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第五話 早瀬警察署


次の日、千桜は探偵事務所前で車を止めていた。

しばらくすると百月がいつものように探偵事務所から出てきた。


「おはよう」


声をかけ扉を開けると、どこか浮かない表情をした百月が乗り込んできた。


「どうした?なんかあったか?」


百月は口を開き何か言いたげに千桜を見つめるが、また口をつぐみ俯いた。


「どうした?」

「いえ…なんでもないですわ」


百月は俯いたまま蚊が鳴くような細い声で言った。


「そうか。なんかあったら絶対言えよ?」


百月はチラッと千桜を見ると再び口を開くがまたすぐに下を向いてしまった。


(なんだ?⋯でもここて無理矢理聞くのは違うよな)


俯いたままの百月をチラリと千桜は見るが、そのまま何も言わず車を走らせた。


警察署に到着し、受付を済ませロビーで待っていると、建物の奥から鴉飛が慌てた様子で二人に向かってキビキビとした足取りでこちらに向かってきた。


「すみません。お待たせしました。こちらです」


鴉飛は二人をエレベーターに案内すると、二階のボタンを押した。

沈黙がおりたエレベーターが二階に着くと、鴉飛は二人と共におり廊下を進んだ。

いくつもの部屋を通り過ぎ、ついにはその階の一番端まで来た。


「あの、鴉飛さんここって行き止まりですわよ?」

「あ、大丈夫ですよ」


そう言うと鴉飛はそのまま歩き、壁をスッと通り抜けて行った。


「えっ?!」

「はっ?!」



非現実的なできごとに百月も千桜も思わず驚き、目を白黒させていると、不意に鴉飛が壁から顔だけ出した。


「大丈夫です。そのまま通って来てください」


そう告げ、またひょこっと壁の向こうに鴉飛は消えていった。

2人は顔を見合わせると、ゆっくりと壁に向かって歩いて行った。すると、2人の体は壁を⋯すり抜けた。


壁の向こうにはいくつも机か並んだオフィスが広がっていた。


「すごい⋯」

「どうなってんだ?」


唖然と立ち尽くす2人の前をやけにガタイの良い男たちが、邪魔そうに2人に視線を向けながら忙しそうに通り過ぎていく。


「あ、いらっしゃったんですね。ようこそ四課へ」


戸惑う2人の背後から聞き覚えのある声がした。振り返るとそこには昨日と変わらない笑みを浮かべた甘美瑛が立っていた。


「さっ、いきましょう」


甘美瑛に背中を押されて部屋の奥に行くとそこには、20代後半ぐらいに見える青年が鴉飛と話をしていた。


「班長、お客さまです」


甘美瑛が声をかけると、青年は振り返りニコニコと甘美瑛に笑みを浮かべた。


「甘美瑛、お疲れ様。」


青年は千桜と百月に向き直った。


「やぁやぁ。わざわざ来てもらって悪いね」


そう言いニカッと笑い、話を続けた。


「はじめまして。俺の名前は鬼瓦元治おにがわらげんじ。この班の班長をさせてもらっている」


千桜は胸元から警察手帳を取り出し開いて見せた。


「俺は警察庁捜査一課の望月です」

「ほぉ。君も警察官だったのか。で?そこのべっぴんさんは?」


そういうと鬼瓦は視線を百月に向け、ニコリと笑みを浮かべた。


「えっ⋯と⋯百月探偵事務所の所長をしています、百月百華ですわ」

「ほぉ。その若さで探偵とはすごいね」

「いえ⋯それほどでも」


百月は恥ずかしそうに俯いた。


「いやいや。すごいと思うよ。さて、そんなおふたりに今日来てもらったのは話とお願いがあってね。まず、君たちは、「異人」って知ってるかい?」

