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第四話 廃神社

「⋯また来てしまった」


千桜は車内でガクりと頭を下げる。


 (別にやましい)気持ちはないけど⋯でもなんでか気になるんだよなぁ。…吾妻宅でのこともあるし)


はぁと盛大なため息をついた時、コンコンと窓が叩かれた。

顔を上げると、そこにはどこか不振そうな表情をした百月が立っていた。


「おはようございます。今日はなぜこちらに?」

「一応、捜査協力してもらってるんで」


そう言い訳地味たことを千桜は頭に手を当てながら言うと、車の扉を開けた。


「で?今日はどうする?」

「警察の方が聞きますの?」


呆れたような顔をする百月に千桜はまた頭に手を置いた。


「いやぁ、捜査協力相手として意見を聞きたくて」


百月はジッと千桜を見ると仕方ないと言わんばかりにため息をついた。


「私は話に出た廃神社が気にはなりますわ」

「よし、なら今日は廃神社に行くか。シートベルトしろよ」


千桜はそう言うと車を滑らせた。


2人が廃神社の下につくと、そこには見上げるほどの階段が上に永遠とのびていた。


「わぁお」


空までのびてそうな階段を見上げる千桜の横を通り、百月は涼しい顔して階段をのぼりはじめた。


(マジかよ…)


その背中を見て千桜もため息をつくと重い足どりでのぼりはじめた。


ぜーはぁ、ひーぜぇ言いながら階段をのぼりきった先には、鳥居には苔が生え、雑草は2人の腰あたりまでのびている、酷く荒れ果てた神社が現れた。


「ひでぇな」


顔を顰めながら千桜はガサガサと草をかき分け奥へと歩いていく。


「こちらにも道がありますわ」


ふと足を止めた百月は本堂の脇にある道を指さし、躊躇なく歩きはじめた。


「あ、おい!待て」


静止を無視し歩いていく百月の背中に千桜もついて歩いて行く。


細い道に生い茂る草をかき分けるようにして歩いて行くと、少し開けた場所に出た。そこには大きなしめ縄が巻かれた、何百年も神社を見守っていたであろうかというほどの立派な樹が紙垂しでを風に揺らしながら立っていた。

その樹の下に高校生ぐらいの青年が身をかがめ、何かを一心不乱に貪り食っていた。


「下がれ百月」


そう言い千桜は一歩前に出た。


「よぉ、警察だ。そこでなぁにしてんだ?」


千桜が声をかけるとロープの男はゆっくりと振り返り、にんまりと二人に笑みを浮かべた。


「なんだぁ?そんな面白いこと言ったか?」


片頬を上げた千桜を数秒見つめるとローブの男は、青年の耳に何かを囁いた。

すると、今まではこちらに見向きもしていなかった青年が、ゆっくりと体をこちらに向けた。…その口からは牙が覗き、黒い髪の間からは角が見えていた。

変わり果てたその姿に千桜は覚えがあった。


「お前…吾妻光輝くんか!」

「えっ?」


目を見開く千桜の横で百月は驚き混じりの声をあげた。

そう、目の前で低く唸り声をあげているのは、捜査資料で見た吾妻光輝の姿だった。


(どう…なってるんだ?!)


理解が追いつかず千桜が呆然としていると、吾妻光輝はまるで獣のような咆哮をあげ、一気に距離を詰めると、長い爪を振り上げた。

咄嗟に千桜は百月を突き飛ばし、襲いかかった光輝をヒラリとかわすと、その腕を掴み背負いあげるとそのまま地面に叩きつけ馬乗りになり、光輝の両腕を掴んだ。


「逃げろ、百月!」


千桜が叫ぶと百月は困ったような表情を浮かべながら千桜を見ていた。


「行け!」


暴れる光輝を取り押さえながら千桜は刺すような声で言うと、百月は身を翻し来た道を走って行った。

その背中を見送り、御神木に目を向けると、2体の亡骸はそのままだが、フードの男は消えていた。


「逃したか。まぁーいい。一対一だぜぇ。仲良くやろーや」


千桜は光輝にニヤリと笑う。


「んな暴れなさんな。仲良くやろーや」


ニヤリと笑う千桜の腕から逃れようと吾妻光輝は左右に体を捻り暴れた。


「すげー力だな。だ!落ち着け!」


宥める千桜の顔に影がかかった。

ハッとし横を見ると、泥人形のような物がクワァと口を開け、その鋭い牙が千桜に迫っていた。

襲いかかる寸前で千桜は泥人形の腹に蹴りをいれた。「クワァ」と声をあげると泥人形はサラサラと砂に変わっていった。


「何なんだ…こいつ」


目を見開き砂の山を見つめていた時、耳そばでカチカチと音がした。視線を向けるとそこには泥人形が歯をカチカチ鳴らしながら立っていた。


(やばい!)


