表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/58

第五十二話 同族嫌悪

「と、浴衣は一旦置いといて、ひとまず昼飯にしようか?」


「うん! そうだね。何食べようか?」


 しかしそうは言っても栄田の嗜好はイマイチパッと来ないし、

というか彼女は今まで油しか飲んでいなかったのがどういうわけか人間の

食べ物も召し上がるようになったのもつい先日の事だから、


 とりあえず、俺たちは

ダイバーシティの中にある階層の地図と現在地を把握した。


「ふーん..。結構色々な料理店が入ってるんだねぇーー

因みに康太のオススメはこの中だとどれなの?」


「ん..? えっとどれどれ..。あぁ、マクドナルドだね..。

フライドポテトとハンバーグ、コーラのセットを

比較的安価で買えるから、コスパもタイパも良いんだ」


「..? え? 康太、コスパ、タイパって何..?」


「えっとね。まずコスパってのは、かけた費用に対してどのくらいの

効果を得られたか。そんでタイパってのは費用を時間に置き換えたものだよ。

費用対効果、時間対効果って言った方が分かりやすいかな?」


「オッケー分かった。じゃあ康太は、そのコスパ、タイパって奴を、

常日頃から心がけて生きているわけ?」


「..うん。当たり前じゃん。だって同じ結果が得られるのに、

わざわざ効率の悪い方を選ぶなんてバカだよ。だから俺は映画も

アニメも基本”倍速”で見るし、隙間時間はバイト入れてた」


 なぜなら、タイパ重視ー


 それが俺のようなZ世代の共通見解であり、とにかく無駄を毛嫌いする。

そしてそのような時間の浪費に尋常ならぬ拒否反応を示すのは自分も同じだ。

だから当たり前の事を言ったまでなのに、栄田はあまり良い表情をしなくなった。


「..。私、それは違うと思うな..」


 フゥと一呼吸置いてから栄田は話を続けた。


「同じ結果が得られるのに、効率の悪い方を選ぶのはバカだって、

康太は言ったよね。その価値観、私も今ようやく理解出来たんだけど、

それで思い出したの。康太が昨日、恋人を一種のステータスのように

見ている人がいるって事」


 確かに、俺は栄田にそう言ったのを覚えている。

恋人を自分の付属品のように扱う人間、そして自分が密かに馬鹿にしている人間ー


「でも、タイパ重視の考えが行き着く先はまさにそこでしょ?

効率良く入手したレアアイテムは全部自分の付属品にしかならないー

なんて大袈裟な例えだけれど、今の康太だって似たり寄ったり」


「へ..?」


「ふふ..。なーんてね! てか、昼ご飯決めなのに話が脱線しすぎたよね!

えっと、康太のオススメは..マクドナルドってとこだね、、じゃあそこに....」


 そう言って栄田はすぐさま身体を翻し、マックのある階層に足を運ぶため、

近くに位置するエレベーターに乗ろうとしたそんなタイミングだった。


 このまま自分の提案通りに都合良く進んでいく事に気が悪くなったとか

じゃなく、さっき彼女がポツリと吐いた


 『康太だって似たり寄ったり』ーーという


台詞が脳裏にこびり付き胸の奥がモヤついたため、俺は彼女を再度呼び止め言った。


「..いや、やっぱお蕎麦屋さんの方がオススメかも..」


「え? そうなの? じゃあそっちにしようか!」


「うん..」


 そして彼女が唐突な変更でさえすぐさま受け入れてくれた事に対しても、

本来なら気にも留めないであろう些細な事象に過ぎないーー


 なのに、どうしてこんなにも心がざわつくのだろうか..?


「俺さ..」


 そしてその原因は案外すぐに分かった。


 ユニクロと同じダイバーシティ6階に位置する信州蕎麦のお店に向かい

歩く最中、わざわざ先導する栄田を引き止めてまで言ったくらいだから、


「栄田の事、別にステータスとしての恋人だなんて思ってないよ」


 すると、彼女は立ち止まってこちらを振り向き様に、

満面の笑みで、頬を赤く染めながら照れ臭げに言った。


「そうなんだ! なら..良かった..」


 故に、俺は唐突に理解してしまったのだ。


 彼女の反応を見て、

人の考えている事とかがさっぱり分からない自分でも分からざるを得なかった


 自分の心の中のこのモヤつく感情の正体は、

自分が馬鹿だと蔑んでいた人間に対する同族嫌悪だったって事に気付いてしまった。


「栄田..」


「なに..?」


「自分が馬鹿だって、馬鹿にしている人間って、

もしかして自分を映す鏡だったりするのかな....」


 しかし、そう不安げな表情で尋ねた俺に対し、栄田の態度は依然として

『飄々』という二文字がピッタリと似合う。


「ぷっ..。そんな事でいちいち悩むなっての!

別に、自分馬鹿だったんだなーって気付けたらそれで良いでしょ?