「異人…ですか?」


顎に手を当て少し考えたあとに百月は続けた。


「昔は自分がいた村に来た「宗教者」や「行商人」を『異人』って呼んでいたというのは聞いた事がありますわ」

「他にも他の国から来た人を『異人』と呼んでいた時期もありましたね」


そう千桜は付け加えた。


「ほぉ。二人ともよく知ってるね」

「えぇ、まぁ。で、それが⋯どうされたのです?」


百月が首を傾げ尋ねた。


「たしかに君たちの言うのは『異人』だが、今回の場合の『異人』は「もののけ」とか「鬼」のことをさすんだ。⋯まぁ、これは見てもらった方が早いかな」


頭をかきかき鬼瓦は言うと、細かった鬼瓦の体はみるみる屈強な物になり、頭からはメキメキと角が生えてきた。

その異様な様に2人は驚き、思わず一歩下がる。


「班長。2人がびっくりしてますよ」

「いやぁ、驚かせてごめんよ。見た方が早いと思ってね」


2人を見た鬼瓦は苦笑いすると、メキメキっと元の青年の姿に戻った。


「こんな感じで人間に化けて生きているのが『異人』なんだ」

「もしかして鴉飛さんと甘美瑛さんも」


そう言い百月は鴉飛と甘美瑛を見た。


「はい。私は鴉天狗です」


鴉飛は微笑みを浮かべた。


「僕はアマビエだよ」

「アマビエというのは病気や豊作を予知する?たしか心を癒すとか」

「すごいね。よく知ってるね」


予想外の答えだったのか甘美瑛は目を丸くし嬉しそうに微笑んだ。


「妖など好きなんです」

「へぇー、嬉しいな。ただ僕の力は予知ではなく治療⋯だよ」


ニコニコと甘美瑛は笑みを浮かべ答えると、「でだ」と鬼瓦が話を続けた。


「そんな『異人』がやらかした犯罪を取り締まるのが我々、四課の仕事だ。で、最近、妙な報告があってね」

「妙というのは?」


千桜が尋ねると鬼瓦は顔を顰めた。


「君たち、これに見覚えはないかい?」


鬼瓦の手のひらには白い紙から切り抜かれた、見覚えのある人形がのせられていた。

千桜は目を見張る百月に視線を向けると、百月も目を見開きながら紙人形を見ると、スっと千桜に視線を向けた。


「吾妻光輝という少年の部屋に同じ物がありました」

「そして、彼の学校で話を聞いたら「カタシロサマの使い」という人からある廃神社で配られているという話を聞けましたわ」


千桜と百月が代わる代わる話すと鬼瓦は「なるほど」と短く答えるとしばらく考え込み、2人を見た。


「ならば君たちにお願いがある。君たちもこの事件の捜査を手伝ってほしいんだ」

「⋯それはどんな事件ですの?」


百月の言葉に鬼瓦はチラリと鴉飛を見た。


「今年の7月26日に女性が路地裏で臓器を喰われた状態で発見されたのがはじまりです。その2日後の7月28日に男性会社員が殺され、そこからなぜか8月、9月と鳴りを潜め10月1日に1件、11月6、13、20と立て続けに起き、今月に入ってからも3日と11日と2件同様の手口の事件が起きています」

「⋯それは同じ曜日とか、それこそ満月だったとかありますの?」


百月は首を傾げながら尋ねると、鴉飛は首を振った。


「曜日はバラバラでした」

「月の満ち欠けも違う⋯みたいだな」


そう言うと千桜は携帯から顔を上げた。


「そうですか。こうゆう連続殺人は、同じ曜日だったり儀式というていでやるなど犯人なりのこだわりがあったりするんですが⋯」


そう言うと百月は首をかしげ再び考え込んだ。


「それがなく日付も襲われた場所も年齢もバラバラですし、被害者に接点もありませんでした」


(このバラバラ具合⋯なんか似てるな)

