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第2話 決意

クリスマスまで、あと23日

 12月1日、僕は定期検診を受けていた。

 

「やはり、症状は日に日に重症化(おも)くなってきている」

 

 佐伯先生の診断は的確だ。

 

「このまま入院(はい)ることも検討したほうが良いでしょうか?」

 

「今のところはその必要はないが、一応記憶にとどめたほうが良い。君の命はもうあと僅かしかないのだからな」

 

 僕を心配してくれる先生はいい人だ。

 

「いつも通り処方(だし)ておくよ。でも、これが最後だ」

 

「ありがとうございます」

 

 そう言うと、僕は病院を出た。

 

 街はすっかりクリスマスの雰囲気。

 

 きらびやかな飾りと、イルミネーションが眩しくて仕方ない。

 

 それらを夕闇の色が引き立てている。

 

「あれ? 坂田くんじゃない!」

 

 と、不意に咲希さんが近寄ってきた。

 

「どうしたんですか?」

 

「まぁ、お休みが取れて今度のクリスマス配信の飾りを買おうかなとw」

 

 流石は咲希さん。

 

 非番も仕事で頭がいっぱいだ。

 

「まぁ、恋愛はしたいけど、私は男性と付き合うと何を言われるかわからないから」

 

 たしかに、咲希さんは忙しくて恋愛どころじゃなさそうだ。

 

 だけど、僕もそれなりに彼女のことは知っている。

 

「咲希さん、よかったら付き合いますよ」

 

「それじゃ冗談に聞こえるけど、ありがとね」

 

 こうして、僕は咲希さんと買い物に付き合うことになった。

 

「やっぱりツリーに合う飾り付けは、」

 

「これなんかどうですか?」

 

 僕はクリスマス配信に向けた飾りの買い出しに何処か心が満たされる感じがした。

 

「咲希さんはマイティフードを知ってます?」

 

「あのまずい栄養食のパン? この前おすすめされて食べたけど、美味しくなかった。私は栄養よりも美味しさで決めます!」

 

 咲希さんは無類のラーメン好き。

 

 健康的な栄養食は大嫌いと言っていたっけ。

 

「どうして、栄養よりも美味しさを選ぶの?」

 

「聞きたい? なぜなら、栄養食はとにかくまずい! 以上!」

 

 まぁ、人の好みそれぞれだから、これを読んでいるみなさんはどうかお気になさらず。

 

 安定剤をこっそり飲み、僕は咲希さんの買い物に付き合っている。

 

「それと、坂田くん」

 

「なんですか?」

 

 僕は咲希さんに気を取られてしまう。

 

「最近の坂田くんなんだか変だよ? いつも会いに来るはずなのに、急に私を突き放すような感じ出して」

 

 まだ、僕の身体のことは気づいていない。

 

 真彩さんが手回ししてくれたおかげだ。

 

「なにって、いつもの感じだよ?」

 

「なら良いけど、私の前からいなくなったら、悲しいよ」

 

 咲希さんは悲しげな声を出した。

 

 僕は罪悪感を持ってしまった。

 

 それでも、僕の命はもうわずかしかないと覚悟している。

 

 せめて、咲希さんの笑顔を壊したくはない。

 

 僕はそう思った。

 

「お腹空いてきません? そこのフレンチで「まって!」

 

 咲希さんが僕を止めた。

 

「あんまり高いお店だと、私の矜持が許しません! もっと安くて美味しいお店にしてください!」

 

 咲希さんいわく、高級店での食事は自分の矜持が許さない。

 

 理由としては、高級店は金持ちが通うがめつい店と言う偏見的な価値観を持っている。

 

 そうなると、僕が選んだ結論は、

 

「で、島屋のすき焼き定食なんだよな」

 

「おしゃれなお店は私の庶民性が崩れるので、いつもの味じゃなければ満足しません!」

 

 CEOなのに、意外と庶民派。

 

 かの投資王も自家用機を持ちながらハンバーガーを頬張る、意外とおちゃめなところを持っている。

 

 そんな彼も、月見バーガーを食べた時、<これは日本でしか食べれない秋のバーガーだ>と絶賛したんだっけ?

