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第17話 愛の始まり

クリスマスまで、あと7日

 朝ごはんを食べ終えたあと、宿をチェックアウトして松本城下町を探索した。

 

 昨日の雪とは打って変わって、穏やかに晴れている。

 

「これはね、私のお気に入りなんだ!」

 

 咲希さんは近くの酒蔵を紹介する。

 

「この日本酒シードルは、長野産のりんごとこの蔵の日本酒で作ったここでしか買えない貴重品なの!」

 

 咲希さんがこの蔵でしか買えない数量限定のシードルを買ってくれた。

 

 これはありがたい。

 

 後で家族に飲ませよう。

 

 そう言えば澪は今年で20歳だったな。

 

 みんなで飲んで澪のお祝いをしなきゃな。

 

「あと、ここの甘酒も絶品ですよ!」

 

 咲希さんがいつの間にか注文した甘酒のカップを持ってきた。

 

「ありがとう」

 

 早速一口飲む。

 

 ほんのり温かく、そして甘い。

 

「美味しい」

 

「でしょ? アルコールを飛ばしてあるから、子供でも飲めるんだよ!」

 

 咲希さんが一押しした理由がよく分かる。

 

 僕の身体が、この甘さを求めているような感覚だ。

 

「あ、せっかくだから写真撮らない?」

 

「でも、カメラと言っても携帯しか」

 

「いいのよ! プライベートだから、私と悠斗くんの思い出をたくさん作りたいの!」

 

 咲希さんは本当にモデル気質なんだな。

 

 とりあえず松本城まで行く。

 

 流石は歴史的価値があるだけに、観光客が多い。

 

「じゃぁ、悠斗くんとツーショで!」

 

 咲希さんが僕の手を引っ張る。

 

 そして、咲希さんの携帯電話(スマートフォン)で写真を撮る。

 

 少し恥ずかしいけど、僕は嬉しかった。

 

 僕の携帯でも同じ写真を撮った。

 

 これが、僕にとって咲希さんと過ごす最初で最後の旅行。

 

 僕はどこか嬉しかった。

 

「あ、こっちにフォトスポットがありますよ!」

 

 再び咲希さんが僕の手を引っ張る。

 

 まるで無邪気な子供みたいだ。

 

 そんな咲希さんが、僕は大好きだ。

 

「悠斗くーん! 早く撮りましょう!」

 

 咲希さんが僕を急かす。

 

 余り走れないが、僕はそれなりの速さで走る。

 

 そして、咲希さんをファインダーに収める。

 

 携帯電話だが、全く問題ない。

 

 すると、僕達のお腹がお昼の時間を知らせる。

 

「あはは、お腹空いちゃった」

 

「僕もだよ」

 

 近くに飲食店はないかと探す。

 

 すると、一件の中華料理店に目が留まる。

 

 北京ダックも含めてオーダー式の食べ放題。

 

 価格は一人2500円と少し高い。

 

「ここは僕が「まって!」

 

 咲希さんが僕が奢ろうとするのを止めた。

 

「今回は私が主導権です。悠斗くんは手出し無用です!」

 

 やれやれ、咲希さんには本当に頭が上がらないな。

 

 でも、ここまで尽くしてくれるのなら、死ぬまでの最後の思い出になるかな?

 

 咲希さんに連れられ、僕は店に入る。

 

 店内はモダン中華店特有の雰囲気で、円卓には回転盤が備わっている。

 

 僕達は2500円のコースを注文した。

 

 代金は先払い方式なのが嬉しい。

 

「遠慮しないで、どんどん食べよう!」

 

 咲希さんは仕切るなぁ……。

 

 とりあえず、店の名前<北京料理・松本亭>の由来となった松本チャーハンを頼んだ。

 

 しばらくして、

 

「お待たせいたしました」

 

 なんと、卵と米のシンプルなチャーハンの上に北京ダックの肉が一枚乗っかった贅沢なチャーハンが来た。

 

「ここの看板メニューの松本チャーハンは、北京ダックのお肉を有効活用できないかと考えた大将自慢の逸品なの」

 

