第八話 伊邪那岐製薬
「おや、もういいのかい?」
戻ってきた千桜に鬼瓦は声をかけられ千桜は苦笑いを浮かべた。
「はい。ありがとうございます」
「なら、ちょっと来てくれるかい?」
鬼瓦は部署の奥に案内した。そこには、鍵がかけられた部屋があった。鬼瓦は千桜が来たことを確認すると、扉の鍵を開け千桜を中に入れた。そこには、銃や槍などの武器が置いてあった。
「「異人」は人間とは違うから特殊な武器が必要なんだ。もしものために、好きな武器を持って行くといい」
銃、刀、銃、薙刀と置いてあるのを見た千桜は頭に手を当てた。
「んー。俺はどちらかと言うとこちらが得意なんですよね」
そう言うと千桜は片足を引き拳を構えて見せた。
「なるほど。ならこれを持って行くといい」
鬼瓦はそう言うと腰に下げていた入れ物をわたした。
「短刀だ。これも「異人」には効果がある。何かの役に立ててくれ」
「ありがとうございます」
千桜は頭を下げ鬼瓦から受け取ると腰につけた。
「気をつけて行くんだよ。特に⋯地下は」
「地下⋯ですか?」
不思議そうに千桜が聞き返すと鬼瓦はニコリと笑みを浮かべた。
「まぁ、気にしないでくれ」
ポンポンと千桜の背中を叩くと鬼瓦は部屋を出て行った。その背中を小首を傾げながら見た千桜も鬼瓦のあとを追い部屋を出た。 すると、ポーンポーンと音がした。千桜が見上げると時計が鳴っていた。
「では、そろそろいい時間ですので行ってきます」
「わかった。くれぐれも気をつけるように。それからこれ。」
鬼瓦は伊邪那岐製薬のカードキーを差し出した。
「申し訳ないがこれは返してきてもらえるかい?」
「わかりました。いってきます」
千桜は頷くとスタスタと四課を出ていき車を滑らせ伊邪那岐製薬にむかった。
意外なことに伊邪那岐製薬の丸いフォームの建物は街中に建っていた。まるで病院のように白を基調としたした壁には、広い窓がいくつもついていて中に陽の光が入るような設計をしていた。しかし、その窓は割られそこには、白衣を着た男性が血を流して倒れていた。
「おい!大丈夫か?!」
慌てて窓から入った千桜が駆け寄るが、すでにその体は冷たくなっていた。よく見るとその体は鋭い爪で切りつけられたような傷がついていた。千桜は立ち上がると携帯を取り出し電話をしようと耳に当てるが、何の音をせず耳からはずし見てみると、先程までは通じていた携帯が圏外になっていた。
「なんか電波に弱い機械があるからできないようにしてるのか?仕方ない」
千桜は頭を搔くとまた窓から出ようとしたが、割れていたはずの窓は綺麗に戻り穴はなくなっていた。
「?!どうなってんだ?!」
窓を触っていると、近くからガタンと音がした。見てみると、廃神社で会った泥人形がフラフラと左右に体を揺らしながら歩いていた。
(やべっ)
慌てて千桜は奥に続く道をソロソロと歩き一番手前の部屋に身を滑りこませた。その部屋の前を泥人形が通り過ぎて行った。
(⋯アイツらがいるってことはビンゴか)
そう思いながら千桜が部屋の奥に行くと、そこには、書類を守るように倒れた白衣を着た首のない死体があった。千桜は顔をしかめると、死体に近づきその腕から書類をヒョイと取りあげ目を落とした。
『【呪鬼について】
呪鬼とは特殊な「人型」カタシロを使ってなった鬼のことであり、呪いの進行が進んで行き、やがては完全な鬼になり人を襲うようになる。
【実験記録】
5月12日
31歳の男性に治験と称してカタシロを使用するも数時間後に、体内から爆発し死亡する。どうやら、呪いに耐えらなかったようだ。
5月22日
21歳 男性に使用するが、こちらははじめに頭痛や吐き気と共に視界に異常を訴えるもすぐに回復し以後は異常なし。
5月23日
味覚に異常を訴え食欲が減少する。検査をするが異常は見られないため、呪いの進行によるものと判断する。
5月24日
人の声がうるさいと騒ぎはじめる。どうやら幻聴の症状も出ているようだ。これもの呪いの進行によるものだろうか。
5月25日
「人が食べたい」と暴れ出したため、鎮静剤を打つ。呪いの進行によるものの可能性がある。
5月26日
完全な「呪鬼」が完成する。しばらくは暴れていたが、所長には従順らしく所長の言うことは大人しく聞く。
5月27日
人を中に入れ喰わせて味を覚えさせる。なぜか内蔵だけしか食べない。
6月5日
試しに九泉ではなく人間界で人を喰わせる。しかし、刑事に見つかりやむを得ず襲わせ逃げる。
6月11日
今度は人間界の住宅を襲われ2人を喰わせるが、また邪魔が入り襲われ逃げる』
そこで記録は止まっていた。
「なるほどな。胡散臭い薬品の正体は薬でなくこれか。これは、他のとこも見た方がいいな」
ニヤリと千桜は笑みを浮かべた。入口に行くとすでに泥人形の姿はなかった。キョロキョロと当たりをみわたすと、千桜は隣の扉を開けた。すると、「くわぁ」と声をあげ泥人形が口をあけ鋭い歯を見せながらこちらに歩いてきた。慌てて千桜は扉を閉め更に奥にある部屋に身を潜めた。
「さて、ここは何があるんだ?」
小声で言うと千桜は部屋の奥に歩いて行った。そこはダンボールがのせられた棚が並んでいた。
ダンボールを覗き込むと、そこには桐の箱と1冊の書類が乱雑に入れられていた。
千桜が桐の箱を開けるとそこには綿に包まれた勾玉が1つ入っていた。書類を見るとそれは実験の記録のようだった。
『###月18###
呪鬼から人に戻す実験をする。まずは呪鬼の正気を取り戻す必要がある。そのためには勾玉を呪鬼に当てるなければならない。暴れる被験者を拘束し勾玉で体を触ると正気に戻り人間に戻す事ができた。しかし完全に戻ったわけではなく鬼に戻れるらしい。
##月##
新たな被験者で今度は前被験者の先の実験をする。勾玉で正気に戻すまでは同じ工程だが、その後に天十握剣で被験者のカタシロを刺すと、苦しみはじめやがて人間の姿に戻る』
(相変わらず胸糞悪いな)
千桜はあからさまに顔を顰めた。
(でも、もし百月が⋯)
千桜の頭に廃神社で会った光輝の姿が浮かび、それを打ち消すように頭を振ると千桜は胸元に入れていたお守りに勾玉を入れ再び胸ポケットにしまった。他に何かないかと探してみるが、他には使われていない注射器やシャーレなどが入ったダンボールが積まれているだけだった。
(ここはこんなもんか⋯)
ポンポンと手の埃を落とすと千桜は次の部屋に行くために部屋を出た。廊下には見覚えのある小柄なシルエットがあった。
「百月!よかった、無事⋯」
言い終わる前に百月は鋭い爪がある自分の腕を千桜振りかぶった。
「っ!」
千桜は咄嗟に体を捻りかわそうしたが、鋭い爪は肩をかすめ、敗れた服が赤く染まった。




