第三話 緑葉高等学校
「お疲れ様です望月さん」
捜査一課にある机で作業していた千桜は佐倉に声をかけられ顔を上げた。
「おーお疲れ。どうだった?何かわかったか?」
しかし佐倉は首を横に振り、申し訳なさそうに千桜を見た。
「いえ、こっちは何も。望月さんはどうでした?」
「それが、まぁ色々あってな。まずちょっと変わった探偵にあってな」
千桜はそう話を切り出すと、佐倉に吾妻宅で起きたこと一部始終を話した。
「なるほど」
佐倉は顎に手を当て少し考えた。
「僕も被害者に何か共通点がないか調べているんですが、いかにせん膨大でなかなか…」
「そうなんだよなぁ」
千桜は頭に手を当てた。
「とりあえず、僕はこのまま人間関係をあらってみます」
「あぁ。頼んだ」
千桜はポンと佐倉の背中を叩いた。
「はい。望月さんはどうしますか?」
「そうだなぁ……」
千桜は腕を組み考え込んだ。
「ちょっと光輝の身辺あらうために緑葉高等学校へ行ってくるわ」
「わかりました。気をつけて」
「おぅ。お前もな」
千桜は佐倉にヒラヒラと手を振ると一課を後にする。
「⋯とは言ったが来ちまった。絶対ストーカーとか言われるよなぁ」
百月探偵事務所の前に止めた車の中でどうするかと千桜が思案していると、百月が階段下から出てきた。
とりあえず、倒れていないことにホッとすると千桜は車の窓を下ろした。
「おはよう。これからお出かけかい?」
百月は一瞬びっくりしたように目を丸くするが、すぐにスンとした表情になり車に近づいた。
「これから光輝さんの学校に行こうと思ってますの」
「学校に許可は?」
「それは⋯」
しりつぼみになった言葉を聞いた千桜は苦笑いをした。
「俺もこれから行くから、よかったら捜査協力ということで、一緒に来るかい?」
すると、あからさまに百月の表情が明るくなった。
その表情がふと、記憶の中にあるショートヘアの少女と被った。
(誰だ?)
懐かしいような気持ちと、それが誰なのかが思い出せないもどかしさが込み上げた。
眉間に皺を寄せていると、ポンと肩を叩かれ千桜はハッと我に返った。
見ると、百月が心配そうに千桜を見ていた。
「あ、悪い」
短く言うとロックをはずし、車の扉を開けた。
「シートベルトしろよー」
千桜は、百月が乗ったのを確認すると、車を走らせた。
緑葉高等学校は、坂の上にある偏差値がかなり高い高校だ。
勉強だけでなく、部活にも力を入れているのか、県大会出場を祝う紙が学校の表の壁に貼られていた。
学校の中は放課後だからか、ちらほらと廊下を生徒が歩いている。
どの生徒も2人とすれ違うと好奇心を含んだ視線を向けてきた。
視線を浴びながら2人は2階にある校長室へ歩いていく。
トントンと千桜が扉を叩くと、中から「はい。どうぞ」という声がした。
「失礼します」
そう言いガチャリと校長室の戸を開けるとそこには、いかにも「校長です!」といった身なりの丸々とした男性と、スーツを着た少しオドオドした細身の女性が立っていた。男性は2人を見ると愛想のいい笑みを浮かべた。
「どうもどうも。よくお越しくださいました。私はこの緑葉高等学校の校長をしております高瀬と申します。」
「お忙しい中、お時間頂きありがとうございます。警察庁捜査一課、望月です。あと、こちらは調査協力をしてもらっている百月さんです」
千桜は手のひらで百月を示した。それに合わせ、百月はぺこりと頭を下げた。
「なるほど。あとこちらは吾妻光輝くんの担任の鈴木花子先生です」
スーツを着た鈴木先生はぺこりと頭を下げた。
「で、えーっと吾妻くんのことですよね。吾妻くんは成績は普通ですが、とても大人しい生徒でトラブルを起こすような子ではなかったのですが⋯。まさか家出をするとは⋯」
「家出とは限りませんわ。警察でも事件性を考えて捜査しているようですし。そうですわよね?望月さん」
答えを求めるような視線を百月から受けた千桜は「ゴホン」と咳払いをした。
「では、光輝くんがいじめられていたという話には何か心当たりは?」
「イジメ⋯ですか」
千春の質問に校長は額をハンカチで拭いた。
「いえ、そのようなことはありませんが。そうですよね鈴木先生」
高瀬にギロりと見られた鈴木先生はオドオドとすると、下を向きまるで蚊がなくような声で「は⋯はい」と返事をした。
