第七話 百月の部屋
「すみません、俺がついていながら」
その足で四課に戻った千桜は鬼瓦に百月のことを報告すると頭を下げた。
「いや、望月くんは悪くないさ。彼女が行きそうな場所に検討はつかないかい?」
千桜は力無く首を横に振った。
その時。
「鬼瓦さんはいるかね」
入口からの声に千桜と鬼瓦はスッと視線を向けた。見るとそこには、1匹の猫が入ってくる。よく見るとその猫の尾っぽが二股に分かれていた。
入り口にちょこんと座った春さんと呼ばれた猫又に鬼瓦はトコトコと歩み寄った。
「おや、春さん。どうしたんです?こんな時間にこんなとこで」
春さんにニコニコと笑みを浮かべながら鬼瓦は目線を合わせた。
「いやねぇ。これを拾ったから届けに来たんだよ」
そう言うと春さんは地面に置いておいた1枚のカードをくわえ鬼瓦にわたした。鬼瓦が受け取ると、表を見たり裏返したりするとニヤリと笑った。
「ほお、これまたタイムリーな。ほら」
そう言い鬼瓦は千桜にカードをわたした。それはカードリーダーに通すタイプのカードキーだった。千桜がおもむろにカードを裏返すとそこには、「伊邪那岐製薬研究所」と書かれていた。
「なるほど。たしかに」
千桜は顔を顰めそう言うと、鬼瓦にカードを返した。
「いやぁ、春さんありがとう。これはこちらで預かるね」
「そうかい?ならよろしくたのむよ」
そう言うと春は、トコトコと入口から出ていった。⋯気のせいだろうか外からは「可愛いー!!」という黄色い悲鳴が聞こえてくる。
「さて、君はどうする?」
鬼瓦は千桜を見た。
「もしかしたら、彼女の部屋に何かあるかもしれないので、確認してきます」
「わかった。何か分かったら連絡してくれ」
「わかりました」
千桜は頷くとすぐにまた百月の部屋があるビルに戻った。
探偵事務所がある同じビルの3階に百月の住居はあった。
千桜がドアノブを回すが鍵がかかっているのか開かない。
(参ったなぁ)
頭に手をあて、ふとドアポストに目を落とすとそこに一枚の紙切れを見つけた。
(何だこれ?)
ポストからメモを引き抜き開いてみて千桜は目を見開いた。
『千桜さんへ
6(3) 9(2) 0(3) 4(1)』
(なんだ?…暗号か?)
じーっとメモを見ているとブルルと携帯が振動した。画面を見ると迷惑メールが着た通知が出ていた。
「っんだよこんな時に。ん?メール?」
千桜はもう一度メモを見たあとに自分の携帯でメール画面にしポチポチと文字をクリック入力で入力していった。
「やっぱり…。なになに、ふらんた?ふらんた。ふらんた?!なんだふらんたって」
千桜が辺りを見渡すと玄関前に立っているプランターが目に入った。
「ふらんた…プランターか」
千桜はパチンと指を鳴らしプランターを持ち上げると、そこには鍵が置かれていた。
千桜は鍵を拾うと、ドアノブに鍵を差し込む。確かな手ごたえがあり、ガチャリという開錠の音がした。
「不用心ではあるが…今回は感謝だな」
千桜は苦笑いを浮かべると中に入った。
百月の部屋は、綺麗に整頓され奥のワンルームは、ピンクを貴重とした部屋たった。
(なんだかあいつらしいな)
そんな印象を受けた千春が部屋を見渡すと、床に置いてある低い丸いテーブルに1冊のノートとメモが乗っていた。メモには『千桜さんへ』と書かれていた。読んだ瞬間、何か不安になるような胸騒ぎのようなもので千桜の心臓が早くなった。千桜は恐る恐るノートを開いた。
『 望月さんへ
おそらくこの日記を読んでいるということは私に何かあったということ。私は捜査に参加でないと思いますので、私に起こっていることと、私の推察を書いておきます』
はじめのページは綺麗な字でそうはじめられていた。千桜がページをめくると、日付は3日前から書かれていた。
『今日、食事を食べたらまったく味がしませんでした。飲み物も同じでした。病気の可能性があるので、知り合いの病院に診てもらいます。』
また千桜はページをめくった。
『今日、病院に行き診てもらいましたが異常はないとのことでしたので、ご飯を食べてみましたが、やはり味はしませんでした。
今は夜中の3時46分です。先程からずっと男の人の低い声のような⋯女性の高い声のような、老人の声のような子供のような声かずっとします。部屋中、探してみましたが、誰もいませんし鍵もかかっていました。私の記憶違いだったら申し訳ないのですが、光輝さんの日記にも同じことが書いてあったと思います。だとしたら、なぜそうなったのかと思い返してみましたら、光輝さんの部屋にあったあの和紙の人形を触ってから体調に異常が出ているので、おそらくはあの人形または和紙自体になんらかの毒あるいは呪いがかかっている可能性があります。その筋から調べてもみてください』