 

 ともかく、すき焼きは冬のご馳走でもある。

 

 悪くはない。

 

「やっぱり、ここのすきやき定食は冬が来たなって感じがする! フレンチのお店は私の舌には合いません!」

 

「そうなんですか?」

 

「私のモットーは金持ちよりも面白い人! 高級店は私のタブーですから!」

 

 まぁ、咲希さんは幼少期に大富豪と付き合った時のトラウマが残っていると真彩さんから聞いていたな。

 

 僕は、甘辛い牛肉を生卵につけて食べる。

 

 チェーン店のすき焼きも意外と美味しいし、今度は限定の黒毛和牛すきやき定食でも頼もうかと思った。

 

「あ、黒毛和牛はやめてくださいね? 私、高いものはがめつい人のものっていうイメージしかありませんから!」

 

 よほどの金持ちアレルギーなんだなと、僕はしみじみそう思った。

 

「高級チョコレートもNGですよ!」

 

 バレンタインのことも見越していた。

 

 でも、僕には関係のないことだ。

 

 どのみち、死ぬと決まっているから。

 

「金持ちは嫌いなの?」

 

「当然! あんな金任せのがめつい連中なんて、私の感性に合いませんから!!」

 

 よっぽど、嫌いみたいだね。

 

 そう言えば、僕の行きつけのカフェギャラリーに高級茶葉を送ったがゆえに出禁を食らったカメラ仲間がいたな。

 

 あの人今どうしてるかな?

 

 でも、僕は夕食を食べ終えると咲希さんと別れた。

 

「父さん、こんど家族旅行がしたいな。来週で予約が取れそうなホテルを探してくれないかな?」

 

 携帯電話で僕は父さんに最後の家族旅行の約束をした。

 

 そして、僕は帰りにとあるジュエリーショップに立ち寄った。

 

「いらっしゃいませ。ご予約ですか?」

 

 店員さんが僕に近寄ってきた。

 

「ここで、遺骨をあれに出来ると聞きましたが?」

 

「あぁ、お見積りですね? どうぞこちらへ」

 

 僕は店員さんに案内されて、応接室へ足を運んだ。

 

「当店ではペットのご遺骨から故人までを請け負っております。お見積りで?」

 

「はい。私が死んだときに是非お願いしたくて」

 

 僕は担当員に自分が長くは生きられないことと、咲希さんへの最後の誕生日プレゼントに自分を残したかった事を伝える。

 

「なるほど。ご心中お察しします。では、後日ご家族と面会させていただけませんか? お手続きはその時に」

 

「よろしくお願いします」

 

 見積書を受け取り、僕は店を後にした。

 

 あとは、父さんたちに遺言状を遺すだけだ。

 

「咲希さん、僕はもう長くは生きられない。だから、僕の永遠の愛を君に贈る」

 

 僕は決意した。

 

 もう今年で僕は死ぬ。

 

 家につくと、僕は急いで父さんたちと咲希さんへの遺言状をそれぞれ書いた。

 

 英文で咲希さんへのメッセージを書く。

 

「これでよし」

 

 そして、家族にあてた遺言状を書く。

 

 僕は涙をこらえて書き続ける。

 

 もっと生きたい、咲希さんやみんなと一緒にいたい。

 

 だけど、それが叶わない願いなら、せめてなにか別の形になって生き続けよう。

 

 そう誓った。

 

「これでよし」

 

 宝石店からもらったエンディングノートに自分のこれからを書いた。

 

「これで良いんだ」

 

 書き綴ったノートにはこう記しておいた。

 

 「Forever love to your loved one」

人生のエンディングを決める時、あなたは何がしたいですか?

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