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第15話 三島咲希・原点

クリスマスまで、あと9日

 すると、咲希さんから直ぐに返事が来た。

 

「マジ!?

 

 高級なお酒なんて信じられないよ!

 

 でも、クリスマスで特別なお酒をもらうのはありかもwww

 

 楽しみにしてるね!」

 

 どうやら喜んでくれたみたいだ。

 

 これで、思い残すことはない。

 

 少し軽い足取りでビスキュイへと向かった。

 

 東京メトロ千代田線に乗り、西日暮里で山手線に揺られて大塚駅へと向かう。

 

 大塚駅から歩いて10分のところにあるカフェビスキュイは、いつにもまして賑わっている。

 

 そう、今日から僕の最初で最後の個展が開かれている。

 

 テーマは僕が生きた証。

 

 みんなそれをわかってくれている。

 

「さて、僕の最初で最後の在廊だ」

 

 店に入ると、多くのカメラマンや僕のファンで賑わっていた。

 

「あ、悠斗くん!」

 

 今日は咲希さんが店番だった。

 

「メール見たけど、ちょっと高いお酒なんて信じられないよ! でも、勇斗くんからのプレゼントなら、喜んで受け取ろうかな?」

 

 咲希さんは顔を赤めながら笑う。

 

 本当に可愛いな。

 

「悠斗さん! このちさきさんの写真、すごくよく撮れているよ!」

 

「こっちの写真、すごく盛れてるね!」

 

 カメラマン達が僕の写真を称賛してくれた。

 

 それはありがたい。

 

 でも、批判してくる野次馬がいると、迷惑なんだよな。

 

 ネットで調べると、

 

「綿あめ撮影会はみんなの迷惑!」

 

「ブス! 可愛くない! 下品! 3拍子揃ったモデル気取りの女どもの集まり! 女性の恥!」

 

 と言ったように、フェミニスト気取りのおばさま方の悪口が掲示板にびっしりと書き込まれている。

 

「悪口があると、私でも凹むよ。せっかくみんな頑張っているのに、理解できない人がいるのだから」

 

 咲希さんはそう言いながら、僕にお冷を持ってきた。

 

「いつもすまないね」

 

「だって、勇斗くんの個展だもの。来ないわけには行かないし、ずっと、行きたかったの。勇斗くんの個展」

 

 咲希さんはどこか悲しげだった。

 

 それだけに僕の命がわずかしかないと言うものだ。

 

 僕は少し困り顔になってメニューを見る。

 

「とりあえず、パスタセットを頼む。ドリンクは食後で」

 

「了解」

 

 とりあえずいつも食べるメニューを注文すると、僕は考え事をする。

 

(これで良いんだ。僕の命は僕が決めるって)

 

 そう、僕の命は僕の意思で決める。

 

 心に誓った。

 

 周りを見渡す。

 

 壁一面に飾られた僕の集大成とも言える写真達が、ところ狭しと並んでいる。

 

 これが僕が生きた証。

 

 これまで撮りためた写真を一同に会している。

 

 僕はこれが出来て満足だった。

 

 もう、思い残すことはなくなった。

 

 あとは、来年11月の咲希さんの誕生日だ。

 

 僕はその時はいないけど、魂は君のそばにいるようになるから。

 

 そんなわけで、在廊を続ける。

 

 すると、LINEに咲希さんからのメッセージが届いた。

 

「悠斗くんへ、


 午後4時までのシフトだから、シフトが終わったらちょっと長野までいかない?」

 

 それは、咲希さんが故郷で何かをするための誘いなのか?

