第12話 衝突
クリスマスまで、あと12日
夜、僕と咲希さんはベッドで身を寄せ合った。
「悠斗くん、今夜は寝かさないわ」
咲希さんが大胆に服を脱ぎ始める。
すると、はち切れんばかりの大きな乳房が顔を覗かせる。
僕は固唾をのんだ。
大好きな人と一緒に過ごす、最初で最後の夜。
コスプレモデルだからこそのスタイルの良さだ。
「僕のことが好きなんですか?」
「うん、初めて会ったときからね。一生懸命で何よりも私に尽くしてくれている」
そう言うと、咲希さんは僕に抱きついてきた。
「だから、死なないで……。ずっと、私のそばにいて」
咲希さんは泣いている。
「でも、僕は……」
「わかってるの。それは叶わない願いだって」
その言葉を聞いて、僕は咲希さんを強く抱きしめた。
そして、唇を重ね合わせる。
そしてそのまま身体を重ね合わせる。
お互いの温もりを感じ合い、僕達はまどろみに落ちた。
夢を見る。
僕は再び死神と出会った。
「愛する人と初めてを過ごしていたね?」
「あはは。でも、これが最初で最後の夜だからね」
僕は苦笑いするしかなかった。
「やれやれ。だが言っておく。君はクリスマスイヴで安楽死となる。まぁ、君のことだから最後の撮影の後、容態が急変する。そのへんは覚悟しておくように」
死神の男はそう言うと消えていき、僕も目が覚める。
「おはよう、咲希さん」
「おはよう、悠斗くん」
咲希さん、相変わらずの可愛い笑顔を見せる。
この姿にみんなが惚れてしまうわけだ。
朝ごはんは、贅沢な朝食バイキング。
こだわりの卵で作るオムレツや、房総で捕れた魚を使った一夜干しなど、種類は様々。
「やっぱり地元で捕れたお魚は新鮮だから美味しいのよね」
地産地消にこだわる咲希さんらしい発言だ。
僕もその良さはわからないけど、他の地域からすれば美味しく感じるところがあるのか、そう感じている。
それでも、僕の命はあと2日で終わるとなると、心細かった。
死神と出会って、自分のエンディングが決まったのは良かったけど、未だに咲希さんの側にいたい気持ちは募るばかりだ。
でも、残された時間はもうなくなってきている。
一体どうすれば良いのか?
「咲希さん、病院へ戻る前に海へ行きませんか?」
僕はこんな提案をする。
「それなら良いけど。なにか?」
「どうせだったら、二人きりでいい思い出を作りませんか?」
それが僕に出来ることだった。
「それじゃぁ、葛西臨海公園へ言ってみる? 水族園で最高の思い出を作ろう!」
咲希さんの提案で、海浜幕張駅から京葉線各駅停車東京行きで葛西臨海公園駅へと向かった。
[次は幕張豊砂です]
車内アナウンスが響く。
泊りがけデートの2日めが水族館デートだなんて、少しドキドキしてくる。
でも、身体が持つか不安になる。
「ねぇ、途中下車しない?」
咲希さんが僕にこんな提案をする。
たまには寄り道も悪くはないか。
幕張豊砂駅で下車して、イオンモール幕張新都心でお弁当を調達する。
店内で立ち寄った惣菜店で、僕はマクロビ弁当、咲希さんは唐揚げチャーハン弁当を購入した。
「これで、葛西臨海公園でお弁当を食べれるね!」
咲希さんはウィンクした。
これだから咲希さんは可愛いよ。
みんな惚れ惚れするね。
僕もその一人だけど。
再び各駅停車に乗って、葛西臨海公園駅まで揺られる。
「そう言えばさぁ、私が高いお店が苦手なのを知りたい?」
「そうだね、教えて欲しいな」
咲希さんは口を開いた。
「2年前の話だけど、覚えてる? 初めての撮影会の打ち上げのこと」
「たしか、スポンサーのはからいで高級焼肉店へ行ったよね?」
僕な2年前の起業開始のときにスポンサーのはからいで高級な焼肉店で初の打ち上げを行った。
その店は神戸ビーフが30000円で食べ放題の焼肉店だったことを覚えている。
「その時の私は思ったの、30000円で食べるなら、撮影会の費用に使ったほうが良いのにって」
あぁ~、咲希さんが高級店に行かない理由は、撮影会の運営に回すお金を食費に回したくなかっんだ。
「それに、高級な料理も、私の好みじゃないから」
流石は庶民上がり。
金銭感覚はしっかりしている。
「やっぱり、すき家の牛丼が落ち着くな。高ければいいなんて、怖くて嫌よ」
よっぽど高級店が嫌いな人なんだな、と僕はそう思った。
そして列車は、舞浜に差し掛かった。
「ねぇ、私とデートしてどう?」
咲希さんがこんな質問をした。
僕にはよくわからなかったが、おそらく咲希さんが僕を心配してくれる。
「撮影もできて最高だったよ。ホテルは奮発したけど」
「どうして、私のためにそこまでするの?」
それは、意外な言葉だった。
「悠斗くんが死んじゃうから、私のために尽くしてくれるのはわかってるの!! でも、私はそんな事をしなくても勇斗くんがいればいいと思っているの!」
咲希さんが憤るように叫ぶ。
「僕だって死にたくない! でももう時間がないんだ……!」
僕も反論する。
「だからといって、私と最期までいてくれるの!?」
「僕は君を思って「もういい!」
咲希さんは吐き捨てながら別の車両へと移動した。
「ごめん」
僕はただそう呟くしかなかった。
病院へ戻り、僕は佐伯先生にこれまでの経緯を打ち明ける。
「そうだったのか」
「僕があんな感情的になるなんて思ってもなかった。咲希さんに嫌われたかも知れない」
「でも、そう時間が立たない内に和解できる。それと、君の延命に関わることだが、今の技術なら薬物療法が出来るかも知れない」
佐伯先生が言うには、2日に1回薬を投与することで症状を和らげることが出来るという。
もしかしたら、僕はまだ生きられるかも知れないと思ったが、
「でも、それだと死ぬのが少しだけ伸びるはずですよね?」
「たしかに、症状の進行度を考えれば、すでに手遅れかもしれない」
僕は治療を断る選択をした。
佐伯先生もそれをわかってくれている。
咲希さん、僕はもうこのまま死ぬかも知れないけど、そのときは看取ってほしかったなぁ……。
僕は病室に戻り、少し泣いた。
その時、
「兄さん!」
澪がお見舞いに来てくれた。
「着替えとタオル持ってきたよ」
「ありがとう」
澪は健気な妹だなぁ。
「ねぇ、ちょっとだけ喧嘩したでしょ?」
「わかるの?」
「何年兄さんと一緒にいたと思ってるの? 顔に出るのが兄さんの悪い癖だから」
ははは、お見通しというわけか。
「ちょっと、友達と喧嘩して……」
「はぁ!? ばっかじゃないの!」
僕が話した言葉に、澪は顔を真赤にした。
思うからこそぶつかってしまう。




