
下手に高級品を送れないし、高級ホテルは基本お断りだ。
代わりに、ビジネスホテルや民宿とかは結構知っていて、有名旅館の格安プランも把握している。
『飛行機はエコノミーで十分よ。ファーストクラスなんて所詮はお金持ち専用だし』
もはや金持ち嫌いがここまで来ると、あっぱれとしか言いようがない。
そんな咲希さんは僕に恋している。
たとえ、僕が今日この世からいなくなったとしても。
『そう言えば最近、綿あめ撮影会に悪評が書かれて逮捕された事件、覚えてます?』
『あぁ、例の撮影会やめろ事件? 真彩ちゃんが特定して警察に通報したから私たちの被害は最小限で済んだね』
そう、ここ最近撮影会に悪質な書き込みをして侮辱してきた事件があって、その首謀者である女性が逮捕された事件。
調べに対して<女性である自覚を持って行動して欲しい。モデルを気取ると痛い目を見るから、やめさせるためにやった正義の行動だ>と言っていたな。
そんな事を言う女性の方がよっぽど恥ずかしいよ。
「僕も一安心した」
コメントを書き込む。
『悠斗くんありがとう。今後も綿あめ撮影会は安泰だよ』
少し勇気が出た。
これで自分の命の終わりに華を添えられる。
『プレゼントの開封は、このあと7時半に行いますので、それまでは私たちよおしゃべりしましょう!』
そうだね。
まだ始まって10分も経っていない。
今夜は死ぬまで楽しむとしますか。
「ほっぷさんへ、今年のプレゼントは特別なお酒ですから、きっと喜んでくれると思いますよ!」
コメントを書いて送信する。
『どんなお酒なのか楽しみです!』
えりなさんが乾杯用のシャンパンを持ってきた。
『それじゃぁ、咲希さんの為にドンペリを買ってきました!』
『あぁっ! えりなちゃんだめだよ、そんな高いお酒で乾杯するなんて!』
『いいのよ。どのみち、最高のクリスマスのために奮発したんですから!』
えりなさんは金持ちのご令嬢であることを、撮影会のホームページで知っていた。
『えりなちゃん、金持ち気質は基本禁止ですよ? 私の価値観では』
『ゲロやば。善処します』
やれやれ。
咲希さんの庶民派主義は呆れてしまうところがある。
「とにかく良いお酒で乾杯するのは良いことじゃないか」
『悠斗くん、私はあんまり値段が高いものを見ると吐き気が出ちゃうの。だからそんな事を言わないで』
僕からのコメントに、咲希さんが鋭く突っ込む。
『と、とりあえず気を取り直して乾杯しましょう! えりなちゃんの気持ちを無駄にしないためにも、ね?』
ほっぷさん、お酒好きだから優しいね。
『まぁ、今回だけよ。次からは2000円以内でお願いね、えりなちゃん』
『了解です。でも、私なりの感覚でセレクトしますので』
貴方は推しに、どんなプレゼントを送りますか?