千桜はまたページをめくった。
『今日は望月さんを殺して食べたいと思ってしまいました。今まででそんなこと思ったこともないのに。
これも呪いか何らかの毒のせいなのでしょうか。だとしたら解くまたは治す方法はあるのでしょうか。ないとしたら私はどうなるのでしょうか。
もし、千桜さんに何かあったら嫌なので、お守りを挟んでおきます』
そう締めくくられたそのページの文字はどこか震えていて所々に、涙で濡れたあとがあった。そして一緒に、白に金色の糸で神社の名前が刺繍されたお守りが挟まれていた。
(クソっ!俺がもっと早く気づいてたら…)
ドンと千桜は机を叩いた。
「いや、起こったことは変えられない。さぁどうする?」
グシャッと千桜は前髪を掴むと自分にい言い聞かせるように呟いた。千桜は、携帯を取り出すと登録された四課の番号を出し通話ボタンを押した。
「お疲れ様です。望月です」
「お疲れ様。何かあったかい?」
鬼瓦の声を聞くと千桜は後悔と自分への腹ただしさを抑えながら口を開いた。
「はい。百月が日記を残してくれてましたので、今からそれを持ってそちらに戻ります」
「わかった。気をつけて」
「はい。失礼します」
そう短く会話をすると、千桜は電話を切った。
「必ず助けるからな」
ぎゅっとお守りを握りしめ呟くと千桜は、そっと胸ポケットに入れ、日記を手に足早にその場をあとにした。
千桜は四課の着くと壁の前にイライラした気持ちを抑え込むために「ふぅ」と息をついた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
壁を抜け挨拶をした千春に鬼瓦が片手を上げ迎えた。千桜は鬼瓦の側に行くと早速、百月の日記を見せながら見つけた状況などを説明した。
「そうか。それで?君はどうする?」
ジッと鬼瓦は千桜を見た。
(俺は⋯何ができるんだ?)
千桜は俯き考え込んだ。
「戻りました」
と、入口から聞き覚えのある声がし顔をあげると、スタスタと早歩きで鴉飛と甘美瑛がこちらに歩いてきた。
「お疲れ様。どうだった?」
「伊邪那岐製薬ですが」
そう言うと鴉飛は警察手帳を取り出した。
「表向きは心臓病や糖尿病の薬をつくっている会社ですが、最近では異臭騒ぎが起こっているみたいです」
「他にもきな臭い噂もあるみたいで、裏では良からぬ薬をつくっているっという噂もあるよ」
甘美瑛も自分の警察手帳を見ながら鴉飛に続けた。
「こちらも情報があった」
そう言い鬼瓦は千桜をチラリと見ると説明をした。
「そうですか⋯。百月さんはどこに行ったんでしょうか」
「⋯あの日記いいですか?」
「もちろん」
鬼瓦から百月の日記を受け取ると、千桜はパラパラと再び目を通しはじめあるページで手を止めた。
「ここ。百月が人形で紙自体に毒のような物という推察があります。伊邪那岐製薬に大量に和紙が仕入れられていたことと、良からぬ薬の噂⋯きな臭くないですか?」
「たしかに」
鬼瓦は頷いた。鬼瓦から壁にかかる時計に目を移した。
「さすがにまだ誰もいないと思いますので、いい時間になったら伊邪那岐製薬に行ってきます」
「それがいいね。ならみんな仮眠室で休んでくるといい」
「でも⋯」
「休むことも立派な勤務だよ」
鬼瓦はそう言いポンポンと千桜の
背中を優しく叩いた。
「すみません。そうしたらお言葉に甘えさせていただきます」
そう言い千桜は仮眠室に向かった。布団をひき潜り込むと疲れが瞼を重くし、すぐに千桜はストンと穴に落ちるように眠りに落ちた。
千桜が気がつくと、そこはピッピッと機械音がする見知らぬ部屋だった。
(ここは⋯病院⋯か?)
当たりをみわたすと個室の窓は開けられカーテンが風で揺れ、その隙間から曇った空が見えていた。
「起きてよ⋯お兄ちゃん」
泣きそうな女性の声がして振り向いた千桜は息を飲んだ。
そこにはたくさんの機械につながれベッドに横たわる⋯自分の姿があった。
ガバッと千桜は飛び起きた。
「⋯なんで俺が⋯。それにあの泣いてた人は⋯誰⋯だっけか?」
肩で息をしながら夢の中で泣いていた女性のことを思い出そうとした。しかし、頭に靄がかかったようになり思い出すことができない。
時計を確認すると、あれから数時間しか経っていなかった。
再び寝る気になれなかった千桜は起き上がり、四課に戻った。