「あの」


考え込んでいた千桜は手を挙げると、全員が千桜に視線を向けた。


「ん?どうしたんだい?」

「皆さんが追っている事件やまが一課が追っている事件に似ている気がして」

「詳しく話していただけませんか?」


百月の言葉に千桜は困ったように頭を搔いた。


「んー。守秘義務ってのがあるんだよなぁ」

「ならば、彼女も僕たちに協力して「警察」に一時的になればいいのではないかい?」


ニコニコしながら鬼瓦は百月に視線を向けると、百月は少し困惑した表情を浮かべた。


「そうですわね。凛さんに説明するためにも色々と知らないといけませんし。協力させていただきますわ」

「そうかそうか。そうしたらこれを」


そう言うと鬼瓦は百月に警察手帳をわたした。


「さて、彼女も警察になったからこれで守秘義務はなくなったね」


ニコッと笑う鬼瓦に千桜は苦笑いを浮かべ話しはじめた。


「7月12日に1人の大学生が行方不明になったのがはじまりです。その大学生が8月21日に腹を爆破され遺体で発見されます。その後、9月3日と21日に同様の手口の死体がそれぞれ別々のところで上がり、30日にまた大学生が行方不明になります。そして、10月になり立て続けに18日、21日と死体があがり、11月1日に大学生が行方不明になるが23日に死体で見つかりました。そして今月になり吾妻光輝と吾妻夫妻が行方不明になっています」

「なるほど⋯なんだか事件の雰囲気は似てますわね」

「雰囲気ね⋯たしかに似てるよな。起こっている時期も同じだし⋯何か繋がりがあるのか?」

「⋯四課としはどうお考えですの?」


百月は鬼瓦を見た。


「我々は新たな種類の鬼が現れ、そいつが暴れていると考えている。臓器を食べるのは鬼の補食の特徴だからな」

「⋯鬼瓦さんは⋯その…人を食べたりは」


怯える百月に一瞬、目を丸くした鬼瓦は豪快に笑いだした。


「いやいや、昔はそんな話もあったが、俺は人間なんかより日本酒と⋯そうだなぁ、タレの焼き鳥なんかが好きだ」

「昔?」


千桜が問い返すと、甘美瑛がニコリと笑った。


「部長は人間そちらでは酒呑童子と呼ばれていた鬼ですよ」


ギョッとした表情を浮かべ千桜と百月は鬼瓦を見た。


「しかし、酒呑童子は源頼光に首を落とされたと⋯」


百月が言うと鬼瓦は「あぁ」と言いながらポンと手を打つと百月を見て続けた。


「懐かしいなぁ。たしかにあいつは俺を倒しに来たが、俺は別に村も人も襲ってないことを淡々と話たら、理解してくれたのさ。ただ手ぶらで帰して他のやつらに何か言われたら可愛そうだから、その時期に村を襲っていた鬼の首をむしとってきたから、それをわたしておいた。いやぁ、あの宴は楽しかったが、やつが酒が弱くてなぁ」

「いや、恐らく部長がとんでもなくお酒に強いだけだと思いますよ」


まるでコントのような鬼瓦と鴉飛の会話に千桜と百月は苦笑いを浮かべた。


「さて、そろそろ俺もお暇しようかな。君たちもそろそろ帰りなさい」


そう言い「さぁて今日はどこで飲もうかなぁ」と呟きながはルンルンで壁を鬼瓦は抜けていった。


「ということなので、今日はこれで」


鴉飛は少し苦笑い気味に笑みを浮かべながら言った。


「お疲れ様です」と口々に言うと千桜と百月は四課をあとにし、寒空の中を車を走らせた。


「なぁ」


探偵事務所前についた千桜は車をおりた百月を呼び止めた。


「⋯なんかあったら本当に連絡しろよ。分かったか?」


百月は少し切ない表情を笑みと共に浮かべ扉を閉めると、探偵事務所に向かって歩いていった。その背中が探偵事務所に入るのを見送ると千桜は車を発進させた。

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