そう思っていても思考が止まり、千桜は動けずただ迫りくる泥人形の口を凝視していた。

しかし、その牙が届く前に泥人形の体が真っ二つに割れた。

ハッと視線をむけると、そこには袖をたすき掛けし、薙刀を手にした百月が立っていた。

砂の山と化した仲間を見たからか、もう2体いた泥人形は「くわぁぁぁ」と叫び声をあげ、百月に襲いかかるが、百月はまるで舞を舞うかのように華麗に避けそして、その体に薙刀を突き刺し風た。


「おー。お見事!」


千桜が感嘆の声をあげた時、千桜の下でゴキゴキと音がした。

視線を落とすと光輝がわざと両腕を脱臼し、スルリと千桜から逃げ出した。


(しまった!)


無防備になった腹を吾妻光輝に蹴り飛ばされた千桜は、まるで鞠のようにゴロゴロと地面を転がった。


「千桜さん!」


泣きそうな百月に光輝は鋭い爪を振り上げた。


「逃げ⋯ろ⋯百⋯月」


体中の痛みで息も絶え絶えに言う千桜の声は届かないのか、百月は恐怖に表情を引き攣らせたままその場に立ち尽くしていた。


(気をひけ。なんでもいい。気をひけ)


地面を探ると、千桜の手に収まるほどの石に触れた。


(当たれ!)


千桜は石を握ると、光輝目がけて投げた。

コツリと石が頭に当った光輝は、「グルル」と唸るとゆっくりと

、まるで獣のように、両手をぶら下げたまま千桜に迫り、牙を千桜の首元に突き立てた。


「千桜さん!」


叫ぶ百月にギロリと吾妻光輝は視線を向けた。


(あのバカ!)


千桜はターゲットを変えた吾妻光輝の胸ぐらを掴んだ。しかし、うまく力が入らない。


(くそっ!)


手から吾妻光輝の服が滑り抜けそうになった時、目の前にいた光輝の首がゴロリと体から外れ、そのまま落下して行った。

驚愕に声すら出ないでいる千桜の前で光輝の体は灰色の砂に変わり、やがて原型を失った砂はその場に崩れ小さな砂の山を作った。



「千桜さん!」


走りよった百月の目には大粒の涙がたまっていた。


(ヤバイ…泣かし…ちった)


涙を拭おうとあげた千桜の手を百月は握った。


「大丈夫ですか?!」


百月の背後から声がし、現れたのは背中から漆黒の翼を生やした青年と、小柄な青年だった。


「あまびえさん、瓶を!」


小柄な青年からわたされた小瓶の蓋をあけ、翼の青年は千桜の上半身を支え起こした。


「これを飲んでください。⋯大丈夫です、おかしな物ではありません。飲んだら痛みが引きますし傷も治りますから」


意識が朦朧としてきていた千桜は瓶に入っていた液体を飲んだ。すると、先ほどまであった体中の激痛が嘘のようになくなり、呼吸も楽になってきた。その安堵感で千桜の気が遠くなっていった。

 

「……て…ぉ。…じゃ……よ。…い…ちゃ…」


途切れ途切れに声がする。

その誰かわからない女性の声は、泣くのを我慢しているかのように震えていた。


(なんか今日はよく泣かせるなぁ)