 

 僕は返信した。

 

「了解です。

 

 何をするんですか?」

 

「それは内緒。

 

 でも、悠斗くんへの最後のサプライズだから」

 

 そんなやり取りをしている間に、午後4時になった。

 

 シフトを終えた咲希さんと一緒に山手線で東京駅まで揺られる。

 

「泊りがけ?」

 

「そうよ。故郷に帰って一休みしたいの!」

 

 東京駅で中央線で八王子まで揺られ、その八王子で特急あずさに乗り換える。

 

 勿論席はグリーン車。

 

「新幹線のグランクラスは少し落ち着かないの。豪華すぎて気を使っちゃうから」

 

 そう言いながら缶ビールを飲み干す咲希さん。

 

 やっぱり高ければ良いわけではないというのは、あながち間違っていないようだ。

 

「僕は明後日から入院するんだけど?」

 

「え、初耳だけど!?」

 

 咲希さんが驚きの余りビールを吹いた。

 

「ごめん。びっくりしちゃったけど、本当なの?」

 

「事実だよ」

 

 そう、僕が入院することに、咲希さんは衝撃を隠せなかった。

 

「でも、わかっていたの。勇斗くんがもういなくなるから、覚悟していた」

 

 咲希さんも腹をくくっていた。

 

 でも、その時の僕は咲希さんと衝突することを知らなかったから。

 

「ねぇ、松本の温泉旅館で泊まっていかない?」

 

 咲希さんが意外な話を持ちかけた。

 

「まさか?」

 

「そう! 松本の温泉旅館の宿泊チケットが当たったの!! 悠斗くんと最後の旅行になるかも知れないから」

 

 松本の温泉旅館か。

 

 行ったことはないから、少し期待できる。

 

「それじゃ、行こう!」

 

「あ、晩御飯は駅弁でね!」

 

 特急あずさで食べる駅弁は、どこか美味しく感じた。

 

 食べているのは峠の釜めし。

 

 駅弁で食べれるのはありがたいことだった。

 

「咲希さんは<純情のRequiem>ってグループを知ってます?」

 

「あぁ、ドキドキカルチャーバトルの水彩画でセンスありと言われた子がいるグループだっけ? あの子のお陰でメンバー全員の芸術センスが高まったって話題沸騰だよ」

 

 他愛のないオタクトークを繰り広げる。

 

「でも、新曲の評判はイマイチだったと聞くけど?」

 

「あれはちょっと無理があったとしか言いようがないわね。コンセプトは冬の水着って、キワモノ過ぎたから」

 

 なんて、会話も僕にとっては貴重で楽しい時間。

 

「クールしたーずの最新作はすごく評判がいいらしいわよ?」

 

「やっぱ主演俳優のセレクトがぴったりだったでしょうね? 僕もああ言う映画は好きなんで」

 

「わかるわ。あの吉村くんが主演俳優を務めるくらいですもの!! 当然だと思うわ」

 

 咲希さんが笑顔になる。

 

 僕もそれがどこか嬉しかった。

 

 僕はノンアルコールのジントニックを飲む。

 

 心臓の病気を考慮してアルコールはなるべく控えている。

 

「クラフトジンの美味しいお店を知ってるけど?」

 

「咲希さん、僕は佐伯先生からアルコールは光るようにと言われている身体ですよ」

 

「あらら、残念」

 

 もう、咲希さんはそう行ってからかってくる。

 

 まぁ、そこが魅力なんだけど。

 

 特急あずさは松本へとひた走る。

 

「そういえば、咲希さんのご両親はどんな人?」

 

「父は私が生まれて間もない頃に病死して、母が女手一つで私を育ててくれたの」

 

 そうだったのか。

 

「そして、私が17歳の頃、母が交通事故で帰らぬ人になった」

 

「咲希さんは孤児だったんですか?」

 

「親戚のつてで孤児支援施設で暮らすことになったけど、そこからが地獄だった」

 

 咲希さんは重い口を開く。

 

 話によれば、私的財産は没収されて、子どもたちの共同生活に違和感を感じていたという。

 

 「大学進学を決めて施設をでたら、<追放者>とみなされたわ。でもお陰でせいせいしたわ」

愛する人の過去を、知る勇気はありますか?

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