 それを食べ放題コースに入れるとは、とっても味に自身があると見た。

 

 食べてみると、肉の脂が込めに染み渡って美味しい。

 

「でしょ? こだわりの秘伝のタレで味付けしてあるから、松本に帰る時は必ずここのチャーハンを頼むの!」

 

 咲希さんはこのお店が起きに入りみたいだ。

 

 まさか、入院前の食事が中華なんて、思わなかったな。

 

 でも、こういうランチも良いかも。

 

 お昼を食べ終えて、僕達は帰りの特急に揺られた。

 

「楽しかったよ」

 

「へへへ、突飛でごめんね。それに、悠斗くんがいなくなるの少しさみしいし、悲しいの」

 

 咲希さんが少し悲しげに言う。

 

 それは、近づいてくる別れの時。

 

 僕もそれを覚悟していた。

 

「咲希さん、今日はありがとう」

 

「どうして?」

 

 咲希さんは僕の言葉にきょとんとした。

 

 無理もない。

 

「東京駅に着いたら、少し寄り道しませんか? 君に見せたいものがあるんです」

 

 そう、学生の時一人である場所で東京の夜景を撮影した。

 

 そこからの夜景が、思いの外きれいだったので、咲希さんと一緒に撮りたいと思っていた。

 

 夕方、東京駅に着いた僕達は丸の内線に乗り換えて日本橋へ向かい、そこから半蔵門線に乗り換えて押上駅へ向かう。

 

 そして、東京スカイツリーに到着した。

 

 展望台へと登り、そこで見た景色は夕闇に包まれる東京の町並みと雲一つない大空だった。

 

「綺麗……」

 

「ここは絶景の撮影スポットで、咲希さんにも観てほしかったんだ」

 

 僕が大パノラマを自慢すると、

 

「こんな撮影場所、東京にもあったなんて……!」

 

 咲希さんは嬉し涙を流した。

 

「じゃぁ、私と悠斗くんの二人きりの撮影会を開こうか」

 

 咲希さんがカバンからコンパクトカメラを取り出す。

 

「それは?」

 

「私の私物よ。そして、撮影モデルは悠斗くん!」

 

 咲希さんが不意打ちとばかりに僕の写真を撮った。

 

「やったな! お返し!」

 

 僕も、携帯電話のカメラで撮影し返す。

 

 辺りは宵闇に包まれ、街明かりが色めきを出す。

 

「うわぁ……!」

 

「これが僕の見せたかった風景」

 

 そう、この夜景こそが咲希山に魅せたかったもの。

 

 東京の夜景を独り占めできるくらいの大パノラマ。

 

「こんな夜景のきれいなスポット、普段はあまり気にしなかったけど、よく撮れたね」

 

「学生の時たまたま見つけたんだ」

 

 咲希さんが無邪気な笑顔を見せる。

 

「悠斗くん、これが私の初恋だけど」

 

 どうやら、咲希さんは意を決したようだ。

 

「ほんの一瞬かも知れないけど、私と付き合ってください」

 

 それは、僕がいなくなるとわかったうえでの告白。

 

 その眼には、涙が浮かんでいた。

 

「こちらこそ」

 

 僕もそれを受け入れた。

 

 そして、お互いに抱き合い唇を重ねた。

 

 そう、余命がわずかしかない僕の最初で最後の恋が始まった。

 

 そして、今。

 

「悠斗くん、どうしたの?」

 

 咲希さんに呼ばれた。

 

「なんでもないよ」

 

 僕は気を取り直して撮影に望んだ。

 

 まだ光が眩しい9時半。

 

 これが最後の撮影であると。

 

 僕はカメラを握りしめる。

 

「悠斗くん、明日のクリスマス配信でプレゼントを開けていくから楽しみにしてね!」

 

「勿論だよ!」

 

 そう、明日は僕の命が終わる日。

 

 咲希さんが、最後のプレゼントを開けた時を見届けたうえで。

貴方は好きな人とどんな場所でキスをしますか?

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