そう思いながら伸ばした千桜の手を誰かが握った。


ハッと目を開けると、瞳からポロポロと涙を流しながら千桜が伸ばした手を握っていた。


「よかったぁ⋯よかったぁ」


その言葉をひたすら繰り返す百月に千桜は苦笑いをすると、体を起こし百月の頭をポンポンと撫でた。


「ったく。逃げろって言っただろ」

「逃げましたわ。でも、階段をおりたはずなのにまたこの神社に戻ってきてしまうんです」

「迷子になってとかじゃないよな?」


すると、ぶぅと百月は頬をふくらませた。


「ただ階段をおりるだけなのに、どうやって迷子になるんですの?」

「あーそりゃたしかに」


そう言い頭に手を当てる千桜を百月は涙目でジトリと見た。


「それは、この神社に結界が張られてたからだね」


クスクスと笑いながら二人の会話を聞いていた小柄な青年が言った。


「それはどうゆうことですの?」

「ん?ここには結界といって見えない壁が作られていたんだ。だから、君は同じところをグルグルさせられていたんだ」

「そうでしたの」


腑に落ちたように呟く百月に千桜は苦笑いをした。


「なんか納得したみたいだな。⋯で、それどうしたんだ?」


千桜は百月が手にしていた薙刀を指さした。


「蔵みたいなところにありましたわ。⋯まぁ、有名な弁慶が奉納した薙刀が所蔵されている神社もありますから、同じようにこの廃神社に奉納された薙刀がそのまま残されてたとしてもおかしくはありませんわ」

「⋯よくわからないけど⋯まぁ無事でよかったわ」


千桜が言い頭を搔いた。


「それはこちらのセリフですわ。こちらの方が治してくださらなければ⋯」

「あー!悪かった悪かったから泣くなって!」


またクシャリと顔を歪める百月に千桜は慌てて言った。


「よかった。気がついたんですね」


その声で二人が顔を上げると、先程の黒い翼があった青年がこちらに歩いてきていた。


「あれ…翼…」

「あぁ。もうしまってるよ」


不思議そうに呟く千桜にニコニコしながら甘美瑛は答えた。


「えっと改めて自己紹介します。私は早瀬はやせ警察署 第四課の鴉飛うひとです。」


黒髪な青年はそう言うと微笑んだ。


「で、こちらは、同じく第四課の⋯」

甘美瑛あまびえだよ。よろしく」


そう言い小柄な青年は屈託のない笑みを浮かべた。


「俺は警視庁捜査一課の望月です。こっちは」


そう言うと千桜は百月に視線を向けた。


「百月探偵事務所、所長、百月百華です」

「探偵!すごいね!」


目を輝かせ甘美瑛は百月に近づいてきた。


「今までに殺人事件とか解決したり?」

「ち…近いですわ」

「まぁまぁ」


戸惑う百月とグイグイと迫る甘美瑛の間に千桜は苦笑いを浮かべながら入った。


「甘美瑛さん」


嗜めるように鴉飛は名前を呼んだ。


「実は私たちの班長が早瀬警警察署でお二人と話をしたと仰っていますので、お手数ですが来ていただけないでしょうか。もちろん、今からとは言いませんので」


困ったような顔でそう言うと鴉飛は千桜と百月を見た。


「まぁ俺は構いません」

「私もですわ」


そう話すと2人は鴉飛に頷いて見せた。


「ありがとうございます。では明日

こちらにお願いします」


頭を下げた鴉飛は警察手帳にスラスラと何かを書くと紙を破り2人にわたした。そこには、早瀬警察署の住所と電話番号が書かれていた。


「それでは明日。お待ちしています」


頭を下げると鴉飛は御神木の前まで歩いて行った。

ぺこりと頭を下げ甘美瑛は足早に鴉飛の元へ向かった。


「さて、俺たちも帰りますか。さっすがに疲れたわ」


首をコキコキ鳴らしながら千桜が言った。


二人は元きた一本道を辿り再び長い階段をおり始めた。

その途中、「あっ」と声を上げ百月は足を止めた。


「光輝さんのこと⋯なんて凛さんに説明したらいいのかしら」


千桜は苦笑いをすると階段をのぼり百月の隣に行くと、ポンと彼女の背中を軽く叩いた。


「とりあえず、車の中で考えようぜ。さっすがに日が暮れてきて冷えてきた。なんなら俺がうまいこと説明してもいいさ。ほら、行くぞ」


階段をおり車内であーでもないこーでもないと話しながら、紺色のグラデーションが広がる師走の空の下を百月探偵事務所に車を走らせた。

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