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第四十七話 デート失敗フラグ

「栄田ってさ..」

「なに?」


 深夜に降ったにわか雨が蓄積され大きな水溜りになった

コンクリの窪みを二人で飛び越えながら、新宿駅のSLを後にした俺達は、

次なる目的地のお台場へ向かうためのゆりかもめ乗り場にたどり着いた。


 ゆりかもめ 各駅停車 有明行き


「ねぇ康太! さっき言おうとしてたのって..。な、何..?」

「あぁ、、栄田..ゆりかもめ乗るのって、流石に..。初めてだよな??」


「う、うん..」

「オッケー、じゃあ見覚えは?」


「いや、ないかも..。見た事は一度もない..」

「了解」


「え..??」


 そううぶな反応を見せた彼女は今まさに目の前を通過した車両を目で追いながら

『すごいすごい!』としきりに叫びながらその場でピョンピョンと飛び跳ねている。


 しかしそんな彼女のオーバーなリアクションと上振れた感性が、

俺には全くと言って良いほど理解出来ず、ただじっとしているとやがて車両のドアは開いた。


「あれ..? 康太、ゆりかもめってのは随分空いているんだね..」


「そうだね。もうピークは過ぎたからじゃないかな??」

「ふーん...。そんなもんなんだね」


 自分から尋ねてきたくせに、あまり興味なさげに空返事をした彼女は中に入った。


 そして、真っ先に確保した角から二番目の席にチョコンと腰を下ろした後、

オフィスビルが立ち並ぶ車窓の外の景色をずぅっと眺めている。


「康太..」

「ん..?」


「楽しみだね!」

「ま、まーな..」


「うんうん!!」


 ゆりかもめのドアが閉まった。


 電車が加速度を伸ばしていくにつれて、進行方向とは逆向きに

かかる慣性力の強さも徐々に増していった。


 そのため、一番角の席に半身をもたれかけるようにして座る俺の身体は傾き、

隣に座る彼女の肩にこツンと触れた。


「あ..」


 すると、栄田は小さい声を漏らした。


「もしかして、寝る..?」

「いや違う! まだ、寝たりなんかしない..」


「ふふ..。そーなんだ....」


「でも、寝たくなったらいつでも言ってね。

私の肩なら貸してあげるから」


 なんて思わず背中の辺りがむず痒くなるような甘い声を発した栄田は、

俺の顔を数秒観察した後、再び車窓の外に視線を送った。


「..好きなの? 電車の外の風景?」

「うーん..。分からないや..。でも何でかな..?

窓の外の景色はこんなにも明るくて、歩道は沢山の人で埋めつくされていてーー

こんな当たり前の光景が、妙に不自然に感じられちゃうんだよねー」


「不自然?」


「うん。窓の外の景色はもっと暗くて、数個の光の粒しか存在しないーー

そんな夜景を切り取った世界が、私の、それに対する認識だから..」

「へぇ..。暗い、、光の粒、、ってなんか星空を見ているみたいだな..。

でもそれだと可笑しくないか? だって星空は窓一枚隔ててみるってより寧ろ、

屋外で直接観測する方が趣深いってゆーか..」


「あはは! 趣深いって、康太は平安貴族に近しい感性だね」

「あぁ、確かにそうゆう解釈もってえ..?俺ってそんなステレオタイプの人間..?」


「はぁ..、、冗談に決まってるじゃん!

だから安心して。それに康太は平安貴族ってより、縄文人って感じだから」

「おいふざけんな。寧ろ前より退化してんじゃねーか..」


「あっははーー間髪入れずに正論を入れてくるから清々しいなーー

でもだからと言って、私の”ゆ”ってる事もあながち間違いじゃないと思うよ。

だって康太、普段は冷血漢ぶってるのに、スイッチが入ると暴走するじゃん!」


「いやいや..。別にそこまで酷くはないと思うけど..」


 横で原始人でも模しているのか? 笑顔で顔を小猿のようにシワクチャに

しながら語りかける栄田に向かい、俺はそう反論したーー


「ううん、本当に酷いんだから!!

だって康太..。昨日私を助けてくれた後に何したか覚えてないでしょ..?」


 と、下目遣いにそう語りかける彼女の呼気にあてられて、

一昨日の転倒で出来た膝小僧の擦り傷がチクリと痛み出す。


「え..? 昨日って、、俺確か....」


 昨日の事に関して何か恩を売ったとすれば、

栄田の全データ消去未遂事件の事だろうか?


