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第九話 呪鬼

「だよな⋯」


百月を見た千桜は肩を抑えながら、苦々しく言葉を吐き出した。


「百月!俺だ!わかるか?」


千春が声をかけるが、百月は牙をむき出しにし、まるで威嚇するように低く唸り声をあげた。


「理性が吹っ飛んじまってるか」


唇を噛み締め千桜は、ジッと百月の紅く変わったどこか悲しそうな瞳を見つめた。


「グワァァァァ」


まるで悲鳴のような雄叫びをあげ突進してきた百月をかわすように、千桜はひょいと一歩下がった。

腕を大きく振りかぶっていた百月はスカッと宙に腕を振りかぶり、中心を失い前に大きく倒れかかった。

倒れてきた百月の腕を掴み千桜はそのまま地面に押しつけた。


「百月!聞け!お前を助ける方法を見つけた!」


暴れる百月を押さえつけ千桜は続けた。


「落ち着け!でお前が大人しくしてくれないとで…」


最後まで言葉を紡ぐ前に百月は千桜の腕に鋭い牙を当てた。


「っ!百月!」


百月がピタリと動きが止まった。

ハッとした千桜は続けた。


「百月!聞こえるか!」


百月はピョンと飛び退くと、頭に手を当て大きく頭を振りだした。


「百月、しっかりしろ!」


近づく千桜に百月は低くうなり出しキッと睨みつけた。


「苦しいよな。助けてやるから」


ゆっくり近づこうとした千桜に再び咆哮を上げると百月は、千春をつかみあげると壁に向かってぶん投げた。


「がはっ!っ!」


体に痛みが電撃のように伝わり千桜の前が真っ白になり、そのまま壁に背を預けたままズルズルとずり落ち床に転がった。

その時、パリンとガラスが砕ける音と数人の足音が近づいてくるのが聞こえた。

千桜が百月の背後に視線を向けると、息を切らした鴉飛と甘美瑛が唖然とした表情を浮かべながら立っていた。


「えっ?これって……」

「これは…どうゆうことですか?百月さん」


あんぐりとする甘美瑛の横で鴉飛は腰にある刀に手を当てながら低い声で百月に説いた。


「ダメだ、鴉飛さん!百月を直す方法があります!」


千桜が叫んだ時、体に焼けるような激痛が走った。

視線を動かすと、自分の胸を百月の腕が貫いているのが見えた。



「望月さん!」

「切るな!」


切りかかろうとする鴉飛に千桜は怒鳴った次の瞬間、黒い霧が百月を包んだ。


「百……月」


遠のいていく意識の中で、千桜は百月に腕を伸ばす。

すると、黒い霧が晴れそこには、意識を失っているのか瞼を閉じた百月が立っていた。


(戻っ…た?はは…よか…った)


安心した千春の意識は暗闇に溶けて行った。



雨が降る。まるで、全てを洗い流すように…。

濡れた服が張りつく中、千桜は誰かを追いかけていた。

息を切らしながら追っていた相手が曲がった角を曲がると、そこは行き止まりになっていた。

昼下がりというのに、やけに薄暗い路地裏の一角に追いかけている人物が背を向けて立っていた。


 「よーし。観念しろ」


軽く肩で息をしながら千桜はニヤリと笑うと、男に一歩近づいた。

千桜の気配に気がついたのか、立っていた男はゆっくりと振り返った。雨で濡れ衣服は体に張りつき、その体つきを強調し、顔には髪の毛が張りついていた。

そして、頭からは……角がのぞいていた。

目を見張り立ち尽くす千桜に男はゆっくり近づくと、その腕で千桜の胸を貫いた。

 (そっか⋯俺⋯)


「⋯さん!千桜さん!」


千桜を呼ぶ声とポタリと何か暖かい物が頬にあたるのを感じた。


 (雨?)


重たい瞼を上げると、クルクルとした瞳から涙をポタポタと流しながら百月が千桜をのぞきこんでいた。


「百⋯月?」


か細い声で名前を呼び、 百月の涙を拭うと、百月は大きな瞳を更に大きくし、クシャリと顔を歪めた。


「よかった⋯よかったぁ」


百月はホットしたように言うと千桜の手を握りながらポロポロと大粒の涙を零した。


「泣くな、泣くな」


千春は苦笑いを浮かべると百月の頭をポンポンと手を置いた。


「お前は⋯怪我は?」


すると、百月は首を横に振った。


「そっか⋯よかった」


千桜はホッとし笑みを浮かべたあと、鴉飛と甘美瑛に視線を向ける。


「鴉飛さん、甘美瑛さんはなぜここに?」


ホッとした表情を浮かべていた二人は顔を見合わせた。


「班長が、おふたりに何かあったような気がするとおっしゃっていたので」

「そうゆう時の班長の言葉は当たるからねぇ。来てよかったよ」


鴉飛の言葉に甘美瑛は頷くと笑みを浮かべた。


「そうだ。俺⋯」


パタパタと自分の体を触ると、百月に貫かれたはずの胸は元通りになっていた。


「ごめんなさい⋯私⋯本当に⋯」

「お前のせいじゃないだろ。なっ」


またポタリポタリと涙を零す百月の頭を千桜はポンポンと苦笑いを浮かべながら手をのせた。


「でも⋯甘美瑛さんがいなかったら⋯」

「大丈夫だったんだから。もう泣くな」


千桜はまた百月の頭にポンポンと手を置いた。


「甘美瑛さん、鴉飛さん、ありがとうございます」


そう言うと千桜は頭を深々と下げた。


「いえ、僕は何も」

「二人とも無事でよかったよ」


そう言い鴉飛と甘美瑛が微笑んだ時、ガダンと大きな音がどこかでするのが聞こえた。


「今のはなんでしょう?」

「見てきます」


見に行こうとした百月を手で制すると鴉飛は部屋を出て行った。

千桜が改めて周りを見ると、そこは会議室らしく長いテーブルとキャスターがついた椅子、そして千桜が寝かされていた床のそばにあるホワイトボードに誰が描いたのか、ベーと舌を出したへのへのもへじが描かれていた。


 (どんだけ暇だったんだよ。これ描いた奴)


千桜が苦笑いを浮かべた時。


「皆さん!」


部屋の外から鴉飛の声がした。

千桜はゆっくり体を起こすと廊下にでた。すると先程は行き止まりだった廊下の先がぽっかりと口を開け、地下にいく階段が覗いていた。


(地下……。鬼瓦さんが言ってたやつか?)


千桜は、鬼瓦に言われた「地下に気をつけろ」という言葉をふと思い出し眉間に皺を寄せた。


「どう⋯しますか?」


鳴飛が全員の顔を見た。


「下に何か危険なものがあるとは思います」

「それはなぜ?」


鴉飛が尋ねると千桜は続けた。


「ここに来る前に鬼瓦さんに地下に気をつけるように言われたんです。鬼瓦さんの勘がよく当たるなら、気をつけないといけない何かがいるんだろうと思って」

「ならば一度戻って体制を整えてから来た方が⋯」


百月の意見に鴉飛は首を横に振った。


「それはできません。ここは敵によって結界が張られていて出れないんです」

「なるほど。ならなおさら下に行かないといけないですね」


そう言うと千桜は暗闇が広がる地下を見た。


「行きましょう」


千桜が言うと全員が頷き、順に下におりる階段をくだって行った。

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