「ということですので、誰から聞いたかわかりませんが、そのような事実はありません。他に何かありますか?ないならこれで」
まくし立てるように言うと、2人を部屋の外に追い立てた。
「また来て鈴木先生に話を聞いた方が良さそうですわね」
「だな。そん時は校長がいない時にしないといけないな」
千桜は頭に手をのせ百月のあとを歩きだした。
夕日が差し込む廊下を歩いていると千桜は教室の1つから話し声が聞こえることに気がつき足を止めた。
「どうかされ⋯」
不思議そうに声をかけた百月に千桜はシーと指を口に当てて見せる。
「⋯カタシロさま⋯に⋯の」
聞き覚えのある言葉に2人は顔を見合わせる。
そのまま話を聞こうとしていると、百月がスタスタと教室に入って行った。
「おい!?」
「こんにちは。今話していたことについて、少しお話をお聞かせ願いないかしら」
「だ…誰ですかあなた?」
「不審者?!誰か呼びますよ」
勇ましくそう言い放つも怯えた様子の2人に百月は微笑みかけた。
「私は、百月探偵事務所の百月と申します。こちらの警察官の望月さんの調査に協力させていただいてますの」
「調査?」
女子生徒に百月は頷き続けた。
「はい。あなたたち吾妻光輝さんをご存知ありませんか?」
すると、2人は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「すみません。私たち1年生なのでちょっとわからないです」
「そうですか。なら、先ほど話していた『カタシロさま』についてお話聞かせていただけないでしょうか」
百月の言葉に生徒2人は少しバツの悪そうな顔をしたあとに廊下の方を見た。
「大丈夫。君たちから聞いたことは誰にも話さないよ」
千桜が言うと2人は顔を見合わせ、少し小声で話しはじめた。
「カタシロサマは、去年当たりから流行りだした人を呪う方法で、まず、この近くにある廃神社で「カタシロサマの使い」って人から「ヨリシロ」?をもらうんです。」
その後を別の女性生徒が先を続けた。
「その「ヨリシロ」に呪いたい相手の名前を書いて四日間持っていて、五日目にヨリシロをもらった神社の御神木の下に埋めたら「カタシロサマ」が名前を書いた相手を呪ってくれるんです。ただ、ヨリシロを埋めているところを見られたら、逆に呪い殺されてしまうらしいです」
(なんか、すごい話になってきたな)
そう思いチラリと千桜が百月を見ると、百月も千桜に視線を向けた。2人の視線が合った時だった。
「こら!あなたたち!何してるの?下校時間はとっくに過ぎてるわよ!」
突然の叱責の声に振り返ると、教室の外には夕日をバックに鈴木先生が腰に手を当て立っていた。
それを見た女子生徒たちは慌てて自分の荷物を持つと、脱兎のごとく教室を出て行った。
「もー、あの子たちったら。すみません。ご迷惑かけませんでしたか?」
そう言い鈴木先生は2人にむき直り困ったように笑った。
「いいえ。とても礼儀正しい生徒さんですわ」
そう言うと百月はニコリと微笑んだ。
「そうですか。あの⋯先程の話なんですが⋯」
そう言い鈴木先生は後ろを振り返り、再び2人に視線を戻すと言葉を続けた。
「さっき校長はイジメはないと話していましたが⋯本当は違うんです。吾妻くんは本当は男子生徒3人にイジメられていたんです。⋯でも校長はこのイジメのことは口外するなと口止めされていたのでご両親にも話すことができなくて⋯。本当にあのタヌキ校長は自己防衛しか考えてなくて!生徒をなんだと考えているのかしら!!」
怒る鈴木先生の首がその時、ヒュルヒュルっと伸びはじめた。
驚愕し言葉を失っている目の前でハッと我に返った鈴木先生の首は、またヒュルヒュルっと元に戻って行った。
「あ、やだ私ったら…えっとすみません今のは忘れてください!」
そう恥ずかしそうに言うと、鈴木先生は逃げるように逃げ去ってしまった。
「⋯なんだ⋯今の」
小さく呟き千桜は百月を見た。彼女は驚いた表情のまま固まっていた。
「⋯大丈夫か?」
「え⋯えぇ」
まだ目を丸くしたまま百月は呟くように言った。
「とにかく⋯ここを出よう」
千桜は百月の腕を掴むと引っ張るようにして教室を出ると、廊下を無言で進み、学校を出た。そして、車に乗り込みそのまま車を走らせ、百月を探偵事務所まで送って行った。




