第18話 君と過ごす最後の
クリスマスまで、あと6日
隅田川が流れるエリアで僕と咲希さんは、最後のリクエスト撮影を楽しんだ。
「悠斗くん!」
子供のように無邪気な笑顔を見せる咲希さん。
こんなに可愛い笑顔を見せる咲希さん、初めてだなぁ……。
僕は、その笑顔をファインダーに収める。
「悠斗くんはいつも良い写真を撮るから、私もモデルとして頑張れちゃう!」
「それはどうも」
僕も笑顔を見せる。
それは、咲希さんも同じだ。
「それで、最後のリクエスト撮影、お支払いしなかったな……!」
「良いのよ! 悠斗くんのために特別サービス! 時間無制限で、無料!」
なんとも太っ腹な咲希さん。
これなら心ゆくまでまで撮影に没頭できる。
「あ、少しお茶しませんか?」
近くの喫茶店で一休みする。
僕はクラフトコーラ、咲希さんはホットコーヒーを注文する。
「これ、美味しいな」
「ここのクラフトコーラ、ハーブやスパイスの調合にこだわっているからね」
咲希さんは、物知りだなぁ……。
そんな僕も大概だけどね。
「とりあえず一休みしたところだし、次のエリアにいかない?」
「そうだね」
都営バスに揺られること30分。
「ねぇ、次の浅草で撮影しない?」
と、言われるがままにバスと地下鉄を乗り継いで浅草寺までやって来た。
仲見世通りは観光客で賑わっていて、常に活気で溢れていた。
「咲希さん、行きますよ!」
僕はカメラを構える。
咲希さんが背面を向いてポーズを取る。
これは、なかなかの構図だ。
「次はこのポーズで行くわよ!」
咲希さんが、乳房を強調する挑発的なポーズを取る。
両腕に挟まれた乳房が僕をドギマギさせる。
時計を見る。まだ10時半。
9時に病院を出て1時間半が過ぎていた。
「咲希さん、何か思い出の品を買いませんか?」
僕はこんな提案をする。
「そうだね。まぁ、どうせならペアルックで!」
咲希さんは大はしゃぎだ。
まったく、そういうところが咲希さんの魅力なんだよね。
近くの土産物屋で何か思い出になる物を探す。
「これ、いいかも!」
咲希さんが見つけたのは、恋のお守り。
「お、お姉さんいい目の付け所がだね! そいつを二人で持つと離れていてもまた会えるってな!」
店のオヤジさんがおすすめしてくれた。
離れていてもまた会える。
そうだな。
僕の身体がなくても魂は、形を変えてまた会える。
あの時、ジュエリーショップで手続きをしたから。
「じゃぁ、買います。 私と彼の二人分で!」
「毎度」
こうして、僕と咲希さんは、ピンクのお守りを購入した。
「へへへ、お揃いなんて、初めてだなぁ……」
「そうだね」
同じ物をお揃いで持つなんて、初めてだ。
これは、忘れられないな。
気を取り直して撮影に望む。
雷門前で、咲希さんはギャルピースをした。
僕は、それをファインダーに収める。
そして、シャッターを切る。
かなり良い写真が撮れた気がする。
「あ、かなり良い写真だよ!」
咲希さんは満足げにカメラを覗き込む。
今回の写真は、かなり出来栄えが良さそうだ。
「それじゃ、浅草落語を見ていかない?」
咲希さんがこんな提案をしてきた。
そうか、落語を見るのも悪くないかも。
落語会場のポスターには、有名な若手女型落語家の新作が披露されるらしい。
僕達は演目が始まるギリギリで立見席にたどり着いた。
演目が始まった。
おお、浅草の寄席でござんす! みなさん、ようこそお運び。今日は新作落語、『墨染め大江戸一輪』、お耳に入れましょい。
えー、江戸の末期、徳川幕府もガタガタ。悪徳商人どもが民を食い物にしとる。そこへ現れるのが、ドジっ子くノ一の「お墨ちゃん」。黒髪墨染め、着物は墨色、でも足元はいつも転びそう。師匠に「世直しせい!」と命じられ、江戸城へ潜入だ。
「お墨、将軍様に直訴だ!」って、夜中に忍び込む。ところが、廊下で滑ってドタン! 目覚めた将軍様、吉宗公の爺さん。「誰じゃ!」って刀抜く。お墨、慌てて「くノ一でござる! 悪を斬る!」って、でも手裏剣投げたら天井に刺さっちゃって、落ちてきて自分の頭にポクッ。
吉宗公、笑い転げ。「お主、面白いな。世直し、わしと一緒にやろう!」って、お墨を側室に? いや、相棒に任命。二人で悪徳商人・金貸し「銭右衛門」を追う。
銭右衛門、浅草で高利貸し、寺まで巻き上げよる。お墨、変装して潜入。「お金貸してくだされ!」って、でもドジって札束落として大混乱。吉宗公、馬で駆けつけ「待てー!」って、でもお墨が転んで馬の足引っかけて、吉宗公もドタン!
悪党ども、笑い転げてる隙に、お墨の墨汁手裏剣がビュン! みんな墨まみれ、目が開かねえ。吉宗公、刀で縄張り。「民の金、返せ!」って、銭右衛門捕まえて牢へ。
めでたく世直し完了。お墨、「将軍様、ありがと!」って、でもまた滑って吉宗公に抱きついちゃう。吉宗公、「お主、一輪の桜じゃのう」って、墨染めの着物が花びらみたい。
江戸の民、拍手喝采。ドジっ子くノ一と将軍様の痛快世直し、続くってよ。どうも、ありがとうさん!
演目を見終わって、
「中々に面白かったね」
「ああいう創作落語って、意外と考証とかが練り込まれて奥が深いよね」
少し雰囲気を楽しむだけ良しとするか。
そろそろお昼の時間だ。
咲希さんのお金事情を考えれば、余り贅沢はできない。
なおかつ、プチ贅沢感が出てコスト回りが良いものを選びたい。
付近のお店を調べたら、良い鰻屋さんが見つかったが、
「あ、うなぎは吉野家と決めているので、高い店はNGで!」
却下されたがそれも想定済みだ。
「浅草、マクロビ、デザート付き」
身体に良さげで僕でも食べれるお店を選んだ。
「咲希さん、この近くにマクロビ喫茶があるので、そこでお昼にしませんか?」
「マクロビフードねぇ……。あんまり美味しくなかったら許さないよ?」
そう言えば、咲希さんは栄養やヘルシーさより美味しさを選ぶ人だった。
まぁ、半年前に浅草の撮影会の休憩がてら立ち寄って食べたら意外と美味しかったから、死ぬまでに咲希さんと一緒に食べたいなと決めていた。
「味は保証しますよ! あそこのケーキはココナッツミルクベースのホイップを使っていますから!」
「本当に?」
咲希さんは疑いの目を向けてきた。
「とにかく行ってみればわかるよ!」
僕はそう言いながら、咲希さんの手を引っ張った・
「もう、自信があるってことは、相当美味しいでしょうね?」
「そこのプラントベーススパイスキーマカレープレートは、世界のヴィーガンがうなるほどなんだ!」
そう、味は保証している。
あそこのカレーは、とにかくグルテンフリーにこだわった一品だ。
僕と咲希さんは、その店へと一直線に走っていく。
好きな人とクリスマスをどう過ごしたいですか?