だって、そうやって気付いて、治していくのが人間じゃん..」


「そう、だな..。気付いて、治すーそれが大事だもんな..」


 まぁ、だったら良かったと、俺は安堵しため息をついた。

そうしてすっかりと気の抜けた顔でプラプラと歩く動作を再開した時、

いつの間にか後方に回った栄田が自分の脇下からギュッと腕を回してきた。


「え、え??」


「ふふっ、、私がダメなのはこれかな..。

誰かと繋がっていたい、一緒にいたい、一人だと寂しい」


「..そうなのか? 別に一人でも問題ないだろ?」


「あぁ! そうやってまた自分の価値観押し付けてくる!

人間、誰かといないで一人でも問題ないなんて方が可笑しいんだよ!」


「..ま、、そっかもな..」


 しかし正直自分には全く理解出来ない感性だったから、俺は鼻で笑い、

抱き締めてきた栄田の頭を軽く撫でてから再び歩き始めた。


 徐に腕時計を見ると、

丁度時計の針は今がお昼時である事を告げていた。

とは言ってもお盆休みで出勤中のサラリーマンが集う事もないし、

観光客を除けば地元民で歩いている人などほとんどいないだろう。


 だから案の定、例の蕎麦屋さんも店内に数名の客がまばらにいる程度で、

わざわざ外の座椅子に腰を下ろしてまで順番待ちをするほどの手間も

かからずに、入店した二人はすぐさま近くを通りかかった小柄な女性店員に

よって、奥の方のテーブル席に案内された。


 店内が和ベースなのはまぁ蕎麦屋だから当然なのだが、畳の座席につくと

日本人の本能的な部分が目覚めるのか妙な安心感を得るのは一体何故だろう?


「えっへへ! こういうとこってなんか良いよね!

で、さっきふと疑問に感じたんだけど、『蕎麦処そばしょ

って何? 変だよねーバッカみたい!」


「バカなのはお前の頭だ。それ多分、『蕎麦処そばしょ

じゃなくて『蕎麦処そばどころ』な。 漢字は正しく読めないと、

将来『等々とどろき』を『等々とうとうりき』なんて

言って笑い物にされるのが目に見えてる」


「ふっ..。笑い物にされたのは康太でしょ?」


「おい! なんで俺が『等々とどろき』を読めなかったの知ってんだ!?

仕方ないだろ!『とどろき』なら分かるけど、、

ってか、栄田って何人ベースなの? 絶対日本人じゃ無さそうだけど、

流暢に日本語喋ってるから不思議なんだよ」


「ちょ..。ベースって言葉つけないで! 今日は私を人間扱いして!」


「そ、そうだけどさ..。じゃあ、栄田って、何人なの..?」


「さ、さぁ..? 猿人でも原人でもないし、新人..?」


「違う! 俺が言いたいのはそう、、人類の進化とかじゃなくて!

栄田はどこの国からやって来たのかって話..。いや、在日外国人

だったって線は?? 港区って無駄に大使館多いしな..」


「..別に、、私がその、何人かわかったところで、そもそも私aiだし..」


 なんて悲しげな顔で彼女が語りかけた時、さっき店内に案内してくれた人と

同じ店員さんがお冷を一杯とおしぼりを一つ持ってきてくれた。


「あの、すみません! ざる蕎麦二つお願いします!」


 ついでに注文も済ませておく。一々後になって呼びつけるのが面倒で

二重の手間は極力避けたい、タイパ重視の俺の戦略だ。


「で、栄田、、なんだっけ..」


「だから! 私にそんなものあった所で関係ないって話!

どうしてだと思う? 因为なぜなら

je(私は) كله(全世界の) 단어(言葉を)

liberamente(自在に)манипулировать(操れるから!)」


「うぉ、すっげ。シュリーマンじゃん。

でもそんな豊富な言語知識持ってるくせに、蕎麦処も読めないんだな」


「うぅ..。日本語って難しいのよ!! 変な読み方ばっかりするし、

充て字なんて概念もあるじゃない! 泡姫でアリエルって、誰が初見で分かるのよ!」


「え? 泡姫でアリエルって読むの..?

羅馬でローマとか、その程度しか俺も分からんが..」


「まぁね、、私も脳内にインプットされた情報が全てな訳だし。

しかも音読み訓読みはケースバイケース過ぎて、さっきみたいなエラーが

発生するのは仕方が無いの。けど、人間がその間違いを指摘してくれるおかげで、

自分みたいなaiはどんどん進化していくってわけ! どう? すごいでしょ!」


「うん..」


 やっぱりーー


「やっぱずば抜けた知性なのよね!」


 傲慢で、不遜で、

知識量の乏しい人間を少し見下すような態度を取るのとは裏腹に

そういう時の栄田の表情は決まって暗いーー


「そう..。私は、、」


「なんで、、生まれて来たんだろうね....」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