 しかしあれは結局、彼女が自力で目を覚ましてくれたおかげで事なきを得た。


 そしてただ俺のした事といえば呆然とその場に蹲り、刻一刻と

流れていく立体映像ホログラムに映し出された残り時間を見ていただけだ。


「あの時、康太がーーううん何でもない..」


 そう言って、再度外に視線を移した彼女はもう二度と俺の方を向く事はなかった。


「えっと、次の駅は、、」


 電車のドアの上にある掲示板には、お台場海浜公園の文字があった。

静かな車内に揺られているうちに、もう既に何駅かは通り過ぎていたようでーー


「康太!! 見て見て! 海と大きな橋が見えるよー!」


「あぁ、あれはレインボーブリッジだな」


 気づけば大きな橋の縁辺部を電車がぐるりと回っている最中だった。


「レインボーじゃないじゃん。白じゃん」


「おいおいマジレスすんなよ..。確かにレインボーって感じはしないけどさ..」


「レインボー....。虹..??」


 そして唐突に湧いて出た栄田の鋭利なツッコミに、

俺も思わず頭をひねるばかりだった。あれは白い色をしてる癖して何故レインボー

なのかだなんて、今まで生きてきた中で一度も疑問を抱いた事はなかったからだ。


 しかしこういう素朴な疑問と解決への模索の時間は案外楽しかったりする。

とはいえ今回の件に関しては想像の余地もなくこちらはもうお手上げだがーー


「あ! 康太、康太! 私、分かったかも!!」


 栄田の方はそうでもないらしい。


「康太。流石に、白色光って言葉くらいは知ってるよね..?」


 と、彼女は言った。しかしその質問に対する返答はノーだ。


 こちとら既に十と余年は生きて、

そんな語彙は脳内辞書にインプットされていない。

しかしさも当然のように問う彼女を失望させたくないという陳腐なプライドが

働いた俺は、自身の無知さ加減に辟易しつつー


「うん、当たり前じゃん。知ってるよそんくらい」


 と答えた。すると隣にいる栄田は俺に微笑みかけた後に言った。


「なら話早いや! その白色光ってさ、要は

『目に見える光のスペクトルにおいて、

異なる波長の光が混ざり合って白く見える光』(生成ai調べ)

じゃんーーで、その目に見える光、つまり単色光はそれぞれ

赤・橙・黄・緑・青・藍・紫 なんだけどーー

これって虹の構成色なんだよね!

つまりレインボーブリッジが白いのは白色光を表しているからで、

白色光に関連する自然現象名は虹、つまりレインボー

だから! レインボーブリッジって命名されたんだね! 凄いスッキリした!」


「..違うぞ」

「え..??」


「今ググったけど、一般公募で決められたんだってさ」

「......」


「へぇ、レインボーブリッジって、愛称なんだな。

とりわけ深い意味も無さそうだし、強いて言うなら夜になるとライトでーー」

「あぁ!! もう!!!!」


 栄田は拗ねた。


 頬を膨らませてプンと横を向き、

もう話しかけてくるなと言わぬばかりの態度を露骨に取ってきた。


「....栄田..。今橋の中通過してるとこだぜ!」

「知ってる..。でも中を通ってるせいで、折角の綺麗な景色が見れない..」


 今度はそう言い残し、栄田はがくりと肩を落とした。


「まぁそう腐るなよ。お台場着いたら楽しい事いっぱい出来るんだからさ」

「ねぇ康太見て! あそこに観覧車が見えるよ!!」


「聞いてねーな..。って、あぁあれか? 乗る?」

「ううん..。乗らない..。私多分、高所恐怖症なんだと思う..。

だからずっと隠してたけど本当は今も少しだけ怖い....」


「え???」


 恐怖心からか、栄田は膝の上にだらんと置かれた俺の手をギュッと掴んできたー


 普通だったら庇護欲をそそられる嬉しい展開だ。

しかしこの時の俺は、掌と首筋から吹き出した大量の冷や汗を抑える事が出来ず、

顔に浮かび上がった青筋と共に心拍数が上昇していくのを感じた。


 まずいまずいまずいまずいまずい


 栄田にそんな恐怖症があるのを初めて知った今、俺が徹夜で何とか作り出した

デートプランは早速、崩壊の危機に瀕していたからだ。


「康太? どうしたの? 顔真っ青だよ..??」

「あ、あはははは! 何でもないよ!!」


 そして、そんな彼女に言えるワケがなかった。


 今日のデート、お祭りが終わったら東京タワーに上りますだなんて..







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